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第7話 激突! 天王山、燃える

 ときの声と共に、羽柴秀吉軍と明智光秀軍は、山崎の地で激しくぶつかり合った! 天王山を背にした秀吉軍の先鋒、中川清秀、高山右近らが率いる部隊が、怒涛の勢いで淀川沿いに布陣する明智軍へと殺到する!


「うおおおおっ! 突き進めぇ!」

「上様の仇! 光秀を討て!」


 対する明智軍も、決死の覚悟でこれを迎え撃つ。先鋒を任されたのは、光秀の腹心であり、歴戦の勇将である斎藤利三(人間・男)だ。


「怯むな! 敵は数が多いだけじゃ! 落ち着いて迎え撃て! 鉄砲隊、放てぇ!」


 パンパパパーン!!


 明智軍の鉄砲隊が一斉に火を噴く! 鉛玉が空気を切り裂き、突撃してくる秀吉軍の兵士たちが次々と倒れていく。しかし、秀吉軍の勢いは止まらない。死体を乗り越え、雄叫びを上げながら、槍を構えて突進してくる。


 やがて両軍の兵士たちが入り乱れ、凄惨な白兵戦が始まった。

 ぬかるんだ大地の上で、槍が突き合わされ、刀が閃き、鈍い金属音と肉を断つ生々しい音が響き渡る。飛び散る血飛沫、舞い上がる土煙、そして兵士たちの断末魔の叫び。戦場は、一瞬にして地獄絵図と化した。


「があっ!」「助けてくれ!」「死ねぇぇ!」


 泥まみれになりながら、恐怖に顔を引きつらせながら、それでも兵士たちは槍を握りしめ、敵へと向かっていく。故郷に残した家族のためか、主君への忠義か、あるいはただ、生き残りたいという本能か。誰もが必死だった。


 ***


「……ふん、猿め、数に任せて力押しで来おったか。だが、そう易々とは崩れぬぞ」


 本陣で戦況を見つめる明智光秀(人間・男)は、冷静に呟いた。彼の表情には、かつての温厚さはなく、謀反人としての覚悟と、そして深い苦悩の色が浮かんでいた。


(……これで良かったのか? いや、良かったはずだ。あの方を、あの恐るべき『魔王』から解き放つためには……!)


 光秀は迷いを振り払うように、的確な指示を飛ばす。鉄砲隊を巧みに移動させ、秀吉軍の側面を狙わせる。あるいは、地形を利用した偽りの退却で敵を誘い込み、伏兵で打撃を与える。その知略は冴えわたり、兵力で劣る明智軍は、序盤、秀吉軍の猛攻を巧みに凌ぎ、互角の戦いを繰り広げていた。斎藤利三もまた、鬼神のごとき奮戦ぶりで、光秀本陣を死守していた。


(……だが、あの猿の動き……尋常ではない。まるで、戦場の全てを見通しているかのようだ。……やはり、背後に『何か』がいるのか……? あの御方(信長少女)が……?)


 光秀の脳裏に、本能寺で見た、あの銀髪赤眼の少女の姿がよぎり、背筋に冷たいものが走る。


 ***


「右翼が押されている! 恒興、頼むぞ!」


 天王山の中腹に構えた本陣で、羽柴秀吉は戦況全体を見渡し、的確な指示を飛ばしていた。彼の目には、各部隊の動き、敵の配置、そして戦場の「流れ」が、手に取るように見えているかのようだった。


(……上様(信長少女)の言う通りじゃ……。敵の左翼が手薄……。よし!)


「清秀、右近! 無理に中央を攻めるな! 左翼へ回り込み、敵の側面を突け!」


 秀吉の指示を受け、中川清秀、高山右近の部隊が機敏に動き、明智軍の側面へと回り込もうとする。


「おおっ! 秀吉殿の指揮、まことに的確!」


 右翼で奮戦していた池田恒興(人間・男)も、秀吉の采配に感嘆しながら、自らも槍を振るって敵を押し返す! 彼の勇猛さと、秀吉子飼いの武将たちの活躍により、戦況は少しずつ秀吉軍へと傾き始めていた。


(……ふん、サルめ、少しは使えるようになったではないか)


 京の隠れ家。信長(少女・天狐)は、水晶玉(?)に映る戦況を眺め、満足そうに頷いていた。


(だが、まだ足りぬな……。光秀も、追い詰められれば何を仕出かすか分からん。……仕方ない、少しだけ『追い風』でも吹かせてやるか)


 信長(少女)が、ふっと息を吹きかけると、山崎の戦場に、秀吉軍の背中を押すような、都合の良い風が吹き始めた。その風は、明智軍の鉄砲隊の火薬を湿らせ、彼らの正確な射撃を微妙に狂わせた。


「なっ!? 火薬が湿って……!?」

「風向きが変わった!?」


 明智軍に動揺が広がる。その隙を、秀吉軍は見逃さなかった!


「今じゃ! 押し返せ!」


 池田恒興隊が、風に乗るように明智軍右翼を突破! 中川・高山隊も側面からの攻撃に成功し、明智軍の戦線は大きく崩れ始めた!


「斎藤殿! 危ない!」


 奮戦していた斎藤利三も、秀吉軍の猛攻の前に、ついに力尽き、馬上で深手を負ってしまう!


「ぐっ……ここまで、か……! 光秀様……あとは……!」


 斎藤利三は馬上から崩れ落ちた。明智軍にとって、これは決定的な打撃だった。


 ***


「申し上げます! 斎藤様、討死! 我が軍、総崩れとなりつつあります!」


 本陣に駆け込んできた伝令兵の報告に、明智光秀は顔面蒼白となった。


「利三が……!? 馬鹿な……!」


 もはや、劣勢は明らかだった。兵士たちは次々と逃げ出し、秀吉軍の本隊が、怒涛の勢いでこちらへ迫ってくるのが見える。


「……ここまで、か……」


 光秀は、天を仰ぎ、力なく呟いた。その表情には、無念と、後悔と、そしてわずかな安堵のようなものも浮かんでいた。


(……だが、我が信念、ここで潰えるわけにはいかぬ……! あの御方の真実を、誰かが……!)


 光秀は、最後の力を振り絞るように、佩刀はいとうに手をかけた。


「今ぞ! 敵本陣は目前じゃ! 光秀の首を取れい!」


 秀吉の号令が、戦場に響き渡る!


 山崎の戦いは、ついに最終局面を迎えようとしていた。

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