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転生魔王の復讐革命  作者: 月輪林檎
転生した魔王

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20/37

恐怖の象徴

 イリスから初代魔王なのかという確認以上に話がなく、シャルロットは少し困惑していた。


「え? 確認しただけですか?」

「そうよ。別に魂が初代魔王だから殺そうとか、通報しようとかは思わないわ。そもそもの話、シャルちゃんの力があれば、その状態でもこの街を壊滅させるくらい容易でしょうし。それをしていない時点で、人間への恨みよりも大きなものがあると考えられるわ。

 そうね……初代魔王なら、戦争の原因となった人間への復讐。でも、その当人は死んでいるから復讐など出来ない。だから、復讐の対象を人間ではなく……現行制度にした?」

「何でもお見通しじゃないですか……」


 全て見透かされている事が分かり、シャルロットはお手上げという風にため息を零した。恐らくイリスよりも長生きしているはずのシャルロットでも、ここまでの察しの良さは持ち合わせていない。

 医者としての観察眼が人間性や相手の人格、思考までも読み取る段階になっているのだ。シャルロットは、基本的に相手を信じて生きてきたために察しが良いときもあれば悪いときもあるという一般的なものだけだ。


「私の目的は人間と魔族の共存。そのために邪魔なのは、魔族への誤解と生まれている溝。そして、この社会の格差です」

「格差? ああ、なるほどね。今の状態でやっても、格差の一番下に魔族が入るとかだったら意味がない。全体的な格差を狭めて、魔族もまともに暮らせるようにするという事かしら?」

「そんな感じです。王族があの愚王から同じ思考をしているのだとするのなら、そこも変えないといけないですが」

「革命ね。過去成功した事はないわよ?」

「はい。でも、それしかない。だから、今は地位が欲しいんです。そして、魔族と接触して現状とこれまでの事を聞かないといけない。人間だけの資料じゃ分からない事ばかりですから」

「意外と考えているのね。地位……ん? もしかして、初代魔王の身体を取り戻そうとしているの?」

「はい。それが一番楽に力と地位を戻すことが出来ます。あの身体があれば、魔族を従えられる。今の見た目では完全に人間ですので。後は交渉するだけになります。これ以上無益な戦争は起こさせたくありません」


 シャルロットが無益な戦争と言った時。その目は悲しみを伴っていた。それをイリスは見逃さなかった。そこからシャルロットが戦争を望んでいた訳では無い事。そして、本当に対等に共存する世界を望んでいるのだと見抜く。


(歴史の文字ばかりでは分からない事もあるのね。魔族が悪という認識は完全に改めないといけないわね)


 イリスは、これまで人間達が学んできた歴史の中に大きな間違いがあるのだと察した。その間違いは、人間達全体の認識を大きく変えるようなものだ。


「そう……ダンジョンに潜るのなら、力を付けないといけないわね」

「そんなヤバいんですか?」

「そうね。よく言われるのは、外の危険を百倍にして押し込めたのがダンジョンだというものね。外にも魔物はいるけれど、それよりも遙かに危険な場所よ。まぁ、ダンジョンを作った初代魔王からしたらそうでもないかもしれないわね」

「まぁ、そうですね。そういえば、さっき魔王を知っているって」


 ダンジョンに関しては、自分でその様子を見なければ分からない。そのためシャルロットは、気になっていた別の話題に切り替えた。


「ええ。長生きしているから知っているわよ。何代目だったかしら。魔法寄りの魔王だったわね。魔力量はシャルちゃんの三分の一くらいね。魔素は十分の一以下だったかしら」

「へぇ~、そこそこ強い魔族ですね」


 それはシャルロットの認識でも強い魔族というものだった。だが、今のシャルロットより劣る時点で魔王時代のシャルロットの足元にも及ばない。


「じゃあ、あの子とかも魔王になれたのかな……そういえば、魔王になる条件とかってあるんですか?」

「さぁ? 自称だし」

「ああ……」


 シャルロットは、次代の魔王がどういう存在であるべきかなどという事を誰かに話した事はない。そもそも誰かが魔王をやるという事を考えていなかったからだ。シャルロットの寿命なども考えると、そこまで考える必要がなかった。

 シャルロットが選ばれた理由は、魔族ですらあり得ない量の魔素と魔力を持っていたから、魔族の中でも異質な存在であるからだ。

 そこから、魔王になる条件も何かしらあるのではとシャルロットは考えていたが、自称と聞いて少しがっかりしていた。自分ほどではないにしても、何かしらの異常な力を持っていたのではと考えたからだ。


(まぁ、私みたいな身体を持っていた魔族の方が珍しいか)


 シャルロットは改めて自分の特異性を理解する。


「寧ろ、シャルちゃんは何で魔王になったの?」

「魔王になった理由は、人間達が王という制度を作って国を興したからですね。そこから魔族達も王を擁立して、寄る辺を作っておいた方が良いという話になりました。魔族だけの街があった方が気楽という主張もありましたしね。

 全ての魔族の代表者になって、魔族を統べるというのが魔王です。当時一番魔力と魔素が多かった私が選ばれました。

 私としても魔族達を統率しておいた方が人間達と付き合いやすくなると思ったので賛成しました。実際、私は魔族の代表者として、多くの王と話し合いましたし、魔族と人間達でよりよく暮らしていくにはどうすれば考え続けてきました。魔族は魔物との戦いで有利に動けますからね。

 エルフとかもそうでしたよね?」

「初代魔王の時代に生きていないから何とも言えないけれど、確かにエルフの中にも王はいるわね。今はエルフの領地を統治しているわ」


 人間の中には、エルフ、ドワーフ、獣人がいる。そのどれも魔素は持ち合わせていない。人間の中でも特異な魔力、特異な筋力、特異な身体能力と五感を持っているが、それだけの違いだ。

 その中で、それぞれの種族は、それぞれの領地を統治する王がいる。


「でも、人の王が一番上にいるんですよね?」

「ええ、そうね。昔は皇帝とかになった事もあったらしいけれど、普通に王として存在しているわ。全てを統一したという認識なのよ。だから、エルフの王もエルフ領の領主という認識でしかないわ」


 王という名前は付いていても、正確には領主だ。王として呼んでいるのは、その方がそれぞれの種族を統べやすいからだ。

 ただし、全ての頂点は純粋な人の王のみという事を強調しているのである。その考え方にシャルロットは心当たりがあった。それは魔族を排斥し排除しようとした愚王の考え。死んだ時にはまだそんな状態ではなかった。だが、長い年月の果てに、その考えが普通の状態になっていた。それを改めて認識させられていた。


「なるほど。愚王の考えが行き届いた世界……」


 ほんの一瞬だけ、シャルロットから盛れた殺意。それを受けたイリスは、その冷たさと鋭さに驚いて冷や汗を掻いていた。


(この子が平和主義で本当に良かった……この子が本気で人類全体に復讐しようと考えていたら……)


 自分達の命が、シャルロットの気分次第である事を知り、確かに恐怖心が芽生える。そして、戦争が起きた原因をイリスは理解した。


「シャルちゃんと敵対しようとした国王は、シャルちゃんが恐ろしかったのね」

「恐ろしい? 私の力がですか?」


 恐ろしいと言われて、シャルロットは真っ先に自分の力の事だろうと気付いた。それしか恐れられるものがないからだ。


「ええ。だから、魔族を排斥しようとしたのよ。その力が向けば、人間はひとたまりもない。なら、消せば良いって」

「……それなら平和に暮らしておいた方が良かったと思いますけど。実際、私は犯罪者を捕まえる以外で危害を加えた事はありませんよ」


 不服そうにそう言うシャルロットに、イリスは頷く。シャルロットの不服さは理解出来るからだった。


「そうね。でも、いつ自分の方に向くか分からない抜き身の剣をそのままにしておく人は少ないでしょう? 納める鞘がないのなら、破壊しておく方が安心出来る。そして、破壊するまでにその剣が自分に向けられる事はないという確証があったら?」

「確証……私が攻勢に出なかった……ずっと守りと交渉ばかりに手を割いていた……」

「平和主義って言っていたからそうだと思ったわ。交渉相手である自分を殺す事はない。だからやりたい放題だった。聖剣を作った後は、もう時間の問題ってところかしら」

「…………」


 イリスから言われた事に驚きはなかった。だが、それだけに自分の行動が的外れだったのだと、改めて理解させられていた。自分の行動が余計に魔族を苦しめる事に繋がってしまっていた。だが、それでも平和を作り出すには、自分から攻撃をするわけにはいかなかったのだ。


「……平和主義じゃ守れないんでしょうか?」

「どうかしらね。そこばかりはなんとも言えないわ。でも、一つ言えるとすれば、向こうからすればシャルちゃんが生きている事自体が平和に繋がらない要因だったという事かしら」

「…………」


 シャルロットは苦い顔をしながら俯く。圧倒的な力は、味方である時は有り難がられるが、味方でいる保証がなくなれば恐怖へと変わる。

 初代魔王は、必ず人間の味方でいるという保証はなかった。愚王は、それを自分に向けられたら、国に向けられたらと考えて同じ種族の魔族を排除しようとした。自分が安全に暮らせる範囲を広げるために。イリスの考察からは、そういう風に考えられた。

 そして、それはシャルロットの考察でも同様だった。シャルロットが望む世界にシャルロットは要らない。それは圧倒的な力だから。


「だから、後はシャルちゃんがどういう風に納得させるかが問題ね。シャルちゃんという人間……魔族がどういう者なのか深く知ってもらう。そこを意識して活動すると良いんじゃないかしら」

「知ってもらう……?」

「そうよ。これを解決するには、シャルちゃんが安全だという事を知ってもらうしかないでしょう? 私達は知っているから特に何も思わないけれど、知らない人からすれば恐怖の対象になりかねないわよ」

「なるほど……知ってもらう努力……難しいですね。昔も表には出ていましたけど、それでも足りなかったって事ですし……」

「でも、険しくても進むのでしょう?」

「……はい!」


 シャルロットは、自分がやるべき事が、少しずつ固まっていくのを感じていく。そして、それが棘だらけの道だとしても歩みを止めてはならないと心に刻む。

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