シャルロットが持つもう一つの力
診療所に戻ってきたシャルロット達はその疲れから今日は診療所を閉める事にした。その旨を掛札にして出しておく。
シャルロットも疲れから椅子に座り込む。
「ふぅ……」
「お疲れ様。はい。お水」
「ありがとうございます」
ユイが冷えた水をコップに移して持ってくる。シャルロット達はお礼を言ってから、喉に通して一息ついた。
「現場に連れ出してごめんなさいね」
「いえ、お気になさらず。寧ろ役に立てて良かったです」
「そうね。シャルちゃんの魔素のおかげで、ビルも崩落しなかったようだし」
「えっ!? あれもシャルちゃんがやってたの!?」
「あ、はい」
ユイはビルの崩落が止まっていた理由がシャルロットだったという事を知り驚いていた。イリスは不自然に崩落が止まった事から、シャルロットが自分達には見えない魔素を使って崩落を止めてくれているのだろうと見抜いていた。だが、ユイは多くの軽傷者の治療に走り回り、様々な人達に状況説明などをしていたため気付かなかった。
「あの状態から崩落が続いてこない事の方がおかしいでしょう。シャルちゃんが魔素を使ってくれていると考えるのが一番納得出来るわ」
「すご~い! シャルちゃんは本当に良い子だね!」
ユイはシャルロットを抱きしめながら頭を撫でる。完全に子供扱いだが、シャルロット自身に不快感はない。寧ろこうして褒められる事は嬉しいと感じていた。褒められなくても何とも思わないが、褒められたら嬉しいものなのだった。
そんなシャルロットを見て、イリスは工事現場での事を思い出した。
「そうだった。シャルちゃんに確認しておきたい事があったのよ。シャルちゃんって、身体から金色の光の粒が出て来た事あるかしら?」
「金色の粒ですか? いえ、覚えはありませんが」
シャルロット自身の記憶では、自分の身体からそんなものが出て来た記憶はない。シャルロットとしても初代魔王としても同じく覚えがなかった。
「そう……シャルちゃんは複雑だろうけど、もしかしたらシャルちゃんは聖女の力を宿しているかもしれないわ」
『…………ええぇ!?』
シャルロットと同時にユイも驚いて声を上げた。それくらいに衝撃的な事だった。ユイからすれば、シャルロットが聖女としての力を持って凄いという驚きなのだが、シャルロットからすれば自分がそんな力を宿しているのかという嫌悪感が強かった。
「本当なんですか?」
イリスの勘違いではと思ったシャルロットは、若干嫌そうな表情をしながら訊く。その姿にイリスは苦笑いしながら答える。
「金色の光の粒は、聖女の力を使う際に出て来るものなのよ。後は、勇者が扱う聖剣からも出るわ」
「ああ……そういえば……」
聖剣から出るものと聞いて、シャルロットにも思い出した。大して気にしていなかったが、初代勇者との戦いで目撃した事があったのだ。魔素を斬り裂く聖剣の周囲に散る金色の光の粒を。
「そういえば?」
シャルロットが初代魔王だと知らないユイは、一人だけ首を傾げていた。それを見て、シャルロットは失言をしてしまった事に気付いた。
「えっと……う~ん……実は……」
シャルロットは、ユイにも自分が初代魔王である事を打ち明ける事にした。この診療所は学校に行くまで世話になる場所だ。こうして一緒に働いているユイを信用していないわけはなかった。そして、ここにはイリスもいるので、勝手に漏れる事はないだろうと判断した。
それらを聞いたユイは、目を大きく開きながら驚いた声を出していた。
「えぇ~!? 全然分からなかった! 普通の子供っぽかったし!」
「まぁ、子供ではありますからね」
魂は初代魔王だが、身体は子供だ。精神に肉体が引っ張られるか肉体に精神が引っ張られるかで、シャルロットは後者になっている。だが、それはあくまで子供として扱われたらの話。子供でいられない場所に立った時はその限りではない。
「でも、初代魔王なのに聖女なの?」
「いや、聖女は否定したいですけどね」
「ああ、だから嫌そうな顔をしてたんだ!」
ユイは、シャルロットが聖女と言われて嫌そうな表情をしていた理由に気が付いた。
「それにしても、それを聞いたら色々な謎が解けるね。納得」
「魔素関連は、そのせいですね。でも、聖女に関しては本当に知りません。聖女になる条件とかってあるんですか? そこら辺は調べても出てこなかったんですよね」
「素質ね。特定の条件があるわけじゃないわ。今のシャルちゃんみたいに素質を持っている人が聖女になる事が出来るらしいわ。詳しくはマザーに聞いた方が早いと思うわよ?」
「確かに……」
「そういえば、シャルちゃんは神様を信仰しているわけじゃないよね?」
ユイの確認にシャルロットは頷く。
「マザーやリーシェルを否定する訳では無いですけど、魔族を救おうとしない神を信仰したくはないですね。今は人間ですけど、やっぱり本質的には魔族ですから」
シャルロットが入信しない理由は、そこにあった。自分達を助けてくれない存在を信じて敬う事など出来るはずもなかった。恩恵があれば信仰する。なので、信仰している人間を否定する事はしない。だが、過去必要だった際に恩恵がなかった以上、今恩恵を渡したところで信仰するつもりもなかったのだった。
「というか、マザーに聖女の話を聞くとすると、その力の話をしないといけなくなりますよね……?」
「そうでもないと思うわよ。聖女に関する話題になったからと言えばバレないわよ」
「やっぱり聖女の力は黙っておくの?」
「聖女なんてなりたくないですから」
「まぁ、そうなるわよね。でも、聖女の立場を利用するという事も出来るかもしれないわよ」
イリスの意見を聞いたシャルロットは、一瞬肩を揺らす。聖女という立場が教会のどの辺りの立場になるかなど、シャルロットも理解出来ていないところがあるが、今の何もない立場よりも情報を得られる機会は増えると理解出来たからだ。
「…………考えておきます」
理解出来てしまった以上、聖女になる事を真っ向から否定する事が難しくなっていた。
だが、シャルロットの認識では、聖女は仲間達の死体を弄んだ聖剣を成立させた存在。その立場への憎しみが強くなるのは当たり前だった。
そんなシャルロットの頭をイリスが優しく撫でる。
「ゆっくり考えれば良いわ。自分にとって、それが本当に受け入れがたいものなら隠し通しておけば良い。聖女になりたいと思わないのなら、それは重石にしかならないから」
「はい」
「もし聖女の力を隠し通すのなら、回復魔法をあまり使わないようにするのが良いかもしれないわね。聖女の力が発揮するのは、何かを守りたいや助けたいという強い想いからだから」
「守りたい……助けたい……でも、この診療所で働いている時には出ませんでしたよ?」
「聖女の力が馴染んできたのが最近なのかもしれないわね。後は、気持ちの強さか。まぁ、そこまで深く考える必要はないわよ。聖女の力を自由自在に操れたのは、初代に近しい聖女だけだったらしいから」
「初代に近しい?」
シャルロットは、聖女の姿や名前を知らない。そういう存在がいる事は知っているが、前線に出て来るわけでもないので会うことなど一切なかったからだ。聖女という制度自体、人間と魔族が敵対し始めた時に生まれたものだからという事もある。
「初代は……魔王の前で言うのもあれなのだけど、魔族に殺される人間達を憂う善人だったと伝わっているわ。全ての人間達を慈しみ寄り添ったと。人間達を助けたい、守りたいという気持ちはかなり強かったようね」
「…………」
シャルロットは、これまでイリスやユイに見せた事がないような険しい表情になっていた。
「そもそも仕掛けて来たのはそっちのくせに被害者面しないで欲しいんですが」
「私に言われても困るわよ。その時代に生きていないもの」
「そんなのと近しい存在になりたくないですね」
「教会のお偉方が聞いたらぶち切れそうね……取り敢えず、今日はもう帰って良いわ。疲れたから休みたいしね。シャルちゃんもゆっくり休んで」
「はい。お水ありがとうございました」
「ううん。気を付けてね」
「はい。先に失礼します」
イリスとユイに頭を下げたシャルロットは、服を着替えて教会へと戻っていった。




