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第15話 魔界四天王の長、選手宣誓をする。

「宣誓。 われわれオストラバ王国民一同は、すぽーつまんしっぷにのっとり、正々堂々と闘うことを誓う」


 檀上前、俺様の清涼感ある言葉が響き渡る。


 元々は戦争時の訓練場だったらしいが、今は全ての器具が撤去されており、椅子やテント、うんどぉかいに必要なものだけが設置されている。

 参加者一同は種族別に並んでおり、既に殺気、いや闘気が漲っている。


 続いてドワーフ、獣人、最後にミルクが右手上げた。いつもの長い髪をしばり、ぽにぃてぇるになっていた(エリアス曰く)。


「宣誓。私たちは正々堂々と戦い抜くことを誓います。エルフ族代表――ミルク・ファンセント」


 全員の宣言が終わると、俺様たちはそれぞれ種族の先頭に並ぶ。


 ふふふ、血沸き肉躍る。


 まるであの頃のようだ。


「リグレットォ、アンタの事見直したよ。あたし達、獣人が最凶だってのをこれで分からせることができるわァ」

「本当に頭まで筋肉のようだな。いいか、うんどぉかいは細やかな技術が必要なのだ。手先が器用な人間族に勝てるわけがない」

「フォッフォッ、持久力、体力に優れたワシらドワーフが優勝するのは目に見えとるがのぅ」

「ピピンも……俊敏性があるし……」


 試合前から代表者たちがいがみ合っている。

 いや、彼らだけじゃない。


 種族全体が睨み合っている。どこかしらで言い合いが起きており、今にも喧嘩が勃発しそうだ。


「ちょっと、リグ……まずいんじゃないの?」


 その時、俺様の後ろにいたエリアスが声をかけてきた。

 不安そうな声だ。


「マズい? お昼ご飯はまだ食べておらんぞ」

「違うわよ、……以前より酷くなってるじゃない……」

「そうかもしれぬな」

 

 しかし俺様は頬は緩んでおる。

 このヒリついた空気こそが、俺様の望んでいたことだ。


 最後に、オストラバの国王陛下であるミハエル・オーディンが壇上に立つ。

 凛々しい姿だが、うんどぉかいと書かれた服を着ている。


「国民たちよ、私もこの第一回、種族対抗うんどぉかいの開催を楽しみにしていた。正々堂々、そして今までの努力を見せてくれ。最後に一つ、私は国民全員の幸せを願っている。その気持ちは決して変わらないが、今だけはハッキリ言おう、――我がエルフ族の勝利を願う」


 次の瞬間、大人しくしていたエルフ族が歓喜の声を荒げる。まるで戦争だ。

 その様子に、ミルクの顔が青ざめた。


 次の演目の為、一斉に退場していく最中、ミルクが怒りの形相で近づいてくる。

 ……ちょ、ちょっと怖いな。


「リグレット、あなたが言わせたの?」


「な、何がだ」

「王の言葉、あんなの言うわけがないじゃない」

「さあて、どうだろうな」


 そそくさと逃げようとしたが、ミルクは俺様と出会ってからの一番の声を上げた。


「どうして火に油を注ぐのよ!? 私たちの役目はみんなを仲たがいさせることじゃないのよ!」

「み、ミルク! 周りを見ろ!」


 慌てて振り返ると、ミルクは顔を真っ赤にさせていた。

 だが俺様の言葉で我に返ったミルクが、周囲にゆっくりと視線を向ける。


「痴話喧嘩か?」

「やっぱ仲いいんだなぁ」

「浮気とか?」


 肩をすくめて、恥ずかしそうにしはじめるミルク。

 周囲の言葉はよくわからぬが、何やら勘違いされているみたいだな。


 ミルクはようやく落ち着いたが、それでもキリっと睨んでくる。


「……リグレット、私はあなたが変わったと思ってた。でも、やっぱり争いを求めていたことがよくわかったわ」

「俺様は魔族だ、平和な世の中より、混沌とした場が好きだ」

「――そう、ならもう話は終わりよ」


 ツンとそっぽ向くと、ミルクはエルフ族の元へ去っていく。

 ふむ、だがこれで良いのだ。


 争いは俺様が望んでいたこと。まさかこんなすぐにチャンスが来るとは思わなかった。


 しかしオーディンもなかなか気が利く男だな。流石、俺様たちを打ち破った国の王だ。


 その後、おーぷにんぐせれもにーとして、子供たちのダンスがあった。

 この時の為に練習してきたらしく、こればかりは種族を忘れみんなで楽しんだ。


 その中に、あの魔族の子の姿もあった。


 踊り終わった後、虐めっ子の奴らと仲良く談笑しておる。


 ……勇気を出したのだな。


 俺様は笑みを浮かべ、一段と気合を入れた。


『今回、司会を務めさせて頂く、魔族のエリアス・スパイダーです。それでは第一回うんどぉかい、まず初めの演目、種族対抗、魔石投げです!!!』


 エリアスの声が響き渡る。

 司会をしたいと自ら立候補したのだ。類まれな美貌を持つ彼女だが、当然声も良い。


 各種族代表を含む数十名が、それぞれ前に出る。

 特別に設置された遥か高くそびえる棒状のもの先端に、大きなかごが付いている。

 

 るぅるはこうだ、地面には古い使用不可能な魔石が並べられており、それを多くかごに入れた種族が勝利。

 単純明快、だが少し趣向を凝らしておる。


 実行委員たちと考えたのだが、これは面白いぞ。


 事前に説明はされておるが、観客の為にもエリアスが再度るぅるを伝えた。


 エルフ族に視線を向けると、ミルクが俺様を睨んでおる。

 ほう、その気合の入れ方、負ける気がないということだな。


 いいだろう、望むところだ。


『制限時間は一分間、それでは、試合、開始ィ!』


 まず手始めに、一番近くにあった赤い魔石を手に取る。

 これは火属性の魔物から取れたものだ。小さくとも、重さが十五キロもある。

 

 古くとも魔石の特性だけは残っているのだ。また、種類により点数が変わる。

 しかし俺様はひょいと持ち上げると、寸分たがわぬ籠に投げ入れた。


 魔族は力も強い。例え魔力が少なくとも、この程度は容易い。


『流石最恐の男、リグレット! 難なくポイントをゲット! 力のないエルフ族、人間族はやや手こずっている!、獣人族、ドワーフ族の追い上げが凄いぞォ!』


「当たり前だァ、筋肉は、全てを支配する!」

「ふぉっふぉっ、獣人には負けんぞ!」


 青い魔石は氷のように冷たいせいで魔力が乱れ、黒の魔石は重さが途中で変わるのでタイミングが難しい。緑の魔石はフローラルな香りがする。


 試合終了の鐘が響き、勝利したのは――。


『最終結果が出ました。――勝利したのは、獣人族だァァァァ!』


「ほら、やっぱりなァ! 筋肉ゥ、筋肉ゥ!」

「俺たちが最凶だァ! ウホウホ!」

「筋肉最高! 筋肉、最強!」


 歓声というよりは、もはや雄たけびだ。参加していない獣人も、胸や肩を叩いて鼓舞しておる。

 負けた種族は肩を落とし、静かに退場していく。


 だが――。


「……獣人族、今回は俺たちの負けだ。だが次の種目では必ず人間族が勝つ」

「はっ、いい度胸だ。人間族、次も私たちが勝つがな」


 いつもいがみ合っていたはずの獣人と人間の代表同士が、拳を重ねて笑みを浮かべていた。

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