第6話 勇者御一行の魔法使い、ミルク・ファンセントの日記
〇月〇日
今日は彼の調子が良かったので、一緒におむらいすを食べた。
そのあと、昔の旅の思い出話をいっぱいした。
勇者御一行様、伝説だーとか言われてたけど、ただの楽しい旅だったよね。
ほんと、懐かしいなあ。
最後に彼は、封印した魔族の事を気にかけていた。
どこまでお人好しなんだか……。
でも、そこが彼の良いところ。
〇月〇日
外交官の仕事は忙しいけど、頼られるのは嬉しい。
昔を思い出すからかな。
今日、彼の生命力が著しく弱っているのに気づいた。
……もう長くない。
私は、これから一人で生きていけるのだろうか。
〇月〇日
随分と日が開いてしまった。
ついに……一人になった。
これほど心が苦しくなるとは思わなかった。
みんなで食べたおむらいすや冒険の日々が、遥か過去になっていくのが怖い。
〇月✕日
みんなは今どこで何をしているのかな。
聖典によると、死後は贅沢三昧ができるらしい。
だから私は、みんながどうやって過ごしているのかなって、想像してみた。
ミルダスはきっと、大好きなお酒を浴びるほど飲んで、お肉をたらふく食べて、ぐっくすり昼まで寝てるんでしょうね。
ユーリアは音楽を奏でながら、森の中で動物たちと幸せに暮らして、夜は甘い物をたっぷり食べてるのかな。
そしてあなたは……あなただけは、どれだけ考えてもわからなかった。
あなたはいつも人の幸せだけを願ってた。
最後の最後まで、私のことを考えていてくれたよね。
だから、きっとそっちでもそうなのかな。
誰かを助けてたりするのかな。
ふふふ、これが一番あなたらしいかも。
〇月✕日
最近はまた仕事で忙しい日々を過ごしてる。
みんなの尻ぬぐいが結構あって思わず笑ってしまうけど、まだ咄嗟に顔を思い出せるのが嬉しい。
特にあなたのせいで……東のグルド国が大変だったらしいわよ。奴隷を撤廃したことで王族が困ってるんだって。
まあ、あの王はうざかったらいい気味だけど。
……寂しいよ。
みんなに会いたい。
〇月✕日
ごめんなさい。
私はこの国から去ることにしました。
みんなの墓を死ぬまで守ると決意したのに、今日、ふと顔を思い出せなかった。
それが、どうしようもなく怖くて、悲しかった。
魔法写真を飾っているのに、見ることができない。
北の果てか南の果てか、それか、今までの旅をおさらいしようかな。
今度は、一人で。
出来なかったこととか、たくさんあったよね。
ルーディアの祭りに参加できなくて、あなたは赤ん坊のように駄々こねてたよね。
最初はそれを見に行こうかな……。
ミルダス、ユーリア、あなた達は、何がしたかった?
ねえ……教えて?
今までありがとう。
大好きだよ。
さようなら。
〇月✕日
……家に戻ってきてしまった。
みんな、嘘つきでごめんね。でも驚いたことがあったから聞いてほしい。
国を出ようとしたら、王国兵に声をかけられたの。
魔族と人間が、役所で騒ぎを起こしているって。
最後の仕事だと思って見に行ったら、なんとリグレットがいたらしいの。
みんな、覚えてる? あの魔界四天王の長、智謀のリグレットよ。
随分と手を妬いたよね。何度も全滅しそうになったし、凄く厄介だった。
あなたが封印しなければ、私たちは間違いなく魔王軍に負けていたでしょうね。
そんなリグレットが、人間の姿になってたわ。
随分と性格も様変わりして、くれーまーを言葉だけで宥めたんだって。
……笑っちゃうよね。
エリアスもそうだけど、魔族も変われるんだなあって……あなたの言葉通りだった。
それで怒らないで聞いてほしいんだけど、リグレットの人間の姿がちょっとだけ……あなたに似てたわ。
同時に思い出したの、あなたが言ってたこと。
リグレットが封印から解かれたら、今の世の中どう思うだろうなあって。
もし心を入れ替えたら、俺が面倒見てやらないとなって、笑いながら言ってたよね。
だからもう少し、もう少しだけ、この王国にいる事に決めました。
あなたの言葉、あなたの意思は、私が引き継ぐからね。
だからみんな、もう少しだけ、私はがんばります。