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第10話 魔界四天王の姫、エリアスの密かな想い

「ぐがあっ、うう……があっ、うう……ああっ……」

「お力加減はいかがですか?」

「最ごおっああ、っ……あっ、ああああああああああ! イイイイイイィィィィィっ!」


 野太い男声が、エリアスの館に響く。

 その後スッキリした顔で男性はお会計を済ませると、みんなの前でキラリと白い歯を見せて私に笑顔を向けた。


「エリアスさん、以前頂いた答えですが、考え直してもらえませんか?」

「……変わらないです。すみません……」

「わかりました。僕はあなたが元魔界四天王であっても、魔族であっても、気持ちは変わりません。いつでも連絡してください」


 颯爽と去っていく彼の後ろ姿は、私が見てきた人間の中でもスタイルが良く、力強く、そして若さに溢れている。

 それを見ていた従業員たちは、腰をくねらせ、心臓をきゅんきゅんさせていた。


「あーもう! 恰好いいー!」

「ほんと、素敵だよね……。王族直属の警備とか、王国魔法管理とか、全部ウィリアムさんが仕切ってるんでしょ? お金持ちで若くて格好良くて……エリアスさん! もったいないですよ! あんな人、世界中どこ探してもいませんよ!?」

「え、ええ……わかってるんだけどね」


 彼の名前は、ウィリアム・リングベルト。

 以前から私の事を気に入ってくれていて、種族なんて関係ない、結婚を前提にお付き合いしてほしいと言われている相手だ。

 あと、私のエスっぷりが好きらしい。ちなみに彼は超ドエム。


「まだ片思いが忘れられないんですか? でも、凄く前の話なんですよね?」

「えー何それ何それ!? 知らない、聞きたい聞きたいー! ちょうどお昼だし、ご飯食べながらでも教えてくださいよー!」

「ま、まあいいけど……」


 私は、従業員たちと近くの店へ向かった。

 数十年前は、塩漬け肉と硬いパンばかりだったけど、今は柔らかくて暖かい食事が提供されている。

 とはいえ店内の雰囲気や外装はそこまで変わらない。時代の波は押し寄せてきているが、変わらないものもある。

 それが何となく、今の私の気持ちのようにも思えた。


『私たちは人間に敗北した。戦争は終結、これからは好きに生きてほしい。だが忘れないでくれ。魔族の誇りを。……本当にすまなかった』


 魔王様の最後の言葉は、私の心の中でずっと響いている。

 ただそれ以上に、私たちの長である、リグのことがどうしても忘れられなかった。


 彼がいてくれれば……私たちは絶対負けなかっただろう。


「じゃあ、AらんちとBらんちでお願いします。ねえねえ、エリアスさん早く教えてくださいよお!」

「ええ……ご飯食べてからでもいいんじゃないの?」

「じゃあ、どこが好きだったんですか? リグレット? さんっていうんですよね?」

「好きというか、尊敬というかね? そうだねえ――」


 リグは、誰よりも仲間想いだった。


 あの時、絶対絶命だった戦乱の最中、危険を顧みずに駆けつけてくれた。


『――間に合ったか』

『リグ!? なんでここにいるの!? 西の戦争で戦っていたはずじゃ……』

『急いで来た。エリアス、仲間を連れて下がれ。おのれ勇者達め、姑息な手を使いよって』

『ダメよ! 各国が手を組んで世界中の冒険者たちが押し寄せてきてる! 早く逃げないと!』

『俺様は魔界四天王の長、智謀のリグレットだ。仲間が後退するまでの時間を稼ぐ』

『でも……あなた一人じゃ……』

『いいかエリアス、大事なのは生き延びることだ。俺様は死なない。負傷した仲間を――頼んだぞ』


 それが、私とリグが最後に交わした言葉だった。


 後から知ったことだが、これは彼をおびき寄せる作戦だった。

 北のセーヴェル、南のユーク、西のミリア、東のファベル、更にあの勇者御一行までもが集結し、この戦いに全てを賭けていた。


 私たちが逃げる時間を稼ぐ為、退かず単身で戦い抜いたリグは、その強さゆえに倒されることはなかったものの、人類が英知をかけて生み出した封印魔法で閉じ込められてしまった。


 いつ復活するかもわからない、それでも私たち魔族はリグの復活を信じて諦める事はなかった。

 だが戦力面、精神面においても彼がいないことの負担はあまりにも……大きかった。


「――やっぱり、優しいはもちろんだけど、思いやりがあるところかな。後、包容力とか」

「くぅー! 完璧じゃないですかー! 顔は? 顔はどうだったんですか?」

「顔は……まあ、格好よかったかな? 魔族の中でもハッキリとした顔立ちだったし」

「いいなあ! エリアスさんがそんな褒めるなんて初めて聞きましたよ!」


 リグの顔は、今でも鮮明に思い出せる。魔力も匂いも、ご褒美のなでなでも……。


 魔族の寿命は人間よりも長い。

 私はこの命が尽きるまで、リグを待つつもりだ。



 ……だってこんな平和な世界、リグが戻ったら混乱しちゃうよね。



 ランチを終えて店に戻ろうとしたら、心臓が――止まりかけた。

 キョロキョロと周囲を見渡し、耳を澄ませている人がいる。


 外見は人間そのものだが、微力に溢れ出ている優しい魔力を私が忘れるわけがない。


 ああ、やっとやっと……戻って来たんだね。――リグ。


「――お兄さん! 何してるんですかっ」

「な、なんだ!? だ、だれだ!?」

 


 おかえりなさい、リグ。



 これからはずっと、私が守ってあげるからね。


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