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転生魔王の復讐革命  作者: 月輪林檎
転生した魔王
12/33

レベッカを追って

 交差点に悲鳴が響く。目の前で自転車を漕いでいた少女が轢かれたのだから当然だ。

 車に轢かれて飛んでいったシャルロットは、地面を転がっていき、その勢いを殺すように両足を着いて立ち上がる。そこには一切の怪我はない。轢かれる直前に身体を魔素で覆う事で、轢かれた衝撃を身体に通さないようにしていたからだ。

 車に勢いが乗っていたせいで、吹っ飛ばされる事にはなっていたが。


「ったく……轢かれた経験がなかったら危なかった……」


 吹っ飛ばされたためにレベッカを乗せた車は建物が遮って追えなくなる。シャルロットは舌打ちしながら、もう一つの重要な事を思い出した。


「はっ! 自転車!」


 シャルロットが自転車を確認すると、少し離れたところでフレームが大きく曲がっていた。撥ねられた衝撃よりも自転車が駄目になった衝撃で叫びたいシャルロットに向かって再び車が向かってきた。先程シャルロットを撥ねた車だ。

 どう考えても真っ直ぐにシャルロットへと向かってくる。


「二度目があるって事は……故意で良いよね?」


 シャルロットは、据わった目をしながら手を前に出す。そして、風魔法で作り出した風の爆弾を接近してくる車の進路上に設置する。任意の方向に向かって風の爆弾を破裂させて、強い爆風を生む魔法だ。それを車の真下から真上に向かって使用する。

 結果、車は空を高く飛んでいく。


「空を飛ぶ気持ちを味わえ」


 その後の結果を見ること無く、シャルロットは身体を強化して駆け出す。レベッカを乗せた車が走り去っていった方向に向かって走るが、その車は見当たらない。


「ああ、もう! 黒い車なんて街に何台あると思ってるの!? もっと派手なの乗りなよ!!」


 シャルロットは苛立ちながら周囲を見回して、一番高いビルを見つけると、そこに向かって飛行魔法で飛んでいく。シャルロットが空を飛んだので、通行人等の目撃者は唖然としていた。

 そんな事は一切気にせずに、シャルロットは一番高いビルの屋上に着地する。


「さすがに見えない……でも、レベッカの形は分かる」


 シャルロットは、目を瞑る事で集中力を高める。そして、その状態で身体から魔素を溢れさせた。一部の魔素検知系の機械が反応してしまう事になるが、それを気にしている暇はなかった。魔素を勢いよく街中に広げる。細かな魔素は、隙間から車内へと侵入する。

 だからこそ、レベッカの身体の形さえ覚えていれば、それを見つける事も可能だった。シャルロットは、自分が支配下に置いている魔素に意識を集中する。魔素が覆っていく物の形を次々に記憶と照合してレベッカを探していった。


「違う……違う……違う……」


 押し寄せる情報の波を的確に捌いていくシャルロットは、三分程で口角を上げた。


「見つけた」

「君!」


 シャルロットがレベッカを見つけるのと同時に、ビルの屋上に人がやって来た。守衛のような者もおり、このビルの人間だという事はシャルロットでも予想出来た。ビルの屋上に降り立ったシャルロットに注意しに来たという事だ。

 だが、シャルロットはそれに付き合っている時間がない。レベッカの救出は一刻を争うからだ。


「あ、すみません。失礼します」

「は? いや! おい!」


 シャルロットは頭を深々と下げてから、後ろ……ビルの外側に向かって倒れていき、屋上から落ちる。落下の途中で飛行魔法を使用する。

 守衛達はシャルロットが身投げをしたのかと思い焦ったが、シャルロットが無事に空を飛んでいるのを見て胸をなで下ろした。


「だが、彼女はここで何を……?」

「さぁ……?」


 魔素を見る事が出来ない守衛達は、シャルロットが何をしていたのか、皆目見当も付かなかった。

 そんなシャルロットは、レベッカが乗せられている車が走っている場所に向かって飛んでいる。飛びながら街に散らした魔素を回収するのを忘れない。

 三十秒程飛んでいると、見覚えのある黒い車を見つける。


「あれだ!」


 シャルロットは車と自分を魔素で繋げる。これでもう見失う事はない。そして、その魔素の繋がりから、車に向かって魔素を送り込む事が出来る。そうして中に入れた魔素からレベッカがいる事を改めて確認する。


「拘束されてる……」


 レベッカがいる以上、さっきと同じように車に空を飛ばせる事は出来ない。シートベルトを着けていないので、下手に止めれば、レベッカが大怪我をするかもしれないからだ。


(もう! 車に乗る時はシートベルトを着けろって習わなかったの!? 私でもリーシェルから習ったけど!?)


 シャルロットは簡単に止められない事に苛立ちを覚えながら、一気に加速して車のルーフに着地する。内部から困惑しているような叫び声が聞こえてくるが、車の外装を挟んでいるためシャルロットには判別が不可能だった。

 そもそも何と言っているのか聞こうとすら思っていないシャルロットは、手に魔素を纏わせて、ガントレットのようにする。それに加えて身体強化を行い、ルーフに向かって手を突き立てた。魔素によって守られたシャルロットの手は、易々と金属のルーフを貫いた。

 唐突に子供の指が天井から現れた事で、中はパニック状態だった。


「な、何だ!?」

「お、おい! 振り落とせ!」


 運転手はシャルロットを振り落とすために、車を大きく蛇行させる。それによって大きく揺れるが、魔素により身体を車に固定しているシャルロットは振り落とす事が出来ない。


(魔素って本当に便利だなぁ……こんな世の中になって改めて認識したかも)


 そんな事を考えながら、シャルロットは車のルーフを力尽くで引き剥がした。引き剥がしたルーフは、通り過ぎる直前だったゴミ捨て場に投げ捨てた。そして、その直後に気付いた事があった。


「あっ……今日金属の日じゃないか……」

「何巫山戯た事言ってやがる!?」


 立ち上がった誘拐犯がシャルロットの足を掴もうとする。だが、その前にシャルロットがその顔面を蹴った。


「ぶっ……」


 例え子供の蹴りでも、顔面に食らえば大人でも怯んでしまう。ましてや、シャルロットは身体強化を行っている。後ろに倒れ込む誘拐犯を放置して、レベッカの傍にいるもう一人の誘拐犯の顔面に魔素を纏った足で踏みつける。


「ぐもっ!?」


 誘拐犯達を拘束されているレベッカから離すと、シャルロットは魔素でレベッカを覆って引っ張り上げた。レベッカは、勝手に身体が浮き上がったので、目を大きく見開いて驚いていた。そんなレベッカをシャルロットは優しく抱き抱える。


「おら!」


 いつの間にか小道に入っていた車が、天井の低いトンネルに入る。運転手がルーフにいるシャルロットを落とそうとしての行動だった。

 それに対して、シャルロットはレベッカを抱えたまま後ろに向かって飛び降りて軽く着地したので、特にぶつかる事もなかった。走っている車から飛び降りるという行為を平然とやってのけたシャルロットに誘拐犯達は驚愕する。


「威勢だけは良いな……」


 シャルロットからしたら謎の行動だったので、そこだけ驚きつつレベッカを降ろして、魔素と魔力で簡単にナイフを作り出して縛っている縄と猿轡を外す。


「う……うわぁ~ん!! シャルロットぉ! シャルロットぉ!」


 解放されたレベッカは大泣きしながらシャルロットに抱きつく。ここまで怖い思いをしたという事はシャルロットも理解しているので、レベッカの頭を撫でる。そうしてレベッカを落ち着かせようとしたところで、レベッカの頬が赤く腫れている事に気付いた。


「って、レベッカ、頬が腫れてる……痛かったでしょ。もう大丈夫だよ」

「何が大丈夫だって!?」


 レベッカの頬を回復魔法で癒し始めたのと同時に、車から降りてきた怒り心頭に発している誘拐犯の三人が拳銃を構えてシャルロットに向けてくる。


「こいつが分かるか? 銃ってやつだ。子供には分からねぇかもしれねぇえが、当たれば死ぬぜ?」


 完全なる脅しだ。銃を理解しているか怪しい子供に対して、死という言葉を用いる事で恐怖心を抱かせようという考えだった。

 吸い込まれそうな程に黒い命を奪う穴は、真っ直ぐにシャルロットとレベッカを見ている。

 それに対して、シャルロットの赤い瞳は凪いだ海のように静かに誘拐犯達を見ていた。

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