魔素の補給
一週間後。シャルロットは、ラスティーナと一緒に街の外に出ていた。マザー・ユキムラとリーシェルから許可を得たため、門から街の外に出る事が出来る。
ラスティーナは、シャルロットの遠い親戚という事になっている。最近判明したくらいに遠い親戚なので面識はなかったが、シャルロットの事を知り会いにきたという形だ。
そこで話をしていく中でシャルロットが懐いたという設定としている。更に元冒険者という設定もある。実際ダンジョンには何度か入っているので、全てが嘘というわけでは無い。
ここに加えて、アコニツムで移動する時には互いに手を繋いで歩く事にしていた。こうする事で、シャルロットがラスティーナに懐いているという事の証明になるからだ。
もう一つ変わったのは、前以上にシャルロットがアコニツムに受け入れられているという事だった。アコニツムで起こったアコニツム市議会議員の虐殺未遂事件の際、シャルロットが聖女の力を有している事が街中にバレてしまった。
魔族の魔素と人間の聖女の力。二つの力を持つ存在故に少し困惑される存在となったが、人間達を救った事は事実なので、名前を呼ばれる事や手を振られる事や挨拶を受ける事が多くなっていた。元々の知り合いなどは特に声を掛けてくるようになる。教会に遊びに来るユウキなどがそうだ。
「さて、受け入れられるのは嬉しいけど、お菓子を貰いすぎるのは困る。これから魔物から魔素を吸いに行くのに」
「お菓子を食べながら言っても説得力が有りませんが」
ラスティーナの指摘通り、シャルロットは貰ったお菓子を頬張りながら森に向かっていた。
「貰ったものは食べないとね。教会に持って帰ったら、リーシェルの管理になるから、今の内にある程度食べる」
「子供のような事を言わないで下さい」
「今は子供だし」
「では、私は親戚の姉としてお菓子を没収します」
「ああ~……」
お菓子を取り上げられたシャルロットは情けない声を出すが、ラスティーナは容赦せずに取り上げた。そして、魔法陣の中に放り込む。
「空間収納魔法だっけ。便利だよね」
キティルリアが倒れ、シャルロットとなるまでの間に生まれた新しい魔法である空間収納魔法。魔力の総量により、内部に保管出来る物質大きさや量に限りはあるが、人間達から逃げながら暮らす魔族達にとっては重要な魔法だった。
「魔王様もお使い出来ると思いますが」
「うん。もう習得したよ。ラスティが教えてくれたからね。ようは自分だけの異空間を作って接続させるって感じだから、割と分かり易いよね」
シャルロットは、ラスティーナに一度教えてもらっただけで後は自分で練習して使えるようになっていた。この辺りはキティルリアの時から同じであるため、ラスティーナも特に何も思う事はなかった。
「魔王様の容量は……いえ、気にしないでおきましょう」
「やろうと思えば、街丸ごと仕舞えるんじゃない?」
「気にしません。それよりも、魔素の補給をしなければ、魔族の集落に入る事も出来ません。目的達成のためにやらなければならない事はしっかりとやりましょう」
「分かってる。それじゃあ行くよ」
「はっ!」
シャルロットが先頭になって駆ける。二人とも魔力により身体能力を向上させているため、速度は異常に速い。体格の差があっても、シャルロットの方が速度は上だった。なので、シャルロットがラスティーナに合わせるように動く。
魔物は全て角を持つ。魔族のように大きく太い角ではなく、基本的には小さな角だ。それが魔素で出来ている事をシャルロットは察している。ラスティーナの角を消す理論から簡単に予想出来るからだ。
つまり、この角が無くなるまで魔素を吸えば、全ての魔素を奪った事になる。
シャルロットは、捻れた角を持つ熊の頭に、走ってきた勢いを乗せた膝蹴りをして意識を昏倒させてから頭を鷲掴みにし、魔素を吸い出す。
「相変わらず鮮やかな魔素支配です」
「でも、ラスティも出来るようになってるでしょ?」
そう言われたラスティーナは、少し目を見開いていた。
「さすがに分かるよ。魔素を封印出来る程魔素の扱いに精通したなら、魔素の支配も出来るようになると思うからね。私みたいにとはいかなくても、ある程度は吸収出来るんじゃない?」
「仰る通りです。この方法は魔族の護身のために必要と考えて、ある程度技術として確立して広めています。ですが、魔素の扱いをここまで極めるのは時間が掛かるようで、私以外に出来る者は少ないです」
「私は最初から馬鹿みたいな量があって、子供の頃は常に魔素で遊んでたからなぁ。皆とは前提が違うか。まぁ、それでもラスティみたいに封印する事は、多分出来ないかな」
「シャルロット様でも魔素の量は私の百倍以上ですからね」
「それは言い過ぎ」
シャルロットはそう言うが、実際にラスティーナとの魔素量の差は大きい。ラスティーナが湖くらいの魔素量だとすれば、シャルロットは世界に広がる海くらいの魔素量がある。キティルリアの身体になれば、惑星の枠に収まらない。そのくらいの差があった。
「それにこんなに沢山の魔素を持っていたって、その全てを扱えないなら意味ないよ。私が扱える魔素の量は少しずつ増えてるけど、まだまだ最大で一割くらいかな。ただの放出ならもっと多くなるけどね」
扱いは雑になるが、ただの放出ならアコニツムを覆う事が出来る。そして、魔素に集中して良いのなら、その全てに触れるものを感知出来る。情報量は凄まじいが、精査して同時並行でいくつもの作業をしなければならないような状況にならなければ問題はなかった。その状況になれば、シャルロットでも異常に消耗する事になる。
「これで全部かな」
シャルロットが魔素を吸い尽くすと、熊の魔物は角を失って倒れた。呼吸はまだある。魔素を吸い尽くしても死なないという事が分かり、シャルロットは少し首を傾げてラスティーナを見る。
「どう思う?」
「ただの熊になったかという事なら、それはないかと。魂の魔素まで吸い尽くしたとしても魂は魔素を作り続けます。いずれは魔物に戻るかと思われます。一時的なものと見る方が良いはずです」
「まぁ、そっか。ここで狩っても、街に持ち帰るのは面倒くさいから、この方法で吸い尽くそう」
「お金になりますが」
「私が森の中に入ったって知ったら、街の人達の噂の的だよ」
「なるほど」
シャルロットは、熊を地面に転がして駆け出す。ラスティーナも遅れずに付いてくる。それを見たシャルロットは、ラスティーナの成長を実感する。シャルロットの動きにしっかりと付いてきているからだ。速度はラスティーナに合わせたとはいえ、シャルロットの動きに遅れず反応しているというところに成長を感じていた。
「ラスティが修行を欠かさなかったって事がよく分かるね」
「現在はシャルロット様の身体という事が大きいと思われます。キティルリア様のお身体でしたら、最初の反応も難しいと思います」
「まぁ、向こうは素の身体能力も魔族だからね。もう少し速度上げても良い?」
「はい」
シャルロットは、更に速度を上げて魔物の元まで駆けていく。ラスティーナは、そのシャルロットにぴったりと張り付いて付いていった。
そうして、再び熊の魔物を捕まえる。今度は二頭を昏倒させて魔素を同時に吸っている。その姿を見て、ラスティーナは少し疲れたような表情になっていた。
「私として、シャルロット様が異常だと思います」
「ん? 何が?」
魔物から魔素を吸いながら、シャルロットは首を傾げる。シャルロットが自覚している異常なところが多いので、一体どれの話をしているのか分からないからだ。
「お身体です。魂がキティルリア様のものとはいえ、人間の身体で、その量の魔素と魔力に耐えられるという事が、そのまま異常かと」
「ああ、そうだよね。それは私も考えてた。一つだけ仮説を立てるとしたら、私の魂が目覚めた理由がそれなんじゃない?」
「魂の修復が終わったからではなく、魂から出される魔素と魔力に耐えられる身体を得たから目を覚ましたと?」
「修復自体は終わってる。それは、私が施したものだからちゃんと理解してる。だから、魂の修復が終わっていない可能性はないかな。でも、後半はその通り。キティルリアになった時も治療をしている時も今も魔素を存分に使っているけど、身体に異常なない。つまり、身体が特別なんじゃないかなって思うんだ」
魂から生成される魔素が身体を蝕むという事は、シャルロットとして生きた十年間で一度もなかった。レベッカの救助、魔傷の治療、キティルリアへの変身、重傷者の治療、その他様々な用途に魔素を使っているが、シャルロットの身体に異常は一切ない。こうして魔素を大量に吸収していても同じだ。
その事からシャルロットは、魂がキティルリアのものだからというのではなく、そもそも特殊な身体だったという説を考えている。
「なるほど。魔素への完全耐性というところでしょうか」
「だね。丁度良いから、どのくらいまで許容出来るかやってみようか。自分の限界は知っておかないと、いざという時に困るし」
「はい」
そこからシャルロットは、次々に魔素を吸収していった。ラスティーナが、周囲に人がいないところを後ろから指示するので、誰かに見つかる事もなく魔素の補給は終わった。
その結果、時間内に吸収した量では限界を迎えない事が分かった。ただ、元々の魔素量よりは多くなっているが、それでもキティルリアの時の量と比べれば少なかった。




