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1-ex3.リンカ②

予告通りリンカの過去編第二弾になります。

世界観が見え隠れする話になっていますので、最後までお読みいただけますと幸いです。

家族三人で楽しく宿屋を営み早数年、リンカは16歳となった。16歳と言えばすっかり大人の仲間入りを果たし、独り立ちする若者も多くみられる年齢だ。そんな中リンカは、溺愛が過ぎる親への細やかな反抗期を終え、いよいよ本格的に宿屋の一員として働き始めていた。


しかし、リンカが正式に宿屋で働き始めて数カ月、宿屋の経営は急激に悪化していた。主要な商売相手は駆け出しの冒険者だが、そもそもアストフ村へやってくる冒険者が減っていたのだ。定期的に村へやってくる商人や今では珍しくなってしまった冒険者の話では、近くで魔王軍との大きな戦いが勃発したことが主な原因のようだ。


リンカとしてはそのような大きな戦いがある時こそ、ポーション等の回復アイテムの原料である薬草が様々取れるこの村は賑わいそうと考えていたがそういう訳にもいかないようだ。


先ずこのような不安定な情勢下では冒険者の成り手が減ってしまうらしい。いつの時代も一攫千金を夢見て冒険者を志す夢想家は多くいるが、悲惨な戦場を一度でも目にすると悪夢しか描けなくなってしまうと言う。


それでも確かな信念を持つ者や、他に選択肢が無かった者等、冒険者になる人は一定数存在している。しかし戦時中では人手不足解消のため、通常時では受注することができないランクの依頼を受注できるようにする制度がある関係で、特に日銭を稼ぐのに精一杯の駆け出しの冒険者たちは、報酬が低い採集依頼を避けてしまう。これが二つ目の理由だ。


リンカが覚えている限りこんなにお客様が来なくなったのは初めての事だった。幸い元冒険者である父カシィを中心に村人たちが協力し薬草採集・販売を強化することで何とか生活を保てているものの、一向に改善しない状況が暫く続いた。



事態が動いた。悪い方へ。端的に言えば敵側に増援があったのだ。何とか拮抗していた戦場が傾こうとしていた。そのような状況を受けて戦場の指揮官から国を通し、一般人も含めた協力要請が出された。


戦争が起こった際の戦力としては初めに騎士が動員される。所属は国であったり、都市であったり様々だが公的な戦力である。正規の訓練を受けている騎士達は単純な戦闘力だけでなく、戦術の知識を持ち合わせている者もおり主戦力とされている。次に動員されるのは冒険者だ。冒険者ギルドを経由した特殊な依頼の形態を取り、前線での戦闘から物資の運搬といった後方任務まで投入される。騎士と比較して冒険者は一部を除き質が良くないとされているが、とにかく人数が多く依頼の金額次第では危険な戦場へ積極的に向かってくれるため、兵隊として重宝されている。


これらのリソースを最大限活用することで、激しくなっている魔族との衝突は何とか解決されることが大半だった。そのため協力レベルではあるものの、一般人まで参戦することになった今回の戦は大変厳しい状況であることが窺える。


そんな中リンカの父母、カシィとシータは珍しく難しい顔をして協力要請への参加有無を悩んでいた。今の宿屋の状況を鑑みると金銭的には間違いなく参加するべきである。しかし冒険者時代にこのような戦いに参加したことがあるカシィは、後方任務であったとしても戦場に安全なんてものは無いということを身をもって知っていた。


「宿屋としては正直ちょっとだけ苦しいけど…」

「うん、そうだね。今回は見送ろう。」


引き続き薬草採集等で生活を保てていたことから、今回の協力要請は見送る方向にすることになった。



変わらずギリギリの生活を続けていたカシィのもとへ一通の手紙が届いた。送り主は戦場近くのギルドにおいて現在ギルドマスターを務めている冒険者時代の旧友だった。要約すると「後方任務に就いている素人と大差ない冒険者どもの手解きをして欲しい」という内容だった。というのもアストフ村の採集依頼の噂は少し離れたギルドまで届いており、そこから昔馴染みであるカシィの存在に思い至ったという。


自分のことを高く評価してくれていることはとても嬉しかったが、断るつもりだった。まだ生活を維持できていることと、何より最愛の娘と妻を置いていくことはできるはずが無かった。


「あなた、本当に行かなくていいの?」


共に手紙の内容に目を通していたシータから、真面目な表情で尋ねられる。


「この前も話した通りだよ。態々危険に飛び込む必要なんてないさ。」


昔の自分だったら分からない。だが今の自分には何よりも守りたいものがある。そのためにはちっぽけな自分の理想なんかは切り捨てるべきだと何度も頭の中で反芻していた。


「はぁー。随分つまんないこと言うようになっちゃったね。この村に来た頃なんて毎日『ここで働かせてくれ!』って土下座してたのに。」

「ちょっっ、そんな昔の話いきなりしないでくれよ。」


家族代わりだった仲間たちを失ったあの日、自分が生き残ったのはもう一度彼女の笑顔が見たいと思ったからだ。厳しい戦いで仲間が一人、また一人と減っていき、それでも最後まで戦うことができたのは間違いなくシータのおかげだった。だからあの日誓ったんだ。彼女と共に、この宿を皆が帰ってくる理由にしようと。


「フフッ。やっぱり夢を語るあなたが、世界で一番かっこいいよ!」


口に出ていたのだろう、シータから少し揶揄う様でいて真剣な調子で告げられる。少し照れ臭くなったカシィはすかさず反撃に出た。


「そう言う君も出会ったあの日からずっと素敵だよ!」


そして軽く口付けをする。大丈夫、こんな素敵な家族が待っていてくれるのだから。俺はいつも通り最高の料理を作って、ちょっと駆け出しの冒険者の手解きをしてあげるだけだ。


「よしっ!この宿に最高の料理人がいるって宣伝してくるよ!」

「うん。一緒に素敵な看板娘もいるって宣伝しに行こう!!」

「えっ!?俺は一人で…」

「だってあなた、料理以外は宿の仕事、全然できないでしょ?」


全くとんでもない女性に恋してしまったものだ。昔から驚かせられることばかりだ。そんな彼女とだからこそ今があるのだろう。


「お父さん、お母さん行くの??」


気が付けば部屋の入口にリンカが立っていた。


「リンカ!?いつから見て」


正直娘に見られるには大分恥ずかしい場面を繰り広げていた気がする。そんな状況で思考が固まる中、流石のシータが何事もないかのように口を開いた。


「うん。ちょっと出張営業でもしてこようかと思って。最近お客さん少ないでしょう?」

「そっか、それなら私も…」

「ううん。リンカにはこの宿を守っていて欲しいの。ほら、あなたが私たちの帰る理由だから!」


突然そんなことを言われたリンカは頬を赤く染めて頷いていた。リンカは俺たちの娘とは思えないほど聡明な子だ。きっと連れていけないと告げられたことを理解しているし、シータの口から出たのが方便ではなく本心だということも理解しているだろう。


「リンカ、この宿を頼む。直ぐに帰ってくるからな。」


軽く頭を撫でてやる。数カ月前だったら手を振り払われていたかもしれない。そんなことを考えると胸が温かくなった。


「お二人とも、気を付けて行ってらっしゃいませ!美味しいご飯に温かいお風呂、それからフカフカのベッドを準備してお帰りをお待ちしております!」


一歩下がり深く深呼吸したリンカが定番のお見送りの挨拶をしてくれる。自由奔放なシータとは違い、何度も練習していたものだ。母親譲りの天真爛漫さが垣間見える満面の笑みを浮かべるリンカは、俺たちの帰る理由だった。


◆◆◆


カシィとシータが戦場へ旅立ってから4か月後、辛くも人類側の勝利で戦争は幕を閉じた。話によれば勇者のみで構成される帝国の特殊部隊の参戦が決定打となったらしい。しかし追い詰められた魔王軍が最後に自爆特攻を仕掛けてきたことで、一般人含め大きな犠牲が出たことから勝利と素直に喜べない結末だった。


その犠牲者の中に両親が含まれていることをリンカが知ったのは、終戦から2週間経った頃だ。最後の悪足掻きとして後方の陣地まで侵入した魔族は大規模な爆発を伴う自爆を行った。それに巻き込まれた人々の大半は亡骸も遺品も残っていないが、目撃証言からその場にリンカの両親がいたことは間違いないようだった。


その日リンカは生まれて初めて後悔というものを知った。あの時、みっともなく泣き叫んででも、行かないで欲しいと伝えるべきだったのだ。どうして、笑顔で見送ることしかできなかったのだろう。これほど自分を憎いと感じたことは無かった。


あぁ、もう誰の帰りを待つことも無いのだと、消化できない異物が1つ腹の中に落ちたような感覚に襲われる。待つことしかできない宿屋の娘に殺意すら覚える。その手には解体用の鋭利な包丁が握られている。


バシッ。黒く濁った思考の渦から引き戻される。左頬から感じる熱に前を見れば、祖母メリダが立っていた。


「お前は何のためにここに残った!!よく考えてみろ!!」



それから何日経ったかはよく分からない。ただ口に食べ物を入れ、ただ瞼を閉じるだけの日々が数日続いていた。偶に祖母と会話した気もするが記憶に残らない。死んだように生きるとはこのような状態を言うのだろう。


ある日を境に、リンカ宛に何通か手紙が届くようになった。多い日には両手で数えきれないほどの手紙が届けられた。それを毎日祖母が開封し、リンカの自室にある机に丁寧に並べていってくれた。


さらに数日後、リンカが寝ている村長宅の隣、今となっては終わりを待つだけの宿屋から聞こえるはずの無い笑い声が聞こえるようになった。耳をすませば今日はどんな薬草が取れただの、魔物に出会ってしまったが無事倒せただの、活気に満ち溢れた冒険者達の会話がそこにはあった。


気が付けばリンカは宿屋の前に立っていた。悪い夢が覚めたのだと、なんてことの無い日常が帰ってきたのだと、在るはずもない淡い希望を胸に抱く。意を決したリンカは中へ足を踏み入れた。


当然そこに両親の姿は無い。しかしそこには以前と変わらない、冒険者達が盛り上がる景色があった。


「おい、寝坊助看板娘!起きたんだったら早く準備して、この老婆を手伝いな!!」


メリダから激しい檄が飛ぶ。全く状況が掴めないリンカだったが、幼い頃からこの宿の看板娘を張っているのだ、ここで出来ないと言う選択肢は無かった。


「直ぐに行きます!!」



「リンカ、よくやったね。」

「メリダおばあちゃん…」


宿屋の仕事を終えた二人は自宅へと戻り、甘い蜜を入れたホットミルクを手に向かいあっていた。


「おばあちゃん、どうして宿に冒険者さん達が?」

「何、戦争が終わって駆け出しの冒険者達が戻ってきたってだけさ。お前に相談もせず宿を開けて悪かったが、この村には他に泊まれる所なんてないからねぇ。」


やはり戦争があったのは夢ではなかったようだ。宿屋に二人がいなかったという事実が、認めたくない現実を押し付けてくる。心の大事なところが欠けてしまった悲しみか、あるいは少しずつ戻りつつある日常への安堵か、気が付けば頬を濡らしていた。


「あーそうだリンカ。宿宛の、何通かはお前宛だったかな?机に手紙を置いておいたから見てみな。」



腫れた瞼のまま、祖母に促されるまま自室へと向かった。部屋の机は多くの手紙に埋め尽くされていた。一通、また一通と手に取る。


― カシィさんの作る料理の味が忘れられない!いつか絶対にアストフ村まで食べに行きます!

― シータさんが爆笑させてくれて、恐怖に打ち勝つことができました!

― お二人が溺愛する看板娘様、いつかお会いして感謝を伝えたいです。


どうやら両親が戦場で苦楽を共にした仲間たちからのようだ。騎士も冒険者も、中には国のお偉いさんからの手紙まであった。


リンカが詳細を知るのは大分後になってからの事だが、二人は絶望が降り積もる戦場にあってもいつも通りのペースを崩さなかったらしい。取り繕わず言えば、二人は浮いていた。しかし始めは奇異の目で見られていたものの、気が付けば辺りを自分たちの色に染め上げてしまっていたという。


カシィの料理は人々に活力を与え、シータの話術は平穏を思い出させる。リンカの両親は死が蔓延する地獄の中で、生きる理由となり得る希望そのものだった。そんな両親を誇りに感じる。


「メリダおばあちゃん、私この宿を継ぎたい!」


私は宿屋で待つことしかできない無力な娘だ。それでも、生きて帰りたいと思う場所を作ることができる。あと少し頑張るための思いの力を育むことができる。それがこの宿屋の使命で、私が憧れた両親の背中だった。


今までで一番長い1話が今話となりました。まだ自分自身課題は多々あるものの、少しずつ書ける量が増えてきた気がするのはきっといいことでしょう。あとはもう少し効率的に話が進められればって気もしますが、書きたいことが増えてるってこともあるのでしょうがないですね笑


ただ増えているのはもしかしたら説明的な部分かも?って所で、正直読みにくく成ってきている疑惑があるのでよろしければご感想頂けると嬉しいです。


さて、そんな訳?で次回もリンカ編になります(オイッ!)

最初に書きたいと思ったシーンまでの道のりがドンドン遠くなっていますが、自分に嘘つかず引き続き書きたいものを書いていきたいと思ってます。

次回もよろしくお願いします!

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