第14話 魔界四天王の長、運動会を仕切る。
「俺様の名前は魔界四天王の長、智謀のリグレットだ。オリヴィア代表、そして魔族代表として王から仰せつかった。今回のうんどぉかいを安全安心に遂行すべく、エルフ族代表のミルク・ファンセント共に進行をさせていただく」
「外交官のミルクです。宜しくお願いします」
円卓の会議室、オストラバ王国内にある建物内、各種族の代表が集まっていた。
だが空気は重苦しく、まるで凍り付いている。
気に食わないのか、獣人代表者、ダリアがテーブルを強く叩いた。
「オィオィ、おかしいだろォ、なんで魔族が仕切るんだァ?」
モフモフの耳、服の上からでも筋肉が盛り上がっており、色々とはち切れそうだ。
豊満な胸が、ぷるんと揺れる。うむ、彼女は女性である。
ただし、獣人族を以外を見下す傾向にありと事前に言われておった。
「脳筋の言う通りだ。記念すべき一回目のうんどぉかいは、平和を重んじる人間族が仕切るべきだ」
人間族代表、アルフレッド。
西端な顔つきをした黒髪、年齢は若いが、オストラバ王国の騎士に任命されるほどの手腕。
ただし、人間族を以外を見下す傾向にあり。以下省略
「脳筋だとォ? なんだテメェ!?」
「そうやって論理的な思考を放棄して騒ぐのが獣人のやり方だよな」
「落ち着くんじゃよ、普通に考えたら年の功じゃろう。わしが仕切ろう」
その二人を宥めたのは、ドワーフ代表のダリウス。
白い髭をワシワシと触りながら落ち着いている風だが、怒らせると激しい。
ただし、(ry。
他には小柄のピピン族や混合種族もいるが、誰もが不満を抱いているとのことだ。
つまりこれこそが、オストラバ王国が抱えている最大の問題である。
俺様たち魔族を倒した事で均衡が崩れ、失った矛先が種族の優劣になってしまった、と。
「落ち着いてみんな、リグレットは王から直接任命されたのよ。その取り決めは覆らない。それよりも建設的な話し合いをしましょう」
流石ミルクだ。俺様が言うべきことを全て言ってくれた。
だがいつまでも甘えているわけにはいかない。オリヴィアとして、魔族代表として、依頼は完璧に遂行しなければならない。
「みなの気持ちはよくわかる。だがわかっているだろう? 今オストラバ王国は大きく揺れている。今こそ、一丸となるべきではないか?」
――決まった。
これにはミルクはもちろん、各国の代表も驚いただろう。
こうしてうぃんどぉかいは無事に始まり、無事に終わり、そして平和となる。
これが、争いのない世の中、俺様にとっては至極簡単――。
「ったく、何が偉そうに”揺れている”だァ? 80年も封印されてた魔ヌケだろ?」
「口が過ぎるぞ獣女、だが一理ある。仕切りは任せるが、現地では人間族に従うべきだ」
「ワシなら何とか出来るぞ。ドワーフは中立を重んじる」
「ピ、ピン族も……」
だが意見がまとまることはなかった。
……平和な世の中は案外難しいな。
それから何度も会議を重ねたが、代表者同士が仲良くなることはなかった。
だが全ての決め事は何とか終わり、後は開催を待つばかり。
ひとまずの仕事を終えたので、ぷち打ち上げと評して、ミルク、エリアスと共に希望の丘にいた。
「リグほらみて、星空なんて久しぶりでしょ?」
「綺麗だな。もしかすると、みながこの場所にくれば笑顔になるのではないか」
「どうでしょうね。でも、私たちは頑張ったよ。うんどぃかいの目的は一致団結、この大会で仲良くなれるかもしれないしね」
「そうそう、リグは頑張ったよ! 本当にお疲れ様、凄いよ! 流石!」
二人は褒めてくれるが、どうも気分が晴れなかった。
気がづけば俺様は、勇者の墓を眺めていた。
こやつならどうしていただろうか、笑いながら会議を見ていただろうか、それとも何か秘策を思いついただろうか。
『――あんたがリグレットか』
『ほう、お前が東の魔を苦しめた勇者か、ただの弱そうな人間ではないか』
初めて会った時、あやつは頼りない人間に見えた。だがその印象はまるっきり変わって行った。
強く、清く、正しく、そして清々しいほどまでに戦いが好きな男だった。
奴との一番の思い出は、俺様が封印される直前だろう。
『なあ、リグレット、聞いていいか』
『……この状況で対話を求めるか、次の一手でどちらかが死ぬかもしれぬのだぞ』
『――魔族と人間、お互いに理解できる未来はないか』
『はっ、何を言うかと思えば……そんな未来、ありえぬ』
『そうか……残念だ』
今思えば、あの時の勇者は本当に悲し気だった。
真意だったのだろう。俺様は、それが理解できなかった。
だがあいつは、不可能を可能にした。奴なら、この問題も解決したに違いない。
「ミル、ねえ魔法写真撮ろーっ、ぴーす」
「エリ、飲み過ぎよ。まあいいけど、はい、ぴぃす」
今まさにこの光景が、勇者が望んだ結果だ。
うんどぉかいは開催される。それは間違いないだろう。
だが、このままでいいのか? 本当に……全種族が仲良くなるのか?
もしあいつが生きていたら……どうするだろうか……。
――そうか。
「ミルク、イベントプログラムに変更を加えていいか。確か主催者特権があっただろう」
俺様の物言いに、ミルクは首を傾げながら「追加って何をするの?」と訪ねてきた。
運動会は、細かなプログラムに分けられている。
個人種目に加えて団体戦もあるが、種族で分けてしまうと争いの種になるかもしれぬと、チームはバラバラだ。
だが俺様は、ふふふと笑う。勇者、お前ならきっとこうするだろう。
「魔族、人間、獣人、ドワーフ、ピピン、誰が一番優れておるのか、全ての結果に種族で優劣をつける。うんどぉかいは、種族対抗の戦争に変更する」