1-2.来訪する勇者達①
「チュンチュン」
小鳥の鳴き声で意識が浮上する。
穏やかな朝を感じつつ瞼を開くと、見慣れない木造の天井が目に映る。
ここはどこだろうか?寝ていたベッドに腰掛け、未だ覚醒しきらない頭で記憶をたどる。
「昨日は確か…」
有り得ないはずの光景がフラッシュバックする。
緑の二足歩行する生き物、骨を砕いた感触、脇腹を抉られた感覚。
悪い夢を見たと終わらせたい所だが、手に残る嫌な感触が現実感を押し付けてくる。
「そうだ、森の中で意識を失って、それから」
ガチャッ。ドアが開き見知らぬ女性が入ってくる。
「まぁ!目が覚めたのですね。良かった。」
麻製と思われる白いワンピースを纏う彼女は満面の笑みを浮かべる。
思わずコスプレイヤーさんですかと聞いてしまいたくなるような村娘だが、きっとこれも現実なのだろう。
そんなことを考えながらも警戒しつつ話を続ける。
「あなたは一体?」
「あっ、ごめんなさい。私はここアストフ村で宿屋を営んでいるリンカと申します。」
「ご丁寧にどうも。自分はヒロと言います。」
相手から名乗られたらこちらも名乗り返すのが礼儀だろう。
しかし何も分からないこの状況で本名を答える必要性も感じず、よく使うプレイヤーネームを名乗る。
「ヒロさんですね、昨日は内の村のシンを助けてくださり、本当にありがとうございました。」
「!?そうだ、あの少年は?」
「まだ目を覚ましていないそうですが、お陰様で無事のようです。」
命を懸けた行動は無駄にならずに済んだようだ。心の底から安堵する。
二度とあんな経験はごめんだが。
「そうでした。目が覚めたらおばあちゃん、じゃなくて村長の所に連れてくるように言われているのですが動けそうですか?」
身体の調子を確認しようとして服が変えられていることに気付く。
「あのぉ、自分の服とかって…」
「ごめんなさい。お洋服は血で汚れてしまっていたので処分させていただきました。あっ、でもポケットに入っていたものならそちらの机に。」
スマホに財布と持っていたものはそのままのようだ。スマホの充電は切れているが。
改めて体の調子を確認する。
?昨日傷を負ったはずの左脇腹を見るが包帯もなく痛みも感じない。やはり昨日のは夢だったのだろうか。
混乱しつつも体が正常であることを確認し答える。
「では、すぐ隣の村長の家に行きましょうか!」
◆
「おばあちゃん、昨日の人が起きたよ!」
「あんた、まさか客人を外においてるわけじゃないだろうねぇ?」
ドアの向こうから賑やかな声が聞こえてくる。
目の前のこの建物は石造りの2階建てで、ざっと見渡した感じ村の中では先ほどまで居た宿屋に次いで大きく思われる。
「やぁお客人。馬鹿な孫が悪かったね。さっさと入んな。」
ドアが開き、促されるまま席に着く。
正面には村長が、その隣には温かい紅茶らしきものを運んできたリンカが座る。
「さて、私はリンカの祖母で、このアストフ村の村長のメリダ。あんたはヒロって言ったか?昨日はシンを助けてくれてありがとうね。」
うすうす感じていたが、とても勢いのあるおばあ様だ。
息つく暇もなく詰め寄ってくる。
「ところであんた、見ない顔だけどあんな森で何をしていたんだい?それもまたこんな荒れた時期に。」
ワントーン下がった声に背筋が伸びる。
素直に答えてよいものだろうか?
一瞬悩みつつも只者に見えない村長の圧を前に正直に話すことにする。
「目が覚めたらあの森にいて。通じるか分からないのですが、この世界とは違う世界から来たんだと思います、多分。」
沈黙が流れる。やはりとんでもないことを口走ってしまった。
普通に考えれば頭がおかしいやつ認定されてしまう一言だろう。
恐る恐る様子を伺うとポカンと間の抜けた表情のリンカの横で、村長は納得顔をしている。
「そうかい、珍妙な服装をしていたと聞いてもしやと思っていたが、やっぱりあんたは勇者だったんだねぇ。」
「勇者??」
聞き流せないその単語に思考がフリーズする。
勇者?自分が?
「勇者とは若いころ会ったことあるが、来たばかりのと会うのは初めてだったかな?噂によると人の家に勝手に上がり込んだと思ったらタンスを漁ったり、片っ端から壺を割るようなヤバいのもいるらしいじゃないか。そんな訳でどうしようかと悩んでいたのさ。話している感じあんたは大丈夫そうだが。」
「えっ。それってどういう!?」
「まぁ私も勇者について知ってることはあまりない。他に知ってることと言ったら、あんた達勇者は死なないってことぐらいかな。」
―はっ?
―タンスを漁る、壺を割って回る。
―そして死なない?
―それってまるで……
絶句していると村長の隣から身を乗り出したリンカが瞳を輝かせてくる。
「勇者!?私、本物の勇者に会うの初めて!!」
「おや、そうだったかい?だったらあんたが教会に連れていってやんな。本棚に勇者マニュアル?とかいうこいつらに読ませる用のやつがあったはずだ。どうせ今日も暇なんだろう?」
「確かに暇だけど。おばあちゃんの意地悪~
ではヒロさん、そんな訳で教会にお連れしたいのですが?」
状況は飲み込めないながらも、教会に行けば更なる情報が手に入ると踏み、肯定の意を示した。
最低でも一週間に一本と言いつつギリギリセーフ。
文章量は全然少ないはずですが、慣れないとなかなか忙しいですね。
改めて皆さんすげぇと畏敬の念を抱かざるを得ません。
さてストーリでは早くも「勇者」が出てきましたね。
この世界における勇者の定義、
すなわち勇者の再解釈というこの作品のテーマの土台になる部分です。
ここから数話で叩き台として徐々に出していく予定なので、お付き合いいただけますと幸いです。