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第一話 幕間

 オオノ神が天神界から降りて来ると、待ち構える影があった。竜胆色の長髪を風に靡かせ、空中で跪いている。

蒲牢ほろうか。龍神の里はどうだ?」

「オオノ神様。ご無事をお喜び致し……」

「挨拶など要らん。顔を上げて答えろ」

 美しく澄んだ声音に全く気を取られる事無く、オオノ神はせっかちに返事を急かす。

 は、と声を出して蒲牢は顔を上げた。髪と同じ色の切れ長の目を持つ美女だが、髪は男のように高く結い上げられている。

「里の様子は、あれから全く変わりございません……」

「そうか」

 ふん、とオオノ神は鼻を鳴らす。

「そう懸念する事もあるまい。奴の事だ、すぐに戻るだろう」

「有難う御座います。あの……主神様は何か仰せでしたか?」

「不思議な事にな……神気は感じるがお姿は何処にも見えず……かと言って御神体と化している様子もなくてな。儂にも訳が分からん」

「左様でしたか……あの、宜しければ里へお越しになられませんか? 酒席を御用意致し……」

「いや、少し神境を離れすぎたからな、戻らねばならん。スマンな」

 笑んで言うとオオノ神は身を翻し、狼へと姿を変える。

 蒲牢はオオノ神と直に話す事の出来た幸運にほうと息を吐き、目を細めて遠く去って行く狼を見送った。


 ある日、賦神の神境から飛び去る狼の影を認めて蒲牢は後を追った……切なげな遠吠えが空に響く。

 気さくに眷属にも話しかけてくれるオオノ神を、蒲牢は秘かに慕っていた。そして嫌われてはいないと確信もしていた。

 神と眷属では天と地ほど尊さが違う事は嫌と言う程分かっている。それでも何とか、少しでも御側に居たいと――蒲牢は恋焦がれていた。

「オオノ神様!」

 追いついて声を掛ける。気付かずに進み続けるオオノ神の側に速度を上げて近寄ると、再度、御名を口にした。

 ちらと一瞥するものの、狼の姿のままで足は止まらない。

「あの……」

「何だ」

「賦神の神境へおいでの様子でしたが、何かありました……」

「聞くな」

 鋭い眼で牙を剥き、オオノ神は言う。

 そう命じられれば低位の眷属としては従う他なく、蒲牢は一瞬、黙り込む。

「……私どもは賦神の噂を聞き、調べております。各地の様子も調べておりますが、神身を保ってられるのはオオノ神様と賦神のみのご様子」

 無言でオオノ神は駆け続ける。

 更に話を続けようとすると、オオノ神は神身と化した。一瞬、蒲牢は喜んだが、すぐに笑みを禁じられた……頗る機嫌が悪そうな顰め面だ。

「これ以上着いてくるな」

 言い放つともの凄い速さで飛び去ってしまう。

 以前会った時とは態度が違いすぎ、蒲牢は内心、酷く落ち込んで龍の里へと帰還した。

 神に無下にされたとて己が気分を害するなど恐れ多い事。眷属にあってはならぬ情動の理由は、蒲牢には、分からなかった。


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