1-4.来訪する勇者達③
― 勇者マニュアル ―
前提としてこれを読むことができているということは、君は勇者である。
この1点は揺るぎない事実である。
だが勇者とは君がイメージしているものとは違うかもしれない。
だからこの世界の勇者について綴ろうと思う。
先ず、今のこの世界において勇者とは唯一ではない。
私は少なくとも37人の勇者がいることを知っている。
次に、この世界において勇者とは絶対ではない。
勇者である君たちよりも強い人間はたくさんいる。
「勇者にしかできないこと」なんてものはほぼ無いだろう。
だが君たち勇者と我々人間には確かな差が1つだけある。
それは、君たち勇者は何度でも生き返ることができる点である。
もしまだであれば、これを読み終わり次第、教会にある石碑に触れること。
最後に触れた石碑が君たちの生き返る場所になる。
勘違いしてはいけない。
君たちは死なないのではない、死んだら生き返るだけであることを。
これがこの世界に在る勇者という我々人間とは似て非なる生物の全てである。だから安心して欲しい。
君が勇者であることは変えようのない事実だが、大して人間と変わらない。
勇者だからと魔王と戦う必要があるわけではない。
生き返るからと命を懸ける必要もない。
だが差し当たって決めてもらわないといけないことが1つだけある。
勇者であることを隠すかどうかだ
隠さないというのなら特に言うことは無い。
運命に身を委ねろ。
もし勇者であることを隠して生きていきたいのならば、王都にある大教会へ向かえ。
必ず君の力になると誓おう。
◆
この勇者マニュアルで分かったことを頭の中で整理する。
先ず、やはり自分は勇者であること。
これについては先ほど石碑に触れたときからほぼ確定していたのでそこまでの驚きはない。
実際にいるのか知らないが、魔王と戦うといった使命が無さそうであることは大きな収穫だろう。
また自分以外にも勇者が複数いるというのも安心材料だ。
次に勇者である自分は死んでも先ほど触れた石碑で生き返るが、それ以外に特別なことはないこと。
特別な力が無いというのは正直少しだけ残念な気持ちもあるが、進んで戦いたい訳でもないから問題ないだろう。
唯一、死んでも実際には死なないという力があるようだが、死ぬ予定も危険を冒す予定もないので、やはり普通の人と変わらない想定でいるのが良いだろう。
最後に今後の振舞い方について。
勇者だからといって特別な使命があるわけでないと書いてあったことに加え、態々魔王に挑みたいとも思えない。勇者であると広まるメリットは無いだろう。
「リンカさん、私が勇者であることは…」
「分かりました、誰にも言いません!」
同行者の食い気味な返事に戸惑いつつも安堵する。
後は村長に話を通せば広まることは無いだろう。
勇者であることを隠す方向で考えをめぐらせる。
勇者マニュアルには「王都にある大教会へ」と書いてあったが…
再び勇者マニュアルが作り上げた空中の文字へ目を向けたその時だった。
突然宙を舞う紙が青白い炎に包まれる。
危険を感じ反応するころには僅かな灰も残さず本だったものは消え去っていた。
「今のは一体?」
疑問をリンカへ投げかけるも、彼女の反応から答えを持ち合わせていないことを知る。
勇者は特別でないという書きっぷりだったが、先の石碑の時と言い何かあるのではと疑わざるを得ないことが起きていた。
こうなると勇者であることを隠し通すと即決したつもりだったが、再考する必要性が感じられる。
いずれにしろこの世界について情報を集めつつ、一度じっくり考える時間が必要だと判断しリンカに頼む。
「もしできれば、もう一度村長とお話できないかな?」
「はっ!?そうですよね、私も驚く事ばかりで疲れてしまいましたし、一度おばあちゃんの所に戻ってご飯にでもしましょう。」
2人は教会を後にし、村長宅へ向け歩き始めた。
サブタイトルが勇者「達」なのに1人じゃんと思ったあなた!
大正解です、どう読んでもこのシーンで出てきている勇者は主人公1人です。
ただこの光景は世界各地でそこそこの頻度で起こっているようです。
よく分からないまま保護されて、教会へ行って勇者マニュアルを読んでリスポーン地点を更新する。
そんな世界観を表したく勇者「達」にしてみました(ここでネタばらししちゃっているけど…)
さて、本文でも出ていますがこの世界で勇者はOnly Oneの存在ではありません。
人間よりは大幅に少ないものの「勇者」という種族の生き物が一定数います。
そしてその特徴は「死んでも生き返る」ただそれだけです。
これでこの世界における勇者の普遍的な定義がされました。
まだ世界観の説明のような回が続いてしまいますが、少しずつ話が進んでいく予定です。
私自身、ある世界で勇者になり魔王と戦う旅をしている最中で大忙しなのですが、
引き続き1週間以内に更新できるように頑張りますので、お付き合いいただけますと幸いです。