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転生魔王の復讐革命  作者: 月輪林檎
魔王として聖女として

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集落の安全補強

 それから十分程で、集落の住人全員が集落の中央に集まった。その真ん中にキティルリアが浮かぶ。高台がないので、空を飛ばなくては後ろの魔族達が見えないからだ。

 キティルリアは、周囲を見回しながら声を張る。


「私はキティルリア・リリア・リルスリア。魔王を名乗っている」


 キティルリアがそう言うと、住人達が困惑したようにざわめき出す。オニオンのように初代魔王の話を伝え聞いている者ばかりではないという事が、よく分かる光景だった。


「魔王……?」

「おい……もしかして徴兵か?」

「人間と争って何になるんだ……?」


 ざわめきの内容は大体そのようなものだった。暗い雰囲気が伝播していく。魔族達にとって魔王とは争いの象徴だという事がよく分かるものだった。


(魔王という名前が戦争に繋がるようになっている……本当に過激派の中でも馬鹿が魔王になったのか……)


 キティルリアは、自分の理想を次の魔王達が受け継いでいなかったという事を実感させられていた。だが、それはキティルリアには関係ない。何故なら、最初から徴兵などしないからだ。


「私は人間との和平を考えている」


 そう言った瞬間、ざわめきが更に広がっていく。それに対して、キティルリアは手を鳴らして静まらせる。魔力による圧よりも冷静にただ手を鳴らすという行為の方が住人達には効果的だった。


「どちらか絶滅するまで争い続ける。それがどれだけ愚かな事か。無限に続く戦争を子供に強いていく事のどれだけ愚かな事か。それは皆も十分に理解しているだろう。押し込められた恨みを持っている者もいるかもしれない。だが、やられた事を返せば、更に返されるだけだ。この連鎖を断ち切らなければ、無駄な犠牲が増えていくのみ。

 だから、ここで終わらせる。皆にも力を貸して欲しい。争い合う時代は終わりだ。これからは歩み寄る時代だ」

「で、ですが、私達は何をすれば……」


 力を貸して欲しいと言われても、集落の魔族達は戦いたくない者達が多い。仮に戦わないにしても何を手伝えば良いのか見当も付かなかった。


「一つは、人間に危害を加えるな。向こうから攻撃されたのなら反撃しても良い。だが、こちらかは絶対に仕掛けるな。向こうに敵対するだけの理由を作らせるな。

 もう一つは、この場所から出る。だが、今すぐじゃない。これから先、私が交渉していく事で人間と魔族が共存する場所が出来るかもしれない。その時、そこに住んで欲しい。これまでの生活からは一変してしまうだろう。こちらの生活の方が良かったと思うかもしれない。だが、お前達が歩み寄ってくれれば、戦争がなく平和で自由に生きられる時代を子供達に残す事が出来る。

 どうか、よろしく頼む」


 そう言ってキティルリアは頭を下げた。魔族達の王である魔王が、庶民である自分達に頭を下げる。その光景は、集落の魔族達にキティルリアの力になっても良いではと思わせた。


「任せて下さい!」

「平和な時代を! 誰も傷付かない時代を!」

「子供達のために!」


 その声は次々に伝播していく。キティルリアを指示する者達が増えている事が分かる。それを見たキティルリアは、胸の中に火が灯るのを感じた。それはかつて抱いていたものと同じ火だった。

 その火は、一人の愚王によって砂を掛けられてしまったが、今回はそのような事させない。その強い意志がキティルリアの中で出来ていた。

 こうして争いを好まず平和を求める同志となり得る魔族達が残ってくれている事もキティルリアの心の支えになっている。


「皆の協力感謝する。その見返りという訳でもないが、この場所の整備をしている者はいるか?」

「私です」


 側頭部から巻き角を生やした女性魔族が手を上げてキティルリアの元にやって来る。キティルリアは地面に降りて前に立つ。


「ピピルカ・ノギア・リフーデンです」

「ピピルカ。この集落の骨組みとかを強化するから付いてきて」

「は、はい」


 そう言ってキティルリアが飛行魔法で移動しようとすると、ピピルカは地面を走って移動しようとしていた。それを見たキティルリアは、少し浮いた身体を地面に降ろす。


「飛行魔法は不得意?」

「は、はい。申し訳ございません……」


 相手が魔王という事もあり、ピピルカは少し緊張しながら答えた。先程名乗り出た時は、キティルリアは周囲にも意識を向けていたので手を上げられたが、今はキティルリアの意識が自分に集中している状態なので、余計に緊張している。


「ラスティ、魔族の飛行魔法習得率は?」

「六割というところでしょうか。若い魔族は、まだ習得していない者が多いと思います」

「そう。なら、習得しなさい。飛行魔法があるのとないのでは生存率が大きく変わるから。まずは身体を浮かせる感覚に慣れること」


 キティルリアはそう言って、ピピルカに飛行魔法を掛けて浮かす。制御はキティルリア側なので、ピピルカから移動する事は出来ない。だが、身体を浮くという感覚は覚えられる。


(他人に飛行魔法を使って完全に制御してる……? こんな事集落の誰も出来ない……それをいとも簡単に……)


 魔法の練度からピピルカは改めて目の前にいるキティルリアが魔王であるのだと認識する。そんなピピルカにキティルリアは普通に話し掛けていく。


「ピピルカは理論派? 感覚派?」

「え? えっと……」


 唐突に問われたピピルカは、少し戸惑っていた。そんな様子を見たキティルリアは、ピピルカがまだ自分がどういう風に魔法を使っているのか理解していないのだと判断した。


「まぁ、若い内は分からないか。この集落の整備をしている時にどういう風にやっている?」

「えっと……見たものを信じて使っています……」

「感覚派か。今の飛んでいる感覚と魔力の流れを感じ取って。高さが怖いかもしれないけれど、魔素で身体を包めばそうそう死なないから。魔素の扱いは?」

「少し得意です」


 ピピルカは、そこだけ少し自信を持って答える。魔素の扱いに関しては、集落の中でも上位にいるという自負があるからだった。


「そう。まぁ、そうでないと整備なんて出来ないか。感覚派なら丁度良い。私がやる事をしっかりと見ておいて。見ただけで出来るようになるようなものじゃないけれど、ピピルカの中で一つのイメージに繋がる。魔法において重要なのは、イメージと魔力の操作。その中で難しいのがイメージ。自分がしたい事をしっかりと理解しておかないと、魔法も使いようがないから」

「は、はい」


 返事をするピピルカに微笑んだキティルリアは、集落の端に降りる。そして、その壁に手を触れた。


(壁の厚みは……洞窟の距離分くらいか。上に行く程薄くなる。骨組みで全体を支えて崩落を防いでいる。これなら魔素を使えばより安全になるかな)


 そう判断したキティルリアは身体を構築する魔素はそのままにして、体内に溜め込んでいた魔素を放出して壁に沿って流していく。その膨大な量の魔素を目撃した集落の住人達は目を大きく見開いていた。間近で見ているピピルカは、身体が勝手に震え出していた。

 同じ魔族でありながら、自分達との決定的な差がある。ピピルカ達から見れば、キティルリアは魔族や人間の枠内にいない。自分達では理解出来ない存在としか見えなかった。理解出来ないという事は、それだけ恐怖の対象もしくは興味の対象となる。ピピルカの場合は後者だった。


(魔素……多すぎる……しかも、ただ放出してるんじゃない。壁や骨組みに沿ってしっかりと操ってる。この量を? 一体どんな頭の造りをしてるんだろう……)


 キティルリアは、集落の壁と骨組み、柱に十分な魔素が行き渡った事を確認する。


「それじゃあ、改良するからよく見て」

「は、はい!」


 ピピルカの返事を聞いたキティルリアは魔素に魔力を流す。

 すると、骨組みと壁がより深く接続され、骨組みの強度が上がる。さらに骨組みを対角線上に結ぶ新しい骨が出来上がり、より頑丈でしっかりとした骨組みとなる。壁も全体的に頑丈になり、互いを強く支えるようになった。柱もより頑丈になり耐えられる重さが増える。集落を守る壁、骨、柱が一新され、集落全体がより安全になっていた。

 それをピピルカも見て理解出来た。見た瞬間に『あっ、もう崩落しないわ』と思った程に。


「建材は……もしかして魔素ですか?」

「そう。魔素を魔力で変質させて建材にした。魔素を自分達の力だと捉えるのは間違っていないけれど、魔素はもっと自由なものと考えた方が良い。魔法と同じ。これをやれるようになりたいのなら、最初は魔素から鉄球を作りなさい。最初は出来もしないし、出来ても歪なものばかりが出来る。それでも改善をし続ければ、真球を生み出せるようになる。そうして魔素の操作と変質を学んでいきなさい」

「は、はい」

「後は、岩の裏に扉を付けるから、付いてきなさい」

「は、はい!」


 岩の後ろに扉と格子状の壁を作るキティルリアの作業を見たピピルカは、更に自分との差を理解させられていた。


(天と地の差が短いと思える日が来るとは思わなかったな……)


 最早ピピルカの中に劣等感の文字もない。そんな事を考える事が烏滸がましいくらいの実力の差がそこにあったからだ。抱いたのは、憧れ。いつか自分もあの足元に立ちたいという憧れだった。


「ひとまずこんなものか。扉を格子状にしているから空気の流れは阻害しない。網よりも頑丈だから突破もされにくい。中で育てている作物にも影響しないと思う。人間達が攻め込んできても少しは耐えられるとは思うから」

「はい」


 作業を見せられても半分も理解出来ていない。いや、一割も理解出来ていないという方が正しい。だが、それでもその目にキティルリアの作業を焼き付けているためイメージの一部は構築されている。鍛錬を欠かさずキティルリアの期待に応えようという意志がピピルカの中に芽生えていた。


「それじゃあ、今日のところは帰るとしよう。ピピルカ」

「は、はい!」

「感覚派のあなたなら、毎日練習すればコツを掴める。大事なのは?」

「イメージと操作です!」

「宜しい」


 キティルリアは、しっかりと自分の言った事を復唱出来たピピルカに優しく微笑み掛けてから、オニオンと集落の住人にもう一度挨拶をしに向かう。

 それらが終わったところで、ラスティーナと共に集落を後にした。

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