1-7.託される勇者
3週間も空いてしまい申し訳ありませんでした。。。
今週から復帰です、年末年始更新するかは分かりませんが。
あぁ、勇者とはそういう生き物なのでしょうか。
いくら苦しんでいる幼い子がいるからと言っても。
いくら死なないと言っても。
どうして出会ったばかりの他人のために命をかけられるのでしょうか。
毒に侵され体のあちこちに青黒い痣が浮かんでいる少女がいる。シンの姉のジルだ。
私は眠り続けるそんな彼女の目の前で、優しく微笑み「薬草を取ってくるから」と励ましているヒロさんを見ながらそんなことを考えていた。
いえ、私にそんなことを考える資格はないのでしょう。
だって私も、勇者なんだったら助けてくれと言ってしまいそうになったから。
小さいころに何度も読んだあの御伽噺の勇者様のように強い訳でもないのに淡い期待を抱いてしまった。
― いや、強いかどうかなんて本当はどうでもよかった。
― だって、死なないんだから。どんな結末が待っていようと必ず帰ってくるのだから。
― 試しにやってもらってもいいじゃないか。
自分が考えていたことが明瞭になっていくにつれ、リンカは自己嫌悪に陥っていった。
本当に心から助けたいと思って、薬草を取りに行くと言ってくれたのだろうか。
私が、私たちが考えていたことが伝わってはいないだろうか。
自分の醜さが浮き彫りになっていくような感覚だった。
「リンカさん、武器とかってお貸しいただけないでしょうか?」
武器、即ち戦う道具。当然のことながら、やはりヒロさんはそういった事態を想定している。
それでも、私は純真無垢なただの村娘だから。今日も愚かなふりをして答える。
「武器ですか?それでしたら村の倉庫のものが使えるかと思います。念のためおばあちゃんに確認してきますね。」
◆
何となくリンカが気まずそうな雰囲気を醸し出していたので、一度別行動とし村の中を散策させてもらうことにした。
アストフ村は農業や狩猟で自給自足を行いつつ、対外的には村周辺の希少な薬草やそれを加工した薬等で経済を回している村だ。近頃は魔物が活発になったため、薬草採取や狩猟に行くことが困難になり、大半の人間が村の中で日々を過ごしている状況らしい。
そんな状況の村では、道端でつまらなそうに雑談を交わしている人が多く、そこに突然現れたよそ者、それも勇者で村の少女のために薬草を取りに行ってくれるとなれば、最高のネタだ。
― 昨日村に来た人って勇者で…
― 知ってる知ってる!ジルのために薬草を取りに行くらしいよ!
― えー危ないんじゃない?あっ、でも勇者なら…
あちこちから向けられる嫌な視線と、そこかしこから漏れ聞こえる話はどこも似たようなものだった。この世界での命の重さは分からないが、正直勇者の扱いは分かってきた。勇者であることを隠す必要性があったことも。
不運にも教会に子供が居合わせたことで、この村で隠し通すことは困難となってしまったが、今後の方向性は決まったと言っていいだろう。
雑音を意識的に耳から外しながら歩いていると、村長を連れたリンカから声がかかる。
どうやら武器を融通してくれるということで話がまとまったらしい。
丁度近くまで来ていたようで、直ぐの所にあった村の倉庫へ入れば、剣や槍などのいくつかの武器と盾があった。
実際に刃の付いた武器なんて持ったことどころか見たことすらないが、不思議と抵抗感は無かった。体育の授業で剣道をやったことがあったので、多少はましかと直剣を手に取ってみる。
やはり本物の剣は木刀とは比べ物にならない重さで、なにより存在感が違った。
これは命を奪う道具だと鈍く輝く刃が主張してくるようだ。
何とも形容しがたい圧に飲まれそうになるが、もしもの場合は命を預けるものだ。素人ながら村長にアドバイスをもらいつつ、一通り武器を確認していく。
長さや形がことなる数種類の剣、槍、斧と試してみたが、結局最初に持った直剣を借りることにした。盾も悩んだがこれ以上色々と持つと動きが阻害されてしまいそうなことを理由に剣だけにすることにした。
また回復用のアイテムもいくつか準備してくれるということで、眉唾な効き目の説明に若干戸惑いつつも出発前に受け取ることになった。
ある程度、武器や荷物の準備ができたころには、日が傾き始めていた。
ぼちぼちリンカの宿に戻らせてもらおうかと考えていた時だった。
「よし、お前さんが頑張れるよう、ちょっとパーティでもしようじゃないか!」
何を思ったか、突然村長がパーティの開催を宣言した。
勇者は託される者の代名詞と言っても過言ではないでしょう。
今まで何人の勇者が世界の命運を託されてきたのでしょうか。
さて本作では今回、村のある少女の命を託された訳ですが、まぁ序盤の勇者としてはありふれた展開かもしれません。
なので今回は、託された勇者ではなく、託す側について考えてみたいと思います。
当たり前の話ですが託される者がいるということは、託す者もいるということです。
自分ではどうしようもできない、だから誰かに託す。
ストーリとしては王道かと思いますが、改めて考えてみるとどうでしょう。
中々酷いもんですよね、自分にできないことを他人に押し付けているのだから。
それどころかこの世界では「勇者は死なない」という常識が染みついているからこそ、
もし失敗したとしても頼んだ本人に害はないという考えに至ってしまいます。
正直この考えの流れはある意味合理的で必然な部分もあると私自身感じてしまいますが、
もし自分がこの立場で託して、自分の中でこんな打算があったと気付いてしまったら、リンカと同じように自己嫌悪に陥ってしまうかもしれません。
我々はもし目の前に死なない存在がいたとして、どのように接するべきなのでしょうか??