1-10.不穏な独白
暫く更新ができておらず申し訳ありませんでした。
ちょっと色々とやりたいことがあり。。。
またボチボチ進めていこうと思うので、よろしくお願いします!
アストフ村を出たのが正午、そこから休憩をはさみつつ歩き続け2時間ほど経っただろうか。始めは整備された道だったものが、ただ踏み固められただけであろう凸凹な地面に変わり、今ではもう人の気配が一切しない自然の中だ。
ここまでやってきた目的は一つ、毒消しポーションの材料になるキリユキ草という薬草を採取するためだ。この薬草は辺りが温かい黄や赤に彩られている今の季節の中、紫色の花を咲かすということで、近くまできたらきっと分かるだろうと村長から聞かされていた。しかしまだ見つけることはできていない。聞いていた通り希少な薬草なのだろう。だが希望はある。冒険者が多く村を訪れていた時に群生地とまでは言えないまでも、採取スポットとして有名だった場所があるのだ。今はそこへ向かっている。
その場所は自然豊かな森の中で一際異質な岩肌がむき出しになっている小山の麓だそうだ。スマホの充電が切れており(電源が入ってもどうせ圏外)地図が使えない状態でもこの目立つ目的地を見失うことはなさそうだ。また魔法様様、帰る方角を見失うこともない。最後に訪れた教会の方向が分かる魔法があるのだ。そのため不安を抱えながらもここまで確かな足取りで進んでくることができた。
ちなみにこれまでの道中で、魔物との遭遇は一度もない。それどころか生命溢れる大自然の中にいて不気味なほどの静けさに包まれている。時折吹く冷たい風によって草木が奏でられるくらいだ。左腰にぶら下げた剣に視線を送りつつ、抜く機会が無いことを祈る。
それにしても驚くほど疲労がやってこない。この世界に来る前は2時間も歩き続けることなんてそう無かったはずなのに。この悪い足元の中で疲労なしで歩き続けられているのは気付いてしまうとあり得ない状態だ。まぁ自分にも魔法が使える世界だ。体のつくりが元と変わっていても不思議ではない。手慣れてきた水魔法で喉を潤す。
体の変化と言えば、やはり「死なない」というのが最も大きい部分だろうか。流石に試すわけにはいかないが、もしこれが本当であれば太古から権力者が求める「不死」を実現していることになる。この世界に複数いるらしい『勇者』に共通した特徴であるようだが、世界全体で見れば特別な才能と言って良いだろう。
だがそのせいで、現在進行形で酷い目にあっている。今いる森は普段村人も立ち入ることができるほど穏やかな森らしいが、異常事態が発生しているらしい現在、村人どころか冒険者ですら立ち入らない危険地帯と化している。そんな場所に「死なないならいいか」という理由で送り出されたのだ。どうしてこうなったのかと頭を抱える。
記憶をたどっていけば自分が勇者であることを隠そうとした矢先、偶々教会での一幕を見ていた子供に勇者であることを暴露されたのが始まりだ。それを聞いたシンに、毒に侵された姉をどうにか助けたいと懇願されたのだ。そしてその願いに応えるため今に至る。見事なまでにRPGの序盤に相応しいストーリ展開だ。だがここで猛烈な違和感に襲われた。違和感の原因を探していく。
― 勇者の扱いが酷い?
死なない人間が近くにいたら、危険を承知で頼みごとをしたくなってしまうのは理解できる。当事者の今、納得はいかないが。これじゃない。
― 勇者であることが分かった途端に頼みごとをしてくるシン?
他の村人達に頼み込んでもダメ、自分でどうにかしようとしても死にかける始末。そんな状況で絵本に出てくる勇者様と同じような存在が目の前に出てきたら泣きつくのも頷ける。どこまでも真っ直ぐに姉を救いたいと願う彼の姿勢に違和感などあるはずが無い。
―何故自分はキリユキ草を取りに行くと答えたのだろうか?
勇者を見る村人たちの反応が恐ろしかったのもある。もしかしたらこれからお世話になるかもしれないこの村に、恩を売っておきたかったという打算もある。何より真剣に家族を救いたいと願う少年に心を打たれたというのもある。
だが自分はその程度のことで危険に飛び込むことができるほど、できた人間だっただろうか?
違和感の正体にぶつかる。一番理解できなかったのは自分自身の行動だ。自分がこの世界において勇者だという事実に酔っていたのだろうか。いや、どちらかと言えばこの世界の過酷さの一端を垣間見て、寧ろ恐怖を覚えていた。あの時は冷静だった。だがそれでも自分がどうにかしなければと強く思っていた。その感覚は今でも変わらない。
では元々目の前に苦しむ少年がいる場面で、率先して助けに行くような質だったのだろうか。思い返してみればこの世界に来た日の出来事もそうだ。ゴブリンに襲われているシンを、危険を冒してでも助けたのは打算があったにしろ少し自分らしくない気がする。
自分はどんな人間だっただろうか?この世界に来るより前、元の世界でのヒロの人生を掘り起こしていく。
― 『ヒロ』の人生?
― 『ヒロ』という名前は咄嗟に名乗った偽名だ。何かのゲームで使っていたプレイヤーネームだったはずだ。では私の本当の名前は?
記憶の綻びを見つける。この世界に来る前の記憶が酷く散らかっていて理解できない。自分の名前は?年齢は?誕生日は?
途端に恐怖が膨らむ。そうだ、この世界にやってきたときに持っていた財布に免許証が入っていたはず。いや、財布は子供たちにあげてしまったし、その時に免許証は入っていなかったことは確認している。
自分という存在の輪郭が曖昧になる。呼吸が乱れ、足取りが重くなる。今まで感じていなかった疲労が一気に湧き上がってくる。体の重さから現実世界に意識を引き戻されると、空は暗くなり雨が降り始めていた。時折雷も聞こえる。
だが幸いなことに、気付けば目的地としていた小山が近づいている。見える範囲に広さは分からないがちょっとした洞窟の入口のようなものが見える。雨に濡れたくないし、一度どこかで落ち着きたいと考えたヒロは、悲鳴を上げる体と心に鞭を入れ洞窟の方へ早足で向かって行った。
久々に投稿できました。
読んでくれた皆さま、本当にありがとうございます!
ちょっと忙しくして更新できていませんでしたが、
またボチボチ書き進めていくのでお付き合いいただけると嬉しいです!
さて、今回は場面としてはただ歩いているだけで、主人公の独白が大半でしたがいかがでしょうか?
所謂異世界転生・転移ものでは、前世の知識を活用するパターンって多いと思うのですが、残念ながら今作では元の世界の記憶が曖昧だそうです。この部分はこの作品における「勇者」の設定に深く関わる部分なので、この先でも少しづつ深掘りしていけたらと思っています。
ではまた近いうちに!
ありがとうございました!!




