シャルロットに必要なもの
姿を消しながら森まで戻って来たところでキティルリアは、身体を構築していた魔素を吸収してシャルロットに戻る。その傍にラスティーナが姿を現す。
「良き人材を見つけましたか?」
「う~ん……まぁ、成長すればかな。ところで、魔王としての威厳は示せたと思う?」
シャルロットが一番に気にしたのは、そこだった。武力で支配するつもりは全くないが、それでも魔王としての立場を示す必要はある。そのために魔王としての威厳をある程度示さないといけない。それが出来ていたか心配になっていた。
ラスティーナは、シャルロットの確認に頷く。
「はい。ある程度は示せていたかと」
「そっか。それなら良かった」
ラスティーナが認めてくれているという点から、しっかりとキティルリアの頃に戻れていたという事が分かり、シャルロットは安堵する。そして、次に考えたのは先程訪問した集落についてだった。
「あれで崩落する可能性は限りなく低くなったはずだけど、いつまでもあそこに暮らさせる訳にはいかない」
「この国に居場所をお作りになるのですね」
「それが出来れば一番かな。その足掛かりにアコニツムを使えればって感じ。でも、問題はいくつもある」
「現在の代表者であれば、ある程度話を理解すると思われますが、アコニツムだけを変えてしまえば、アコニツムが他の人間達から敵対する形にされかねない。そういう事ですね」
「正解」
今からアコニツムだけを変えた場合、アコニツムだけが魔族と友好関係を結ぶ街となる。魔族を悪と教えられている以上、そんな場所があれば人類の敵となったと考えられても仕方がない。
そんな事になればアコニツムは、一気に滅ぼされてしまうだろう。異端者の集まりを殲滅するという理由は大義名分となり得る。それでは全く意味がない。シャルロットが望む平和ではなく争いを生むだけなのだから。
「一気に複数の街でやる必要があるつまり、今必要なのは根回し。どうにか交渉出来れば良いけど、不用意に私の正体を晒す訳にもいかない。だから、交渉じゃない根回しをする必要がある」
「魔王として人間と手を取りたいという意志を伝える事ですね」
「うん。揉め事への介入。それは人間同士のものである程有り難い。人間同士の争いに首を突っ込み、平和を訴える。魔族がいると魔王が魔族の味方をしているだけに見えるから。大分難しい事だけど、その点を使って少しずつ侵蝕する事が重要かな……アコニツムでは、住人全員に存在を知らしめさせる事が出来た。だから、必ずしもジョンソン司令官が実権を握ってる時にやらないといけないわけじゃない。その方が都合が良いってだけ」
理解力のある人間が代表者になっている現状は、シャルロットにとって都合が良い。だが、それでも進める順番は大事だった。シャルロットはアコニツムを危険に晒したい訳では無いのだから。
「ねぇ、昔の私を知っていて直接の配下だった魔族は、どのくらいいる?」
「三人程。ですが、大陸が異なります」
「管理それぞれ管理してくれてるって事ね。連絡手段は?」
「電話はありますが、電波が繋がる場所にいない事の方が多いので。魔王様復活の知らせも送りましたが、返信がありません」
魔族の集落がある山奥などから電波を飛ばす事は出来ない。付近に基地局などないからだ。常に移動している訳でも人間達の街に潜伏している訳でもないため、返信が一時間以内に返ってくる事の方が珍しい。寧ろ、一ヶ月、二ヶ月開く方が当たり前だった。
「そっか。私も電話欲しいな……」
小遣いで買える程教会は裕福ではない。そのため電話が欲しいと言っても買う手段ない。
「取り寄せますか?」
半ば諦めていたシャルロットは、ラスティーナのこの言葉に驚く。その驚きは、電話を買える程のお金を持っているのかという驚きだった。だが、すぐにラスティーナが何故そんな事を言えるのかという理由に心当たりがある事に気付いた。
「ああ、そっか。あの商会が生きてるなら、取り寄せも出来るだろうね。よく潰れなかったよね」
シャルロットが口にした商会は、キティルリアが長く利用していた商会であり、長く交流を続けていた商会だった。キティルリアは乗客であり、商会の興りの出資者でもあった。この辺りの繋がりが、現在でも魔族と交流を続けている理由の一つだった。
人間だろうが魔族だろうが客である事に変わりはない。そして、魔族は自分達を大商会になるまで支えてくれた上客。創始者から何代にも渡ってキティルリアと関わっていた事もあり、商会の代表はキティルリアへの感謝を代々受け継いでいた。
ラスティーナも何度も顔を出しているので、商会の代表者とは友人になっている。ラスティーナ達の窓口は、表の商会とは異なっている。裏でもう一つ小さな商会を営んでおり、そちらを通じての商売となっている。大商会の方で問題にならない理由はその点にあった。
「何度か危ない状況にはなっていましたが、その度に建て直していますので」
「挨拶に行きたいんだけど、私も行ける場所にある?」
「いえ、本部は中央大陸ですので。支部にしても部署がアコニツムにはありません。私達が利用する方は小さな商会になりますので」
「そっか。リスクを減らすなら、そのくらいはするよね。それならセントレアに行くときに挨拶かな。取り敢えず、電話はお願い」
シャルロットは、遠慮せずに注文する事にしていた。実際必要なものではあるからだ。
「はっ! では、注文しておきます。港に取りに行きますので、一時的にアコニツムを離れてしまうのですが……」
「了解。私も勉強する時間が必要だから、全然大丈夫だよ。そもそもセントレアに行ける知識を持たないといけないから」
「……畏まりました。では、そうさせて頂きます。他に必要なものはございますか?」
「う~ん……特には」
「畏まりました」
アコニツムの近くに来たところで、ラスティーナはメールで注文を送りつける。返信は即座に返ってくる。これが基地局が近くにある人間と何もない魔族との差だった。
「明後日に取りに向かいます。二日程空ける事になりますので覚えておいてください」
「分かった。それじゃあ、コツコツとやっていきますか」
「はい」
自分達の目的のため。シャルロットは、必要な事を少しずつ積み重ねていく。それは魔族達との繋がりであり、人間達への干渉。だが、その前に片付けなければならない問題がシャルロットにはあった。
それはシャルロットにとっても、今後に関わる重大な事だった。




