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勇者の再解釈  作者: 氷上 栄紀
1章:最初の村
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1-3.来訪する勇者達②

「今向かっている教会とは、リトピス教が管理する建物で、聖霊石(セイレイセキ)が納められている場所のことです。」

「聖霊石?」

「はい。女神様が我々に授けてくださった聖なる力を放つ宝玉です。これがあるおかげで村の中には魔物が入ってこないんですよ。」


昨日のこともありもしやと思っていたが、やはりこの世界には魔物がいるようだ。

勇者となってしまった今戦う必要があるのだろうか。


村の様子を眺めつつ歩いていると教会と思しき建物が見えてくる。

小高い丘の上に立っていたせいで見えていなかったが、この村で一番大きい建物だろう。

近くで見てみると、どうやらこの建物も石できているようだった。

新しさはないものの白い石壁に反射する光がどこか神聖さを醸し出している。


「教会と言うと司祭様とかがいらっしゃるんですかね?」

「司祭様?はよく分かりませんが聖女様がいらっしゃいますね。尤もここみたいな小さな村ですと、偶に聖霊石の様子を見に来てくださる位ですが。」


なるほど、一先ず変に畏まる必要はなさそうだと一息つく。

リトピス教という宗教的な建物ではあるようだが、リンカの口ぶりから察するに、宗教というよりも聖霊石を管理してくれる人たちといった認識なのかもしれない。


ドアを開け躊躇う素振りもなく入っていくリンカの背中に続く。

足を踏み入れると赤い絨毯の上に二列で規則正しく長椅子が並んでいるのが目に入る。

その中でも一際目を引くのが祭壇の上で青白く輝いている宝玉だ。


「これが先ほどお話した聖霊石です。この淡い光がどこか儚げで、見ると何となく落ち着くんですよね。」


聖霊石の正面で立ち止まったリンカは、両手を組み祈りをささげ始めた。

この世界の作法は分からないが、見様見真似で祈りをささげる。


姿勢を解いたリンカは祭壇に埋め込まれていた石碑に手を伸ばす。


「この石碑は私たちの体を流れる魔素を聖霊石に送るためのものです。どれくらい力になれているのか分かりませんが、少しでもと思って…」


悲しそうな表情をしたリンカが石碑に触れると、ほんの少し光が強くなった気がした。

危険性はないようなのでリンカと代わり手を伸ばす。


― 勇者「ヒロ」登録を確認

― リスポーン地点が更新されました


頭の中に事務的な声が響く。

リスポーン地点の更新?ゲームで言うチェックポイントに辿り着いたようなイメージだろうか。

勇者は死なないという情報と照らし合わせると、万が一があった場合にはここに戻ると考えてよいだろう。


「ヒロさんっ、ヒロさん!大丈夫ですか!?」


名前を呼ばれ意識を引き戻される。


「良かった、何ともなさそうで。いきなり聖霊石が光った後、動かなくなるから何かあったのかと思いました。」


一瞬の出来事と認識していたが、心配になる程度の時間が経っていたようだ。

意識がクリアであることを確認し応答する。


「心配かけてすみません。大丈夫です。ところでこういう事ってよくあるんですかね?」

「魔力が強い人が触ると光が強くなるって話は聞いたことありますけど、詳しくは知らないです。ごめんなさい。」


どうやら珍しいことではあるものの、噂程度には知られている現象だったようだ。

だがこれは魔力が強いことが理由なのだろうか。

否、先ほど聞こえた声を考えればきっとこれは勇者だったから起こったのだろう。

そんな考えを頭の片隅で続けつつ、リンカと共に祭壇の袖にある小部屋に移動する。


小部屋にある本棚には子供向けと思われる絵本から、見慣れない幾何学模様が描かれた分厚い書物までみっちりと詰め込まれている。

その中から手分けして勇者マニュアルなるものを探していく。


― 「薬草採取入門」と書かれた図鑑

― 「生活魔法10選」と書かれた手帳

― 「勇者と3人の仲間達」と書かれた絵本


「見つけました!」


リンカが声を上げる。

手渡されたその本は緑色の表紙に大層な金の刺繍で「勇者マニュアル」と刻まれていた。

タイトルの下に埋め込まれた赤い小さな宝石が目を引く。


外観を確認し終えると、いよいよ表紙をめくる。

始めのページには短い2節が書かれていた。


― もし君が勇者であるならば、赤の宝石に魔を込めろ。

― もし君が唯人であるならば、この本は火にくべるといい。


残念ながら村長の話と先の石碑から聞こえた声を考えれば、自分が勇者であることは事実に違いない。

であればこの本の中身を確実に知る必要がある。


石碑に触れたときの感覚を頼りに、表紙の赤い宝石に魔素を込める。

すると宝石の色が赤から青に変わり、本が手から飛び上がった。

ページが舞い、文字が躍る。

目の前には()()()からのメッセージが浮かび上がった。



もし仮に今、異世界転移してあなたは勇者ですと言われたら受け入れることはできますか?

一緒に転移してきたクラスメイトAは、俺様が勇者と喜ぶかもしれませんね。

でもまぁ普通に考えたら戸惑いの方が大きいでしょう。


勇者と言えばもしかしたら魔王と戦わないといけないかもしれません。

傷つくこともあるでしょう。村人でいいのにと思うこともあるでしょう。


ではもし、勇者であることが確定してしまったらどうするべきでしょうか。

そんな状況にいるのが本作の主人公「ヒロ」です。

少しでも手掛かりをと求めた情報は一体何をもたらすのでしょうか。


徐々に明らかになるこの世界における勇者の輪郭。

まだまだゲームで言う最初の村・オープニングの位置づけですので、

先ずは一区切りお付き合いいただけますと幸いです。

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