収集した情報
その日の夜。シャルロットの部屋にラスティーナとリーシェルがいた。シャルロットとリーシェルはベッドに座り、ラスティーナは椅子に座っている。
「何でリーシェルもいるの?」
「この街の事だから気になるのよ。私がいたら駄目なの?」
「別に良いけど。それじゃあ、ラスティ、報告」
「はい」
シャルロットに呼ばれたラスティーナは、その場で椅子から立ち上がる。普通の事なので、シャルロットは気にしないが、リーシェルは少し驚いていた。
「まずスラム街全体に情報は広まっているようです。どこでもその噂話についての会話が聞こえてきました。出所が不明ですので、意図的に流された噂という見方も出来ます。ですが、それらは噂に過ぎません。なので、噂の真偽を確かめるために市議会に潜入しました」
「ラスティ……」
シャルロットは片手で顔を覆いながら、ラスティをジッと見る。その視線をラスティーナは涼しい顔で受け流す。
「シャルロット様亡き後、諜報なども積極的に行っています。こうして私が生き残っている事自体が、その成果の証拠かと」
「だからって、そこまでの危険を冒せとは言ってない。実地調査って言ったでしょ?」
「はい。ですので、噂の大元と見られる市議会を実地調査致しました」
「はぁ……まぁいいや。成果は?」
実際にその情報が重要ではあるので、シャルロットはそれ以上叱ろうとはせずに続きを促した。
「区画整理は事実です。ですが、実際の目的は区画を整理する事だけではありませんでした。スラム街に住む住人の一掃です」
「っ!?」
ラスティーナの報告にシャルロットではなくリーシェルの息が詰まる。この街で暮らしてきたリーシェルにとって、衝撃的な事柄だった。シャルロットの命令で動いている以上ラスティーナが嘘を言っているとは考えにくい。それに加えて、レベッカの一件もあるので、そういった事をしそうだという認識持ってしまっていた。
そんなリーシェルの背中にシャルロットが手を回して擦る。すると、詰まっていたリーシェルの呼吸が少しずつ戻ってくる。催眠魔法の応用で、精神から落ち着かせているのだ。
そうしながら、シャルロットはラスティーナを見る。
「追い出すではなく一掃。これは間違いない?」
「はい。そう口にしておりました。これが、追い出すという意味合いで使われたのではない限りは間違いないかと」
「これが市議会と市民である私達の認識の違いとかだったら、本当に申し訳ないけど、どう考えてもそうじゃないだろうね。区画整理の方法は?」
「こちらを」
ラスティーナはそう言ってシャルロットに紙束を渡す。それを受け取ったシャルロットは、リーシェルと一緒に中身を読んでいく。それは、区画整理という名のスラム街解体及び住人排除の計画書だった。
「なるほどね。スラム街の区画整理で一部を取り壊すとなれば、そこの住人は黙っていない。加えて、次は自分達かもしれないと考えて、スラム街の住人が一致団結する可能性がある。その可能性を逆手にとって、事故を装いスラム街の住人をスラム街諸共排除すると。ラスティはどう見る?」
「ここまでする理由が薄いです。使える土地を増やすためにスラム街を爆破解体するというのは、諸々の責任問題に発展し愚策となるかと」
「確かにね。でも、それをスラム街の住人に押し付けるのだとしたら?」
「…………全ての責任を押し付けると?」
「昔の人間ならそうする。今の人間は?」
「あり得ない話ではないかと」
アコニツムの土地を広げるための政策。壁を広げるのであれば、膨大な予算が必要となる。それをかき集める方法として増税などもあるが、それだけでは足りる可能性は低い。国に要請したとしても、承認されるまでには当然時間が掛かる。
そこで考えられたのは、土地を無駄に使っているとされるスラム街の解体。増築などを繰り返される事で、住宅街とも呼びがたい複雑な区画となっているスラム街は、長年治安の低下などの問題が指摘されている。
アコニツムの街を治めている市議会からすれば、排除しようにも出来ない目の上のたんこぶという状態だった。
アコニツムに不要な存在を排除する。それが市議会の裏側で可決された内容だった。この前段階にあるのは、市議会による事業改革の促進だった。アコニツムに不要な存在とは、そもそも企業に巣くう無能の排除にもあったのだ。
一時的に雇用を減らす事で人件費の削減と新たに有能な者を雇用しやすいようにする。仕事を真面目にやっており、一定の成果を上げていれば対象になる事はない。だが、この基準は企業によって異なる。世間一般からちゃんと働いていると見られるような人物でも対象となる事はあり得た。
その結果が、レベッカの誘拐だ。
この繋がりを見たシャルロットは、この政策を進めている人物が誰なのか察しが付いた。
「これってギルランダー・ブレイバーって人が進めてる?」
「はい」
「やっぱり……」
ギルランダー・ブレイバー。レベッカの父であり、現在母親と子供達に出て行かれた事で人格に問題があるのではと噂されている人物だった。その事に関しては、シャルロットもいい気味だと思っている。平和主義なシャルロットでも、博愛主義ではない。
「初代勇者の血縁という話を聞く一族です」
「うん。聞いた。実際どうなの?」
「暗殺される前に子をなしていたとは聞いていません。勿論、私達の調査が完全ではないので、どこかで子供を作っていたという事も否定出来ません」
(初代勇者の暗殺……? これって私が聞いて良かった話なのかしら。変な闇に踏み込んでいる気が……)
街の事に関して聞いていたはずが、知って良いのかも分からない事を知ってしまい、リーシェルは若干戸惑っていた。だが、これに関してはシャルロット達も気が回っていなかった。
「血縁に関しては、シャルロット様の方がお分かりになるのでは?」
ラスティーナの視線を受けたシャルロットは首を横に振った。
「はっきりとした事は分からない。でも、私には到底そう思えない。レベッカからも、レベッカの両親からも、あいつが持っていたような力は感じなかった。そもそも戦いに身を投じているわけじゃないから、潜在能力として持っているかもしれないって言われたら分からない」
「つまり戦闘になれば開花する可能性があると?」
「どうだろう? あれがいつから戦っていたのかは知らないから。私達の耳に入ってきたのは、人間が牙を剥いて来てからしばらく経った後だったし。ただ開花するにしても、あの父親が開花させられるとは思わないかな。あれの力の質は、あの精神じゃ扱えない」
実際に初代勇者と死闘を繰り広げたシャルロットだからこそ分かる事。それは、初代勇者の強さの秘訣の一つ。シャルロットは、それをレベッカやギルランダー、ダイアナから感じなかった。
だからこそ、ブレイバーの家系に初代勇者の血が流れているとは思えなかった。だが、力が潜在能力として眠っているのであればシャルロットにも感じ取れないという可能性は残っていた。
「では、最低限の警戒をしておきます。ここからどうされますか? 市議会を壊しますか?」
「極力殺さないって。必要な殺しはあの愚王ぐらいのクズだけだよ」
平和を欲するシャルロットにとって不和の素になるような事は避けたい。だが、それでも許せないものはある。殺しはそれに対してしか行わない。
「では如何されますか?」
「う~ん……今って魔王はいる?」
「いえ、私は確認しておりません。魔王が出現すれば、全ての大陸の人間の街で話題になるはずです。なので、いないという事で間違いはないかと」
「良し。正直、気は進まないけど。盛大なアピールをする」
「畏まりました。準備と情報収集をします」
「お願いね」
ラスティーナは、シャルロットとリーシェルに一礼して窓から去って行った。
「えっと……途中から付いて行けなかったのだけど……」
残されたリーシェルは、シャルロットを見ながらそう言う。話をある程度理解する事は出来ていても、二人の会話には言葉になっていない部分が多く、予測はリーシェルでも無理なところが多かった。
「う~ん……私がスラム街の住人を見捨てられるはずがないってラスティは分かってるから、住人を救える方向に進めていく感じで動いてくれてるって感じかな。リーシェルは、この事黙っていてね。広まると意味がないから」
「事前に潰すわけじゃないのよね?」
「うん。申し訳ないけど、事前に潰す方法が思い付かないから。でも、大きな被害は出させない。ある程度の方法は思い付いてるしね。悪い方向に向かうかもしれないけど」
「そう……まぁ、シャルを信じるわ。おやすみ」
リーシェルはそう言ってシャルロットの頭を撫でて部屋を出て行く。それを見送ったシャルロットは、窓を閉めてベッドに横になり眠りに就く。
決行の日は計画書になかった。だからこそ、準備は早く進めないといけない。そのために英気を養う。




