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第4話 魔王様(少女)のお世話係、拝命!?

「儂こそが、真の織田信長じゃ。まあ、見ての通り、今は少々『若返って』おるがな」


 目の前の、銀髪赤眼、狐耳と尻尾を持つ美少女が、紛れもなく己の主君・織田信長であると認めざるを得なくなった羽柴秀吉。彼の頭脳は、依然として混乱の極みにあったが、同時に、この異常事態をどう乗り切るか、そしてどう利用するか、という計算も始まっていた。


(……とにかく、このお方を、誰にも見られずにここから連れ出さねば……!)


 焼け落ちた本能寺の隠し部屋。いつ、明智の残党や、あるいは他の誰かが見つけに来るとも限らない。


「何をぐずぐずしておる、サル」信長(少女)が、秀吉の思考を遮るように言った。「さっさと儂を安全な場所へ運べ。それとも、この姿を他のうつけどもに見られても良いと申すか?」

「い、いえ! とんでもございません! すぐに!」


 秀吉は慌てて、焼け残っていた布や、自分が羽織っていた陣羽織をかき集め、信長(少女)の小さな体を(失礼にならぬよう、しかし素早く)包み込んだ。


「む……! おい、サル! 苦しいではないか! もっと優しく扱え!」

「も、申し訳ございません! ですが、今はこれでご辛抱を!」


 秀吉は、赤子を抱くように信長(少女)を抱え上げると、「急病人だ! 道を開けろ!」と叫びながら、隠し部屋を飛び出した。外で心配そうに待っていた数名の配下も、秀吉のただならぬ様子と、彼が抱える「何か」を見て、驚きながらも道を開ける。


 焼け跡の外で待っていたのは、腹心の**蜂須賀小六(大河童)**だった。彼は主人の無事な姿を見て安堵の表情を浮かべたが、秀吉が抱える不自然な包みに気づき、怪訝な顔をした。


「お、親分! ご無事で……! そ、その包みは……?」

「小六! よく聞け! これは極秘事項じゃ! この方は……」


 秀吉は小六にだけ真実を伝えようと、声を潜めた。しかし、その瞬間、腕の中の包みから、甲高い声が響いた!


「サル! 揺らすでない! この儂を赤子扱いするか、無礼者!」


(……!?)


 小六(大河童)は、その声と、包みの大きさから、とんでもない誤解をした。まさか、親分は、こんな大変な時に、隠し子を……!? しかも、随分と口の悪いお子だ……!


「ひ、ひえっ!? お、親分! こ、このお子は一体全体……!? まさか、親分の隠し……ゴフッ!?」


 あまりの衝撃に口走りそうになった小六の口を、秀吉が背後から猛スピードで塞いだ!


「馬鹿者! 声が大きいわ! そうではない! 断じて違う!」


 秀吉は顔面蒼白で小声で怒鳴る。小六は「へ? へ?」と目を白黒させている。


「いいか、よく聞けよ……。この方は……」


 秀吉は周囲をはばかりながら、小六の耳元で、信じられないような真実――この少女こそが真の信長であり、妖狐の類であること――を囁いた。


「………………は?」


 小六(大河童)は、一瞬、完全に理解が追いつかなかった。だが、腕の中で不機嫌そうに身じろぎする少女(?)から放たれる、尋常ならざる気配と、主君の必死の形相を見て、それが冗談ではないことを悟った。


「の、の、の、信長様が……こ、狐の幼女に……!? な、南無三!!」


 小六は腰を抜かし、その場にへたり込みそうになった。頭の皿が、恐怖でカチカチと音を立てている。


「いいか、小六! このことは墓場まで持っていけ! もし他の者に漏らしてみろ、お前の頭の皿を叩き割って、きゅうりの漬物にしてくれるからな!」


 秀吉は(半分本気で)脅しをかける。


「が、がってん承知でさぁ!」


 小六(大河童)は涙目で、しかし主君への忠誠心から、固く頷いた。


 ***


 こうして、三人は(秀吉が信長少女を抱え、小六が周囲を警戒しながら)、人目を避け、裏道を使い、京の町中に秀吉が密かに用意していた隠れ家(元は商人の屋敷だったらしい、それなりに立派な家)へとたどり着いた。


「……ふん。猿の隠れ家にしては、まあまあか。だが、狭い! 庭もないではないか!」


 部屋に入るなり、信長(少女)はふんぞり返ってダメ出しを始めた。秀吉は疲労困憊だったが、逆らうわけにもいかない。


「も、申し訳ございません! とりあえず、こちらで……」

「まあよい。それより、儂は腹が減ったぞ、サル。南蛮菓子はまだか?」

「は、はい! すぐに用意させ……」


 秀吉は、すぐさま光秀討伐のための情報収集や、兵の再編成に取り掛からなければならなかった。しかし、この小さな(しかし、とてつもなく厄介な)魔王様を放っておくわけにもいかない。


 そこで、秀吉は苦肉の策を思いついた。


「小六!」

「へ、へい!」


 秀吉は、未だに信長(少女)の存在に怯えている小六(大河童)の肩を掴んだ。


「しばらくの間、上様(少女)のお世話と監視役を、お前に命じる!」

「へっ!? あっしが、このお方を!? む、む、無理ですぜ、親分! 恐れ多くて……それに、あっしは戦働きの方が……!」


 小六は必死に抵抗する。河童の彼にとって、陸の上で、しかもこんな恐ろしい存在(?)の世話をするなど、考えただけでも身の毛がよだつ。


「問答無用! これは命令じゃ! いいか、上様の身に何かあれば、お前の首はないと思え! 何かあればすぐに俺に知らせろ! そして、絶対に、絶対に外へ出すなよ!」


 秀吉は有無を言わさず、信長(少女)の世話を小六に押し付けると、嵐のように隠れ家を飛び出していった。「あとのことは頼んだぞー!」という無責任な言葉を残して。


「お、親分ーーーっ!!」


 後に残されたのは、呆然とする小六(大河童)と、そんな彼を紅い瞳でじっと見つめる信長(少女)だった。


「……ふむ。サルは行ったか。……おい、河童」

「は、はひっ! な、なんでございましょうか、上様!」


 小六は背筋を伸ばし、直立不動の姿勢をとる。


「喉が渇いた。冷たくて、とびきり美味い水を持ってこい。それから、肩を揉め。長旅(?)で凝っておる」

「み、水……肩揉み……で、ございますか……?」

「そうだ。さっさとしろ、愚図が」


 信長(少女)は、ふかふかの座布団(いつの間にか用意されていた)の上にちょこんと座り、ふんぞり返って命令する。その小さな足が、ぱたぱたと床を叩いている。


(……終わった……。あっしの人生、ここで終わったかもしれん……)


 小六(大河童)は、頭の皿を抱えながら、これから始まるであろう、苦難に満ちた「魔王様(少女)のお世話係」としての任務を思い、遠い目をするしかなかった。


 一方、秀吉は、信長(少女)という最大の秘密兵器(あるいは爆弾)を抱えながら、打倒・光秀、そしてその先の天下取りへと、決意を新たにする。


(あの力……うまく使えば、天下も……。だが、一歩間違えば……)


 彼の心には、野心と同時に、得体の知れない存在への畏怖もまた、深く刻み込まれていた。

この小説はカクヨム様にも投稿しています。

カクヨムの方が先行していますので、気になる方はこちらへどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16818622172866738785


もしくは・カクヨム・ケモミミ神バステト様・で検索ください。

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