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転生魔王の復讐革命  作者: 月輪林檎
転生した魔王

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魔王出現

 魔族の女性の目は冷たく市庁を見ていた。まるで中を見透かしているような目を目撃した市議会議員達は、心臓に冷たい手が伸ばされたように錯覚した。


『私は、魔王キティルリア・リリア・リルスリア。魔族と人間との和平を望む者である。私は、このように他者を虐げて悦に浸る者を決して赦しはしない。知ってしまった以上、介入させて貰う』


 キティルリアは、ゆっくりと手を空に掲げる。直後、スラム街と市庁から市議会議員の住人とスラム街を爆破していた裏社会の人間。さらに、街のあらゆるところから裏社会の人間達が浮き上がってきた。

 身体が浮き上がった事で、全員が恐怖する。足場もない。命綱もない。落ちれば死ぬ。それが分かっている高さにまで来れば、恐怖を抱かない方がおかしい。

 キティルリアは魔力による威圧を持ち上げた者達に集中する。この圧は人を殺す事はない。だが、いっそ死んだ方が楽なのではと思われる程の重圧が身体だけではなく精神にまで作用していた。


『お前達は何故街の一画を破壊しようとした?』


 キティルリアは、市議会議員に問う。市議会議員達は首を横に振りながら答える。


『ま、街をより良くしようとしただけだ!』

『街を駄目にしている奴等を排除して何が悪い!』

『待て……っ!? んぐっ!?』


 自分達の声が街中に響いている事に気付いたギルランダーが全員を黙らせようとしたが、キティルリアが魔素により口を塞ぐ。

 他の市議会議員達は、目まぐるしく変わる状況や唐突に突きつけられた死、キティルリアの魔力が込められた圧により、正常な判断が出来なくなっていた。


『それはお前達市議会の総意だと?』

『私達だけじゃない!! この街に住む全員が思っている事だ!』

『あの区画だけ治安の低下が著しかったのよ! なら排除するのが一番じゃない!』

『それの原因はお前達じゃないのか? 路頭に迷う人々を悪戯に増やしたのはお前達だろう?』

『い、一体いつから……』


 いつから自分達の計画を知っていたのか。それを聞こうとしているのは、会話の流れからも明白だった。

 それが失言だった事に市議会議員の一人は、すぐに気付いたが手遅れだ。キティルリアは、その市議会議員を冷たい目で見下ろす。


『全てはこの区画を壊すための政策だった。路頭に迷う人々が増えれば、その者達は、既にそういう者達が集まっている場所へと流れる。人が増えれば犯罪率も自然と増加する。これが僅かなものだったとしても理由として繋げる事が出来る。加えて、自分達にとって都合が良く優秀な人間だけを残す。

 だが、そうまでして、あの区画を壊したい理由は何だ? 街をより良くしたいと言ったが、実際には違うだろう? より良くするのなら人材を有効活用する方が良い。建設等には人が多く必要になる。その人材を使って一時的に区画を整理し、雇用を増やすという方法もあったはずだ。

 そもそも事業に口を出したのは何故だ? 何も言わなくとも害となる存在であればクビにされるだろう。態々解雇を促す必要はない。

 何故、態々人が多く亡くなる方法を選ぶ?』


 市議会議員達は困惑する。何故魔王がこんな問いをするのか。魔王とは、残忍で極悪な存在ではなかったのか。少なくとも自分達が子供の聞いた話では、キティルリアのような対話をしてくる存在ではなかったはずだと。

 何故だという考えが頭を過ぎっていくが、キティルリアが睨むとそんな考えも消し飛んだ。ここで考えていては、死んでしまう。そう心と身体が叫んでいた。


『それが必要だからだ! 人材を雇用すれば良いだと!? 雇用するにも金が必要なのが魔族には分からんらしいな! そんなものに使うくらいなら、こちらに溜め込むわ!』

『そもそも役に立たない人材なんて要らないのよ!』

『より使える人間を残し、無能とゴミ溜めを排除する。当然の事だろう』

「ん~!!」


 ギルランダーは止めようと必死になっているが、キティルリアはギルランダーの声を拡声させていないので耳に届かないようになっていた。


『つまり、お前達から見て無能と判断した相手なら、他の住人達も対象になると言いたいのか?』

『当たり前だ。無能だと判断すれば、この街には要らん!』


 市議会議員達はそう言い切る。強い意志を持ってそう言い切った事で、自分達の今の状況がスッと頭の中に入っていった。恐怖から抜け出した先は、新たなる恐怖だった。その恐怖は下から向けられる敵意を持った視線だ。

 自分達も処分されるかもしれない。そんな事を知らされれば、市民達の考えは一つの方向にまとまる。あの市議会議員達を排除しなければならないと。殺意害意悪意敵意あらゆるものが乗せられた視線は、魔力を持っていないというのに、キティルリアの圧と同じように突き刺さる。


「このまま降ろすか」


 キティルリアは拡声せずにそう言う。市議会議員達は、首を激しく横に振った。このままでは、市民に殺されてしまう。それだけは避けなくてはならない。

 何故なら、まだ死にたくないから。


「お前達は、自分達の欲のために大勢の人を殺そうとした。これはその報いと思わないのか?」

「俺達はこの街を発展させてきた! その恩恵を受けて何が悪い!」

「思わないのか。なら、報いを受けろ」


 キティルリアは、浮かせている人々を集めていく。一箇所に集まったところで全員を拘束してから、アコニツムの中央にある広場に降ろした。そこには避難していた市民達がいる。周囲からの目に市議会議員と裏社会の人間達は恐怖する。キティルリアの拘束が生半可な力では解けない事を感覚的に気付いてしまったからだ。

 そこにキティルリアが声を掛ける。魔力を込めず、ただ拡声させた声だ。


『自分達の感情に任せて暴力を振う事は簡単だ。だが、暴力で解決すれば、その呪縛は常に付きまとう。よく考える事だ。目の前の人間と同じような人間になるのか。それとも自分達が組み立てた法により、それ相応の罰を与えるのか。

 お前達が持つものをしっかりと見定めよ。拳を振う事が必ずしも正解ではない。お前達が持つ武器は、話し合うための言葉もあるだろう。

 よく考え、よく話し合い、最善の最良の結果を掴み取れ』


 キティルリアはそう言うと、背を向けてスラム街の方に向かって飛んでいく。背後から聞こえてくる音は人が人を殴るような音ではなく、冷静に話し合うような音だった。

 キティルリアがスラム街の上空に来ると、スラム街の救出活動が行われていた。先導している中には、レベッカを誘拐した者達や教会を襲撃しようとしていた者達もいる。


「急げ! いつまでもこの状態が続くとは限らない! 安全が確保されるまでスラム街からは避難するんだ!」


 そうして避難誘導している中にキティルリアは降り立つ。魔王が降り立った事で、周囲の人間達はざわめき恐怖し動けなくなる。

 そんな中をキティルリアは歩き出す。そして、レベッカを誘拐し、教会に放火しようとしていた男の前で止まる。


「避難はどのくらい進んでいる?」

「あ? あ、いや……全体の把握が出来てない」

「そう。なら、避難が遅れている場所を教えるから、誘導を優先して。避難をしている間に、壊れた箇所は直していく」

「あ、ああ……」


 キティルリアは、魔素により全体を把握して避難が遅れている場所を教える。それを受けて、避難誘導が加速していった。キティルリアは、その間にスラム街全体の壊れている箇所を調べ上げて、魔法による修復を始める。

 そこに軍の部隊長がやって来る。


「魔王だったか? 何のつもりだ?」


 そう訊く部隊長は、武器などに手を一切掛けずに話し掛けていた。それを見ている部下達は、いつでも行動出来るように銃に手を掛けていた。無駄だと分かっていても、そうせざるを得ない。相手は魔族なのだから、当然の警戒と行動だった


「名乗った時に言ったと思うけど」

「魔族と人間の和平を望むと? これまでの魔王はそんな事を言ったという記録はない。お前は異質な存在のようだが、本当に魔王なのか?」

「異質ではあると思う。でも、私が考えている事に変わりはない。魔族と人間が手を取り合う世の中を作る。それが一番の平和だから。私を魔王と認めない魔族もいるとは思う。けれど、私は魔族を統べて、和平へと向かうために動く。それだけ」


 真っ直ぐスラム街を見ながら修復を続けるキティルリアを見て、部隊長は部下達に銃から手を離すように手振りで指示を出す。部下の精神衛生上許可していたが、相手に戦意がない以上、必要のない警戒をし続けるのは無駄な犠牲を生む原因になりかねない。

 それを理解したためか、部下達はゆっくりと銃を放していく。


「…………そうか。スラム街を救ってくれた事感謝する。部隊の一部は避難民の誘導などをしているが、何かするべき事はあるか?」

「一応、建物は直すけど、その他は直しきれないから、そこだけ了承を貰って。後、中央の広場に元凶を置いておいた。その対処も」

「分かった。第一から第三分隊は住人の救助及び修復が終わった住居の確認をしろ。残りは俺に付いてこい。中央広場に向かう」

『はっ!』


 人々が動き出す。恨みを持っていたはずの者達は、恨みを晴らすよりも人々を救う道を選んだ。自分達の手で裁きを与えようと考えた者達は拳を下ろし、話し合う道を選んだ。

 暴力的であり確実で簡単な解決手段が目の前にあっても、それを選ばなかった。キティルリアは、それを感じ取りながら、スラム街の修復を終える。そして、配下を連れてアコニツムから離れるように去って行った。

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