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転生魔王の復讐革命  作者: 月輪林檎
転生した魔王
14/33

レベッカの父

 シャルロットとレベッカは、騒動を聞いて駆けつけてきた警察に保護されて警察署で取り調べを受けていた。


「なるほど。では、全ては彼女を助けるためだったという事かい?」

「はい」

「幸い死者は出ていないけれど、一歩間違えばどうなっていたかは分かるね?」

「はい」

「今回は、周囲に目撃者もいた事から正当防衛として扱われるけれど、今後は気を付ける事」

「はい」

「貰った情報から犯人の捜索は進められているから。それじゃあ、親御さんが来るまで、外の待合室で待っていて」

「はい。レベッカ、行こう」

「う、うん」


 取り調べが終わったので、シャルロットはレベッカを連れて取調室を出て、待合室に入り椅子に座る。ようやく気を休められるという事で、


「ふぅ……取り敢えず死者が出なくて良かった……」

「車を吹っ飛ばしたって……」

「ああ、うん。魔法を使えば出来るよ。タイミングとかが重要になるけどね。下から打ち上げるの。あれ以上邪魔されていたら、レベッカに追いつけなかったかもしれないから、思わずやったけど、本当に死者が出なくて良かった……」

「車の屋根を取ったのも?」


 レベッカはシャルロットの指が車のルーフ部分を貫通して来たのを思いだして訊く。レベッカはともかく誘拐犯達は特に恐怖した瞬間だった。人の手で車が引き裂かれる光景など常識の範囲外の出来事だったからだ。


「あれは魔素と魔力。魔素で手を覆う事で手を保護しつつ、魔力を身体に循環させて身体能力を上げて引き剥がしたの。やろうと思えば、魔素無しでも出来るけど指が折れるかもだから安全策を採ったって感じかな。まぁ、普通はやらないだろうけど。因みに、レベッカを探したのも魔素。魔素を街中に広げて、レベッカの形をした感覚を探したって感じ」

「魔素って何でもありなの?」


 シャルロットの話を聞いたレベッカは魔素が何にでも使えるという風に感じていた。


「何でもありっちゃありだけど、繊細な操作は難しいからね。基本的に利用されるのは、身体に纏ったり、魔素による不可視の攻撃を放つとかそういうので使う……のかな」


 シャルロットは普通に話していたが、今の自分が人間である事と魔族自体が珍しい部類に入り始めている現在の状況を思い出して、自分の経験から予想したという風にした。既に誤魔化せるかどうか微妙な段階ではあるが、やらないよりはマシだろうという考えだ。


「へぇ~……詳しいのね」

「そりゃあ、自分の力だからね」

「独学……っていうのよね。それでそこまで分かるものなの?」


 レベッカは、自分の中で作っていた高台から飛び降りた事で、シャルロットに対して素直になっていた。その事にシャルロットは強い違和感を覚えながらも、レベッカが変わろうとしている事を内心嬉しく思っていた。

 その事から、少しからかってあげようと考える。


「魔王の生まれ変わりって言ったら信じる?」

「へぇ~……生まれ変わり……だから、シャルロットは大人っぽい時があるのね。もしかして、魔素を持っているのも生まれ変わりだからなのかしら?」


 あっさりと受け入れたレベッカに、シャルロットの方が面食らう。


「今の話、信じるの?」

「ええ。だって、シャルロットの言うことだもの」


 シャルロットに助けられた事に加えて、シャルロットが自分を受け入れてくれた事によって、レベッカはシャルロットに絶対の信頼を向けていた。その結果、シャルロットの言葉を全面的に信じる程の信頼を寄せていた。


(レベッカが純真無垢な目をしてる……いつもこっちを下に見ている目だったのに……まぁ、親の意向が強かったからって理由は分かったんだけど……ここまで変わるものなのかぁ)


 シャルロットは、親というものの大きさを改めて思い知る。そこからレベッカの考えを改めさせる事が出来ているが、これは子供故の純真さが要因の一つだとシャルロットは考えていた。


「はぁ……取り敢えず、この話は内緒で」


 シャルロットは、話を訂正せずに秘密にするように伝えた。ここでレベッカに対して嘘だと言えば、せっかく変わったレベッカが元通りに戻るかもしれないという考えが頭を過ぎったからだった。信頼を寄せている対象に裏切られるという事がレベッカに与える影響は計り知れないという考えもあった。


「ええ!」


 シャルロットは、レベッカの言葉遣いなどから、少しずつ元の調子を取り戻している事を察する。

 それによってレベッカの中に生まれた変化が元に戻るのか、変化した状態で維持されるのかは分からない。

 それでもレベッカの中に生まれているシャルロットへの想いが強くなっているのは確かだった。


「レベッカ」


 二人しかいない待合室に男性が入って来た。それはレベッカの父であるギルランダー・ブレイバーだった。ギルランダーは、真っ直ぐレベッカを見ている。その厳格そうな顔の中に、シャルロットは嫌なものを感じていた。


「お父さん」

「全く……一体何をしているんだ。誘拐などされて……私の立場が危うくなったらどうするつもりだったんだ」


 ギルランダーの冷たい叱責の言葉にレベッカは萎縮する。それだけでレベッカが普段からギルランダーに怯えて過ごしていたというのが分かる。

 そんなレベッカを見たシャルロットは、レベッカを背にしてギルランダーの前に立ちはだかった。そんなシャルロットを見て、ギルランダーは眉を寄せてシャルロットを睨む。


「何だお前は?」

「シャルロット。姓はない」


 シャルロットは、教会に引き取られている。それ故に姓は存在しない。名前を付けられる前にシャルロットの両親は亡くなった。名付けが行われていれば、新たに名付けを行うか、そのままの名前になるか教会のマザーが決める事になる。だが、姓はなくなる。親族が引き取れば、そのまま引き継ぐ事になるが、教会に預けられるという事は家との決別を意味する。

 シャルロットという名前は、マザー・ユキムラに名付けられた。そして、教会に預けられたためにシャルロットは姓を持たない。


「教会の孤児か」


 姓がないという事実から、ギルランダーはシャルロットが教会に引き取られた孤児だと気付く。

 蔑むような目をするギルランダーに対して、同様にシャルロットは蔑みの眼差しを向けていた。シャルロットは、静かに圧を出していた。それに対して一瞬怯み掛けていたギルランダーだが、すぐに毅然とした態度に戻った。


「自分の子供が誘拐されかけたというのに、あなたはご自身の立場の心配をなさるのですか?」

「私には、この街を支える責任がある。この立場が脅かされるという事は、この街が脅かされるという事だ」

「自身を過大評価されているようで」

「何?」


 ギルランダーは苛立ちを隠さずに、シャルロットは睨み付ける。だが、シャルロットにそのような目は効かない。魔王時代には、もっと理不尽な理由で怒りの眼光を向けてくる人間を多く見ているからだった。


「あなたがいなくなってもこの街は回ります。そのための議会であり市議でしょう。あなたの代わりはいくらでもいる。そして、あなたの立場が脅かされるという事は、あなた自身が求められていないからでしょう。

 この子が、誘拐されそうになった原因もあなただ。あなたがするべきは、この子への謝罪と無事だという事を喜ぶ事でしょう」

「お前の価値観だ」

「親なら当然の事をしろと言っているのです」

「親も持たぬような子供が良く言う」


 ギルランダーはそう言って嘲笑していた。

 シャルロットが言い返そうとしたのと同時にレベッカがシャルロットの前に出る。レベッカが自分を庇うように前に出たので、シャルロットは少し驚いていた。

 レベッカは、先程の怯えが嘘のように毅然とした態度になっていた。ギルランダーの目にもしっかりと見返している。


「謝ってください」

「何を言っている?」


 ギルランダーはやはり嘲笑混じりにそう言った。それに対して、レベッカは怒りを露わにしながらギルランダーを睨んだ。


「シャルロットに親なしって言った事を謝って! 好きで親がいない子供なんていない! それを侮蔑の言葉として使うのは間違ってる!」

「私に指図するつもりか? 私の子供の分際で!!」


 ギルランダーの剣幕に、レベッカは一歩気圧される。だが、その一歩で踏み留まる。後ろにはシャルロットがいる。シャルロットを守るために前に出たというのに、またシャルロットに守られるというのは、レベッカにとってギルランダーへの敗北を意味する。


(負けちゃ……駄目!)


 レベッカは負けられない戦いに挑もうとしていた。シャルロットを守るためと自分に言い聞かせて、逃げようとしてしまいそうになる足に力を入れる。


「私はお父さんが間違っていると思う! 私は……私には! お父さんの立場なんて関係ない! お父さんがどんな仕事をしているかで私の生き方や価値観を決められたくない! シャルロットは、私を助けてくれた。私を叱ってくれた。お父さんの言う通りにしてたら、私はシャルロットと仲良く出来ない! 私は人の上に立ちたいわけじゃない! シャルロットの隣にいたいの! だから、お父さんの言うことは聞かない! シャルロットに謝って!」


 レベッカはシャルロットと接する内に、ギルランダーの言うことが間違っていると感じていた。それでも従っていたのは、ギルランダーの叱責がレベッカにとって恐怖の象徴のようなものだったからだ。従っていれば怒られない。その事実が、レベッカを歪めていた。

 だが、シャルロットへの度重なる暴言を聞いて、叱責に怯える事よりも重要な事があると気付いたのだ。


(私もシャルロットに言っていたから人の事は言えない。でも……私は、それが間違いだと気付いた。ああやって蔑むように言うのは絶対に間違ってる。こうする事で許される訳じゃない。でも、許されないからって引き下がるのも違う!)


 レベッカは親へ歯向かうという事で、少し涙を溜めながらギルランダーを睨む。叱責に対する恐怖心はあるが、それ以上にシャルロットへの暴言を許す事は出来なかった。

 ギルランダーは、そのレベッカの目が気に食わなかった。


「この親不孝者が!!」


 ギルランダーがレベッカに対して拳を振おうとしたのを見て、シャルロットはレベッカの服を掴んで引っ張って後ろに退かせる。そして魔素で強化した手で、ギルランダーの拳を受け止めた。子供に拳を受け止められたギルランダーは困惑していたが、教会に引き取られた子供という点から答えを導き出した。


「呪われた子か……! ちっ!」


 ギルランダーは、殴った手を擦りながら待合室の出口に向かって行く。そして、安全な距離で振り返った。実際は警察署どころか街全体がシャルロットの攻撃範囲内なので、安全な距離も何もないのだが。


「レベッカ。お前は勘当だ。家の敷居を跨ぐ事は許さん。二度と家に近づくな」

「え?」


 ギルランダーはそう言い捨てて、待合室を出て行った。レベッカは、青い顔をしながら手を伸ばすが意味はない。


「レベッカ……」


 シャルロットの声を聞いて、レベッカは首を横に振る。そして、流れそうになった涙を乱暴に拭ってシャルロットを見た。


「後悔はないわ。お父さんは間違っていたもの。私は……私が正しいと思った事を貫くわ」


 レベッカの目には確かに後悔の色はなかった。それどころかしっかりとした意志を感じさせるような目をしている。


「……ありがとう。それとごめんね。私が余計な事を言わなければ……」


 ギルランダーの態度に苛立ちを覚えたが故の行動だったが、それ自体がレベッカの勘当へと繋がってしまった。シャルロットは、それに対して申し訳ないという気持ちになっていた。

 それに対して、レベッカは元気に笑う。


「もう……言ったでしょう? 私は正しいと思った事を貫くって。それに、シャルロットは、私のために怒ってくれたのだから、文句なんてないわよ。でも、これからどうすれば……」


 レベッカは家に帰る事が出来ないという事実を改めて認識して、顔を伏せる。頼れる親戚は街に住んでいない。子供が故にどこかのホテルなどに泊まるという事は出来ない。そもそもそのお金もない。完全に詰んだ状態だった。

 そこにシャルロットが助け船を出す。


「なら、教会に来る?」

「え? えっと……」


 レベッカは、シャルロットの提案に迷いながらも頷いた。それしか方法がないと想ったからだった。

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