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転生魔王の復讐革命  作者: 月輪林檎
転生した魔王

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31/38

今やるべき事

 三十分の治療で、シャルロットは二十三名の重傷者を正常な状態へと回復させた。全員が自発呼吸をしており、既に危険域を過ぎている事がよく分かる。


「はぁ……ふぅ……」


 シャルロットは滝のように流した汗を袖で拭い、目に掛かってくる前髪を掻き上げる。そうして次の治療に移ろうとして周囲から視線が集中している事に気付いた。

 派手な事をした自覚はあるので、その視線に対してシャルロットは何も思わない。


「リーシェル、他の患者は?」

「こ、こっちだ!」


 リーシェルではない声での返事だったが、シャルロットはすぐにその声の方を見た。そこにはレベッカを誘拐し、教会を襲撃した犯人の姿があった。その犯人の男は怪我人を担いでいる。その担いでいる怪我人もレベッカを誘拐した犯人だった。

 だからこそ、男の顔には不安が滲んでいた。自分が背負っている罪と行ってきた愚行を自覚しているからだ。もしかしたらシャルロットは治療をしてくれないかもしれない。他にも医者はいるが、シャルロットが見捨てるという選択をした時、他の医者は反発してくれるのだろうか。そんな不安が溢れていた。


「そこに寝かせて!」


 そんな不安を一蹴するようにシャルロットはそう言って駆け寄って来た。だからこそ反応が遅れる。その時間が惜しいシャルロットは男を睨む。


「早く!」

「あ、ああ……」


 男が寝かせた患者の男性は、身体の右側が潰れていた。何か重い物が落ちてきたような状態だ。


「近くの車の下敷きになってたんだ。う、動かさない方が良かったか!?」

「本当ならね。でも、この状況で気付かないで放置していたら、死んでいた可能性があるから結果的には良かったよ」


 シャルロットはそう言いながら、再び魔素と魔法を使った治療を行っていく。先程と違い一人だけを対象としているのである程度の余裕を持って治療を行える。そこでようやく金色の光の粒を見た。


(聖女の力……なるほど、さっき注目を浴びていたのはこれのせいか。胸の奥から力が湧いてくるような感覚……回復魔法の効力が上がってる。魔素による補助も合わせれば確実に助けられる)


 シャルロットは聖女の力を自覚しつつ、その考察は後回しにする。


「他の怪我人は? 避難誘導してたんでしょ?」

「え? あ、ああ……大体は軽傷者だ。重傷者は最初に軍の奴等が運び出していった」

「そう。なら、他にもやるべき事があるでしょ」

「っ……」


 自首をしろ。男はそう言われていると考えていた。


(当たり前か……こいつの友人と居場所を奪おうとした俺を本当の意味で赦す事なんてない……軍の奴等に事情を話して拘束される……俺も罪を償わなくちゃ駄目だよな……だが、あいつらは……)


 男は自分が面倒を見ている同じように解雇された仲間達の事を考えていた。自分が自首すれば後に続く可能性もある。本当にそれで良いのかと迷っているのだ。


「何ぼーっとしてるの? 早く他に怪我人がいないかスラム街を見て回って来なよ」

「は……?」


 シャルロットの口から出た言葉に呆けた声を出す。それは、男が考えている事とは全く違う事だったからだ。


「は……じゃなくて。スラムに住んでたんでしょ? それなら軍の人達や警察の人達よりも構造に詳しいでしょ。その点を活かして一人でも多く救いに行って。今は皆で協力しないといけない時なんだから」

「……償えとは言わないのか?」


 そう言われたシャルロットは若干苛立ちを覚えているような表情をしながら男を見る。


「そんなものはこれが終わってからにしてくれる? さっきも言ったけど、皆で協力しないと死者が増えるでしょ? さっさと行動して。しろ」

「あ、ああ……」


 シャルロットの意志の籠もった目を見た男は、戸惑いながらすぐに駆け出す。駆け出しながら、シャルロットの目に籠もっていた意志に、キティルリアを幻視していた。


(あいつ……いや、そんな訳ないか……あいつが魔王だったら姿がおかしいからな……それに、今は一人でも多く救わなくちゃだろ)


 男の表情は、これまでで一番すがすがしさを持っていた。その内心では、既に自首する事を決めている。だが、それもこの騒動が収まってからだ。それまで救えるだけの人を救い出す。そう心に決めていた。

 男の後ろ姿を全く視線で追うこともなく、シャルロットは治療を終えた患者を担いで一箇所に集めていく。そこでは点滴などの治療を受けている者達が多くいた。外傷などの治療を終えた者達への対処をしているところだった。


「この人達も点滴お願いします」

「あ、はい!」


 看護師達から羨望の眼差しを受けたシャルロットは、そそくさとその場を後にする。


「絶対聖女の力を見たからだよね……医者とか看護師からしたら憧れの存在でもあるだろうし」


 シャルロットが考えている通り、初代聖女が人を救う事に注力していたため、聖女は医者や看護師からも憧れの存在となっている事が多い。そのため聖女の力を発現させたシャルロットに羨望の眼差しを向けるのは当然と言えば当然だった。

 シャルロットは現場を駆け回り、次々に治療していく。最初に行った二十三名の重傷者の治療で基本的に重傷者の治療は終えているので、後は軽傷者の治療ばかりだった。時折、足の骨折などの患者が運び込まれてくるが、酷くてもその程度のもので済んでいる。

 だが、それでも死者はいた。シャルロットが来る前に亡くなっているために、シャルロットではどうしようもなかった。

 死者十四名。治療済み重軽傷者数千人という結果に、シャルロットは満足していなかった。


(元の姿になっている間に治療もするべきだった……でも、そんな事が本当に出来た? 姿を偽るために魔素と魔力を割きながら、治療に集中出来た? いや、無理だ。あの治療は完全に集中していた状況と聖女の力があったから成り立っていた……これが一番だった……そのはず……)


 そんな考え事をしているシャルロットの頬に冷たい紙コップが付けられる。


「ひゃっ!?」


 驚いたシャルロットが振り向くと、そこには水を貰ってきたマザー・ユキムラの姿があった。


「マザー」

「お疲れ様。色々とやって疲れただろう? 水を飲みなさい」

「うん。ありがとう」


 シャルロットはマザー・ユキムラから紙コップを受け取って、よく冷えた水を飲む。


「シャルロット」

「ん?」

「救えなかった命を自分の責任と考えるのはやめなさい。それはシャルロットが抱え込むべきものではないわ」

「でも……」


 救える力があったのに救えなかった。それは、シャルロットにとって……キティルリアにとっても、常に抱え込んできた事だった。間に合わなかったというのは、間に合わせられるだけの力があった者からすれば、自分の怠慢だとしか考えられない。


「シャルロットはよくやっていたよ。あれだけの重傷者を一人で欠けさせる事もなく治療した。私達だけでは、半分も救えたか分からない。それだけの事をしているの。溢れたものは戻らない」

「だから、手のひらに残ったものだけを見るの?」

「今見るのはそうよ。だから溢れたものには、弔いをする。この過程に自分を責めるという事はないよ。死を背負いすぎれば重石になる。シャルロットは、彼等彼女等を、自分を痛めつけるだけの重石に変えたいのかい?」


 死者を重石に変える。そのものを直接手に掛けたのならそれも当たり前だろう。だが、今回のような事態で、見ず知らずの人達の死を勝手に自分に対する重石に変えるという事は、その人達の死を勝手に利用して自分を痛めつけているだけの行為でしかない。

 だからこそ、マザー・ユキムラは死者ばかりを見るのではなく生者を見るように伝えていた。生者には救いを、死者には弔いを。それがマザー・ユキムラの考え方だった。


「……ううん」

「なら、真っ直ぐ前を向いて歩く事だね。助けられなかった人達に恥じないようにね」

「うん。そうだね」


 シャルロットの胸の中には、かつて目の前で亡くした同胞達の姿が流れていく。


(そうだ。皆に恥じないように生きないといけない。だから、私が貫き続けた理想を追いかける。皆、もう少し力を貸してね)


 シャルロットは自分の胸に手を置きながら語りかけて、前を向く。救えた命と弔うべき命。その全てを見定めて、自らが選択した道を歩く。例えそれが茨で編まれた道だとしても、そこを歩ききる事が自分のやるべき事だから。誰にも恥じない自分の人生を歩く。

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