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第13話 魔界四天王の長、王様から依頼される。

「フフン、どうだこの服」

「どうしたの、その赤いコート」

「まるで真っ赤な血ね、もしかして人間の血を吸ったわけじゃないわよね?」


 ミルク家、もとい俺様の自宅。


 惚れ惚れするほど恰好いい俺様は、一張羅に着替えていた。

 魔王様に餞別としてもらったコートだが、よく似合っておる。


「ねえリグ、聞いてる?」

「これだと打ち首になってもおかしくないわ。エリ、脱がしてあげて」

「はーい」

「な、何をするのだ! やめろエリアス! や、あ~~~れ~~~~」

「どこで覚えてきたのよ……」


 結局脱がされてしまった。

 だが今は平和な世の中、流行りもあるだろう。


 仕方ない、郷に入っては郷に従えだ。


 と、思っていたが――。


「ふむ、悪くない。しかもピッタリじゃないか」

 

 漆黒のコートだが、どこか気品さが感じられる。

 オストラバ王国を象徴する竜のマークが、金の糸で刺繍されていた。


 少し気になるが、まあいいだろう。


「…………」


 ふとミルクに視線を向けると、何やら微笑ましい顔をしていた。

 こうしてみるとやはり綺麗だ。

 鼻筋は通っておるし、エルフの中でも類まれな美貌を持っておる。


「ミルクっ、ほらぼさっとしてないで、私たちも用意するよ」

「え、あえ、あ!? あ、うん! リグレット、すぐ終わるから待っててね」

「うむ、待つのは得意だ」


 だがそれから数十分、数時間、二人は自室から出てこなかった。

 あまりの退屈さに眠ろうとしたが、出てきたのはお顔が少し白くなった二人だった。


「顔面蒼白で……どうしたのだ」

「ぶっ殺すわよ。これが今の流行りなの、さて行きましょ」

「ええ、王国馬車が待機してるはずだわ」


 数日前、オリヴィアの元に命令書が届いた。


『オリヴィアのリグレット、ミルク・ファンセント、エリアス・スパイダー、王の元へ馳せ参ぜよ』


 訳が分からなかったが、大変なことなのだろうとはわかった。


「足元に気を付けてください」

「うむ、ありがとう」


 まさか俺様が、オストラバ城に来るとは思わなかった。

 しかしこうしてみると綺麗だな。魔王城には到底敵わぬが、純白で清潔感のある外構えも悪くはない。


 80年前はこの城をどう落とすか話していたというのに。


 ミルクは外交官だという事もあって涼しい顔だ。反対にエリアスは少しオドオドしている。

 姉妹のようにくっ付いている姿は面白い。


 てっきり王の間に呼ばれると思っていたが、俺様たちが通されたのはなんと応接間だった。


 コンコンと兵士がノックし、出迎えてくれたのは、現国王、オーディンだ。


「……リグレット、その服……この目で見るまでまだ信じ切れなかったが本当に復活したんだな」

「オーディン王、久方ぶりだな。しかし流石エルフ族、ミルクと同じで変わりないようだ」

「おい、王に向かってその物言いは不敬だぞ!」

「よせ、お前は外せ」

「しかし王、仮にもこいつらは魔族――」

「それ以上言えば、私はお前の仕事を奪うことになる」

「……はっ、失礼しました。――魔族め」


 去り際、俺様にしか聞こえない声で皮肉を言いおった。

 魔族と人間、やはりまだ確執はあるのだろう。


 だが次の瞬間、俺様は目を疑った。


 オーディンが、なんと頭を下げているのだ。ミルクが慌てて声をかけるが、オーディンは頭を下げ続けた。


「呼び出した上に気分を害してすまない。私の不徳の致すところだ」

「……頭を上げてくれ。俺様は気にしていない」

「ありがとう。ミルクとエリアス、君たちもよく来てくれた」

「い、いえ」

「とんでもございません」


 二人も少々面を食らっているようだ。

 平和な世の中とはいえ、ありえない出来事なのは間違いない。

 だが明らかに変だ。


「それでどうしたのだ? なぜ俺様たちを呼び出した?」

「……さっきの兵士の態度、どう思った? そうだな、まずエリアス。君に訊ねたい」


 オーディンは、エリアスに視線を向ける。

 エリアスは不安そうにした後、それでも前を向いてハッキリと言い放つ。


「気に食わないです。まあ、今日に限ったことではありませんが」

「そうだな、ミルクは外交官だ。色々わかっていると思うが、今まさにこれがオストラバ王国で抱えている問題なんだ、リグレット」


 その発言に、俺様は魔族の子供を思い出していた。


「魔族と人間は長い間争っていた。戦争が終わっても、その確執がすぐに無くなるわけがない。考えればわかることだ、オーディン」


「その通りだ。戦争が終わっても争いが終わったわけじゃない。水面下、いやもはや表面上といっていいほど憎しみの連鎖は続いている。君たちを愚弄した兵士は、過去に父親を失っている。もちろんそれは魔族にもあるだろうが」

「言葉を返すようだが、魔族は遺恨を持つ人種ではない。今の問題は人間側だろう」


 魔族は本能に従い戦っていた。そこに私怨はない。

 生まれたての蜘蛛が教わらずに糸を出せるのと同じで、弱肉強食が当然だっただけだ。


「……その通りだ。笑えるだろう? 今、魔族は平和を求めているというのに争いを生み出そうとしているのは真逆だ。人間族だけじゃない、獣人族、ドワーフ、矛先は何も魔族に限らず起きている」


 エリアスは苦しそうな顔で静かに話を聞いていた。今まで色々あった、としか言わないが、差別区別で大変な思いをしたのだろう。


「だがその手綱を握り、指導をするのはオーディン、お前の役目のはずだ」

「恥ずかしながら私は戦闘に参加していたわけではない。どうしても説得力に欠けてしまうんだ。――本題に入ろう、リグレット、お前に頼みがある。勿論、エリアス、ミルクにもだ」


 オーディンは、突然声色を変えた。エリアスとミルクの表情にも緊張が見て取れる。

 一体、俺様たちに何をさせるつもりだ?


「来月、大きな戦いがある。オストラバ全土を巻き込んだ戦争といっても過言ではない」

「……なんだと? そんなものがこの世界で許されるのか?」


 憎しみや復讐の連鎖を断ち切るのは、言葉だけでは足りない。

 己の力を鼓舞し、拳を合せ、汗を流し、時には血を流さなければならない。


 俺様と勇者がそうだったように。


 なるほど、オーディンめ、なかなか骨があるじゃないか。


「もしかして……」

「噂には聞いていたけど、本当に……」


 エリアスとミルクは知っているたのか、二人とも口を手で抑えておる。

 つまり俺様に参加してほしいということか。


 なるほど、時には力も必要、というわけだな。


「いいだろうオーディン、俺様はそれに出よう」

「……ありがとう、これはオリヴィアへの正式な依頼と受け取ってくれて構わない。全てが終わったら報酬を支払う。魔族代表で登録ささせてもらう。ミルク、君はエルフ族代表でお願いしたいのだが」

「もちろん構いません」


 そしてオーディンは、静かに書類を手渡してきた。

 そこには、なんともよくわからんが、ニコニコした笑顔の絵が描かれている。

 なんだこれ、選手宣誓の言葉?


「リグレット、頼んだぞ。オストラバ王国大うんどぉかい、魔族代表として、このイベントを絶対成功させてくれ」


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