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勇者の再解釈  作者: 氷上 栄紀
オープニング
9/14

1-8.伝染する勇者

あけましておめでとうございます!

年末年始とバタバタしてしまい、更新できずでお恥ずかしい限りです。。。

今週から一先ず最初の村編が終わるまでは週一更新目標で改めてやっていきたいと思っているので、よろしくお願いします!

村長が突然パーティの開催を宣言してから2時間が経つ頃、すっかり暗くなった代わりに大きな焚火が周囲を照らしていた。そこかしこからいい匂いが漂い、笑い声が響いている。普段はあまり飲めないらしい酒まで開けられ、大変な盛り上がりを見せている。


村を訪れる人が減り生活が苦しい中、何故パーティなんぞを開くのかといった反対の声もあったようだが、やはり皆我慢を強いられていたからだろう、全力で騒いでいるように見受けられる。その様子を眺める村長もご満悦のようだ。


「ヒロさん、楽しめていますか?」

「はい、お陰様で。どの料理もとても美味しいです!」


リンカが飲み物を注ぎつつ話しかけてくる。日中は少し気まずそうな雰囲気だったが、もう大丈夫そうだ。


「それにしても、どうして突然パーティなんか?」

「うーん、ヒロさんのことを応援するパーティですよ!正直こんなに大きなパーティだとは思っていませんでしたが、おばあちゃん結構そういう滅茶苦茶なところがあって…」


薄々感じていたことだが、やはり明日薬草を取りに行く自分の応援という趣旨のこのパーティは少し違和感があるようだ。おそらく村人のガス抜き的な側面が強いのだろう。実際、幾人かの村人と会話したところ何のパーティなのか分かっていない人も多いようで、また村長が何か面白いことを始めた程度の認識のようだ。


元の世界では食べたことのない料理も含め堪能していると、4人の子供たちが近づいてきた。シンと彼の部屋で出会ったその友達3人だ。


「勇者様。明日はその…どうかお姉ちゃんを助けてください!」


この場に出てこられるほど回復したらしいシンは、開口一番願いを口にする。真摯に、切実に、悲壮に。


「大丈夫、勇者である私が来たんだから。明日はお姉ちゃんのそばで待っていてね。」


引き戻された現実に震える手を()()()という虚構を張り付けて必死に隠し、まだ幼い勇敢な少年の頭を優しくなでる。


― 大丈夫、私は勇者だから。

― 大丈夫、薬草を取ってくるだけだから。


誰に向けたものか分からない「大丈夫」は、はたして口から零れていたのだろうか。

顔を上げた少年の目は、希望と不安がないまぜになっていた。


「そうだ、いいものをあげよう!」


いいアイデアだと借りていた鞄から財布を取り出す。その中にはお守りが入っていたはずだ。今の自分にこそ必要なものな気がするが、生憎ノリで買っただけでそういったものは信じない質だ。朱色のお守りを少年に渡し、簡単に説明してやる。


「これはお守りって言って、神様が力を貸してくれる道具なんだ。」

「神様が!?すげぇ!!」


ゴブリンが存在するこの世界ではもしかして神様も実在するのでは?等と言ってしまった手前、手遅れなことを考えつつ、一先ず目の前の少年に瞳が輝きを増した気がするので良しとする。


しかし安心したのも束の間、すっかり置いてきぼりとなっていたシンの友達3人がうらやましそうにシンの手元を睨みつけつつ、こちらをチラチラと見てくる。


硬貨の1枚ずつでも渡そうかと思いつつ、どうせこの世界では価値のないものだと安財布ごとあげてしまうことにする。財布に入れている免許証だけ取り出…そうとしたが見つからなかったので、財布ごと渡してあげる。


子供たちは財布にお金と大興奮だ。案外この世界では価値が高かったのかもしれないと早速後悔し、充電切れで現状価値無しの手元に残したスマホは手放すにしてもちゃんと考えようと決心する。


そんなとき、会場の中心から声がかかる。


「勇者ヒロ、こっちへおいで!」


衆目に晒されることに抵抗を覚えつつも、やむなく中心へ向かう。


「さて、こいつが本日の主役だ。もう大半のものが知っているだろうが、勇者のヒロだ。」


酒が入っている人が多いからか、陰口が大半だった昼間とは打って変わって大盛り上がりだ。


「こいつはシンからの願いを聞き、シンの姉ジルを助けるために、明日キリユキ草の採取に向かう!」


更に会場のボルテージが高まっていく。何か所からは自分の名前が大声で叫ばれているのが聞こえてくる。


しかし、その熱気に冷水を浴びせるように、村長の声のトーンが下がる。


「すまない、今のこの村ではお前さんにしてやれることがこれ位しかないんだ。」


突然謝罪を始めた村長に村人たちが目を丸くし静まり返る。


「お前さんはあまり知らないかもしれないが、この世界には冒険者という仕事がある。簡単に言えばお金を払えば何でもやってくれるやつらだ。だが今のこの村ではキリユキ草の採取を頼むことすらできない。森の魔物が活発になっていることが原因だけどね…」


こちらに向き直った村長は、はっきりとよく通る声で話しているがどこか弱弱しい雰囲気を感じた。


「だから勇者のそいつにやらせるんだろ!!」


空気を読めない青年が声をあげる。口に出さないものの同じことを考えている人が一定数いることが、数段高くなっている壇上からはよく見えた。


「馬鹿者!我々はヒロに死ねというのと変わらない頼みごとをしているのだぞ。それも金が払えないときたら冒険者に無償で働けと言っているようなもんだ。」

「それは…いや、勇者で死なないんだから別にちょっとくらい良いだろ!」

「勇者は、いや死なない人にだったら何をさせてもいいってお前は言うのか!!」


人の声が闇に飲まれた中、焚火の音だけがパチパチと響いていた。

1つ息を吸い込み村長が頭を下げる。


「金は無い。渡せるものも何もない。でも頼む。ジルを救うため、キリユキ草を取ってきてくれ。」

「自分は…自分はただ、シンという姉を救おうとする勇者の意志を継ぎたいだけですよ。」

「適材適所」という四字熟語がありますが、これってどう思います?

適した材を適した場所に配置することで最大効率を目指そうぜっていう意味だと解釈していますが、確かにいいことを言っているなと思う一方、どれくらい汎用的な考え方なんだろうと思うことがあります。


例えば適した人がいないものがあったら?

めっちゃすごい人だけど、偶々その人を生かせるものがなかったら?

等々。


あくまでも「適材適所」を理想に頑張っていきましょうと言う考え方だと思うので、

例として挙げるのは不適切ではあるものの、現実問題、限られた財で限られた範囲に留まる状況では往々にして起こり得ることなのではないでしょうか。


その一例が今回の勇者が置かれている状況です。

普通の村人には危険なため、森に入り薬草を採取することができない。


では勇者は?

村人と変わらないリスクを負うが、失敗しても死なないためリターンがマイナスになることは無い。

結論として、限られた今の状況では適材適所と言えるでしょう。


前回の後書きでも「死なない隣人」がいたらどうだろうというお話をしたと思いますが、

情を捨て利だけで考えるのであれば、大変便利なのだろうと思った今話でした。

ではまた次回!

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