レベッカを教会へ
それから少しだけ時間が経ち、リーシェルが待合室に入ってくる。笑顔のリーシェルを見たシャルロットは、リーシェルの説教が飛んでくる事を察した。そして実際に説教となった。
十分程の静かで淡々とした説教を受けた後、シャルロットはリーシェルにレベッカの事情を説明する。
「なるほどね……」
リーシェルは、レベッカの事を見る。リーシェルもレベッカの事は知っている。レベッカがシャルロットにどういう事をしていたかも知っていた。だからこそ、シャルロットの話に、少し考える時間を作ってしまった。
なので、レベッカはリーシェルの内心を察してしまう。
「わ、私、やっぱり……」
「リーシェル、良いよね? レベッカは家に帰る事が出来ないんだから、教会が保護する理由になるでしょ?」
レベッカが断ろうとする前に、シャルロットはリーシェルに追撃を掛ける。シャルロットが本心から迎え入れようとしている事に気付いたリーシェルは、小さくため息を零しながら頷いた。
「分かったわ。事情が事情だから、教会で受け入れる。部屋の準備はないから、しばらくシャルと一緒の部屋になるけれど、それでも構わないわね?」
「あ、はい」
「?」
素直に頷くレベッカに違和感を覚えながらも、リーシェルは二人を連れて教会への帰路に着く。教会に戻ると、マザー・ユキムラが迎える。マザー・ユキムラを見たシャルロットはある事を思い出した。
「あっ! お使い!」
「今日は良いから。ゆっくり休みなさい」
「ごめんなさい……」
シャルロットが謝ると、マザー・ユキムラは優しく頭を撫でる。
「お友達を助けるために頑張ったのよねぇ。よく頑張りました」
(助ける時は特に友達ではなかった気がするけど……)
シャルロットはそんな事を思ったが、口にはしなかった。今が友達である事に変わりはないからだ。
「それと、一つお願いがあるんだけど。レベッカをしばらく教会において欲しいの。色々あって、家を追い出されちゃって」
シャルロットが軽く説明してそう言うと、マザー・ユキムラは困ったような表情をした。それはレベッカを泊める事への困りではなく、家を追い出した親に対して気持ちだった。
「あらあらまぁ……それならシャルロットと同じ部屋で寝泊まりねぇ。お洋服も用意しないといけないわねぇ」
「あっ、そうだ。自転車駄目にしちゃった……」
「ええ。知っているわ。一応弁償という事にするみたいだから、少し待っていて」
「あ、うん。ごめんなさい」
改めて謝罪するシャルロットをマザー・ユキムラは、やはり優しく撫でる。事情の全てを知っている訳では無いがシャルロットのせいではないという事を信じているからだ。
ひとまず色々な事情を説明するために、マザー・ユキムラとリーシェルが話す事になった。その間に、シャルロットとレベッカはシャルロットの部屋に来ていた。
「さてと、これからどうするかな……」
「どうするって?」
ベッドに身体を投げ出したシャルロットが呟いた言葉にレベッカが反応する。シャルロットは、その声に反応してレベッカの方を見る。
「レベッカだよ。あの人の考えを改めさせて、レベッカを家に帰さないとでしょ。私だって、レベッカを勘当させたいとは思ってなかったし」
「そ、そう……」
レベッカは、手を後ろに組んでもじもじとし出す。シャルロットが自分の事を考えてくれている事が嬉しいからだった。シャルロットは、そんなレベッカの様子を見て察する。
「トイレなら部屋出て左」
「違うわよ!」
レベッカは顔を真っ赤に否定する。その様子から勘違いをしたのだとシャルロットも気付いた。
「あ、そうなの? じゃあ、適当に座って良いよ。ずっと立ってるのも変だし」
「え、ええ……」
レベッカはキョロキョロと部屋を見てから机の前にある椅子に座る。それを見てからシャルロットは向かい合わせになるようにベッドに座る。
「一つ確認するけど、レベッカのお母さんはあんな感じ?」
「いいえ。お母さんは、どちらかというとお父さんとは逆ね。でも、お父さんは家でもあんな感じだから、お母さんも萎縮しちゃっているの」
「そっか」
レベッカの家庭事情を聞いたシャルロットは、これからどう動くべきかを頭の中で考える。
(それならあれを排除するのは有りかな……いや、無し。考え方が、あの愚王と同じになってる。あの愚王と同じような嫌悪感を持ったからって、即座に排除した方が良いのかもは急ぎすぎ……はぁ……あの時の後悔が強いのかな……)
シャルロットは、自分の考え方が過激になっている事に気付いて両頬を叩いた。唐突にシャルロットが頬を叩いたので、レベッカ驚いて肩を跳ね上げていた。
「ど、どうしたのよ……」
「ちょっと過激な考え方になってたから、一旦冷静になろうと思って」
「……魔王だったから?」
レベッカはシャルロットが言っていた事を思い出してそう訊く。それに対して、シャルロットはジト目でレベッカを見る。
「一度徹底的に魔族と魔王について教えた方が良さそうだね。魔王がどういう存在なのか。リーシェルみたいに恐怖の大王みたいな感じじゃないから」
シャルロットがそう言ったのと同時にレベッカは、シャルロットの背後の方を見る。それを見たシャルロットは、嫌な予感がしつつも恐る恐る背後を振り向く。そこには満面の笑みのリーシェルが扉を半分開けて立っていた。
「えっと……どこから?」
「魔王がどうたらこうたらのところからね。それで? 誰が恐怖の大王みたいな感じだって!?」
笑みを崩さずにリーシェルが部屋に入ってくる。そして、ゆっくりとシャルロットの頭に手を伸ばしてきた。
「リーシェルのそういうところがだけどぉ!?」
シャルロットは、リーシェルからアイアンクローを受けてから倒れ込んだ。レベッカは、あそこまで圧倒的な強さを持っていたシャルロットが為す術もなく倒れたのを見て、内心恐怖していた。
リーシェルは、うつ伏せに倒れたシャルロットの背中を素足で軽く踏みつける。その状態でリーシェルはレベッカの方を向く。
「今日のレベッカちゃんの服は、シャルの服を使って。今日はまだ外に出ない方が良いだろうから。シャルと背丈は変わらないから大丈夫だと思うわ。少し緩いのが多いし。下着はシャルの新しいものがあるから。シャルも聞いていたわね?」
「は~い……」
「ご飯になったら呼びに来るわ。取り敢えず、シャルの部屋にいて」
「は、はい」
伝えるべき事を伝え終えたリーシェルは、シャルロットの背中から足を退かす。そして、寝転がっているシャルロットをジッと見下ろした。
「それで、シャルが魔王だったとかって何の話なのかしら?」
「え?」
レベッカは、シャルロットとリーシェルを交互に見る。その反応だけで、リーシェルは何かしらの秘密があるのだと分かる。レベッカはリーシェルも知っていると考えていたという事も。
「あぁ~……夕飯の後に話す」
「そう。それじゃあ大人しくしていなさいね」
「は~い」
リーシェルは特に追及せずに仕事に戻っていった。
それを見送ってからシャルロットは床から起き上がる。レベッカの方は、やらかしてしまったのではないかと焦っていた。
「え、えっと……ごめんなさい……」
「ううん。いずれは話さないといけない事だったから」
「じゃ、じゃあ、本当にシャルロットは……」
「うん。詳しくは夕飯の後に話すよ。皆一緒に話した方が楽だし」
「え、ええ。分かったわ」
それからしばらく過ごしていき、レベッカも交ぜて夕食を食べ終えた後、リーシェルがお茶を淹れて話し合いの空気を作っていく。