血縁関係者の婚姻が禁止されてしまった後の出来事
二人はよほど特殊なことが起こらないかぎり、好きな相手と結婚なんて出来るはずがないと知っていた。
子供の頃には大きくなったら結婚したらいいわねと言われていたのに、いつの間にか、その言葉は大人たちから口に出ることはなくなった。
二人は幼馴染と言っても、従兄弟という血の繋がりのある関係だった。
私達が生まれる少し前くらいから、血の繋がりがある結婚は子供に影響が現れる可能性があると言われるようになり、数年後から血縁関係のある結婚は禁止されることになった。
突然の発表に今まで従兄弟同士で婚約していたり、結婚まで秒読み段階にきていた人達は慌てた。
自分たちの結婚は認められるのか、もし認められなかったら、今から結婚相手を探して見つかるのか?と大騒ぎになった。
一定の猶予期間を置くことで、今の相手と結婚してもいいし、違う相手を探してもいいことになった。
そして、その一定の猶予期間が終わった。
私達は結婚は禁止されてしまっても、心と体を通わすことも禁止されても、もう止められないところにまで来ていた。
。
私は幼馴染で従兄弟のオールシュに心と体を許していた。
オールシュもマルシュに心と体の全てを委ねていた。
小さな頃から両親達も私達を結婚させようと言っていたし、本人たちも、結婚がなにかわからないときから、二人は結婚するのだとなんとなく思っていた。
それがある日突然、結婚はできなくなったと言われても、子供の私達には理解できなかった。
大好きなオールシュ、大好きなマルシュへの気持ちはもう、変えることはできなかった。
一度一線を越えると二人を引き止めるものはなく、ただ何度も何度も、愛し合った。
運がいいのか、悪かったのか、いつも無邪気に二人は一緒にいたので、誰にもバレることはなく、オールシュとマルシュの関係は続いた。
当然、避妊などの知識はなく、せめて体外で排出するという知識もなく、何度も何度も愛し合ってしまった。
運が良かったのか、マルシュの初潮は遅かった。
初潮が来てから性教育のようなものを受け、オールシュとしていることが、赤ん坊を宿らせる行為だと知り、マルシュは少し怯えた。
オールシュが私のお腹を擦りながら「マルシュのお腹、出てきていないか?」と言った。
「女の子になんてことを言うのよ!!」と怒ってみせたが、お腹の膨らみは太ったとかそういうものではないと、二人共気がついていた。
オールシュはお腹を愛おしそうに何度も撫でて「子供ができたら男ならカジュン、女の子ならリドリアーナがいいな」
「生むことは許されるかな?」
「・・・育てることはできないかもしれないな」
「赤ちゃん、殺されちゃうかな?」
「そんな事、あってほしくないな」
背後から私を抱きしめて首筋に唇を何度も押し当てながら、また大きくなったオールシュを背後から受け入れながらお腹の子供のことを思い涙が流れた。
オールシュ、十五歳、マルシュ十四歳の夏だった。
マルシュの妊娠がバレて、誰の子なのか聞かれていたが、マルシュは何も答えずただ時がすぎるのを待っていた。
相手によっては結婚させてあげられるから、言いなさいと言われてもマルシュは答えない。
オールシュが口を開こうとする度にマルシュが黙るようにと首を小さく振る。
マルシュは何日も何日も相手を言いなさいと言われながらも答えず、一人で大人達からの責を受け止め続けた。
子供をおろす時期は過ぎてしまって、生むことになったが、生んだらその子供は孤児院にでも放り込めと伯父さんが言い、マルシュは「子供を手放すくらいなら、私は死ぬわ」と大人を脅迫していた。
マルシュが生まれた時、マルシュを生んだ母親は、体力を消耗しすぎたため、子育てができなくて、年の近い俺がいる家に預けられた。
伯母さんの体調は中々良くならず、俺の側にはマルシュがいつもいた。
初めは本当の兄妹なのだと思っていた。
けれど、マルシュは父の兄の子供で、俺にとっては従妹にあたるんだと教えられた。
兄弟ではないと知り、結婚できる関係だと教えられ、どこか嬉しかったことを今も覚えている。
初めて手を繋いだのも、初めてのキスもマルシュだった。
大人たちは俺達が仲良くしていても、喧嘩していても、笑顔で俺達を見ていた。
互いの初めては、全て一緒に経験した。
この気持ちが、恋だと知ったのはオールシュが八歳の頃だった。
マルシュに伝えると、キョトンとした顔をして「私が好きなのもオールシュだよ」と答えてくれたが、気持ちのベクトルが違うとはっきりとわかった。
それからは、マルシュに好きになってもらえるように「好きだ。愛してる。マルシュに触れたい」等、恥ずかしげもなく言い続けた。
いつの頃からか、マルシュの顔が赤くなり、俺を意識し始めたのが解った。
「子供の頃から何度もしているキスではない、キスをしたい」と伝えた時マルシュは真っ赤になって俺の目を見てコクンと頷いた。
目を瞑ったマルシュは世界で一番可愛かった。
俺は触れるだけのキスを何度もして「これから毎日してもいい?」と聞いた。
真っ赤な顔のまま、マルシュは頷いて、それから俺達は、人の目がないところでは何度もキスをした。
何度もキスをする内にもっと他のところに触れたくなり、マルシュに確認を取りながら、マルシュの体の隅々まで触れた。
マルシュの体で知らないところはないと思っていた。
***
マルシュは今日も伯父さんに「誰の子供か言いなさい」と責められているけど、マルシュは愛おしそうにお腹を撫でて「胎教に悪いから、私を責め立てないで」と苦情を言っていた。
伯父さんは、いつも一緒に居る俺に「相手が誰か解るかい?」と聞いてきたが、俺は知っていても絶対話しませんと言う雰囲気を出して、口を閉ざした。
マルシュの産み月がとうとうやって来た。
大人たちはマルシュから子供を取り上げるつもりのようだが、マルシュはきっと取り上げられたら死んでしまう。
俺はそれが怖くて、大人たちに「伯父さん達はマルシュを殺したいの?」と聞いた。
「マルシュは間違いなく子供を取り上げられたら、自殺するよ。伯父さんたちの望みはそういうことなの?」
俺の両親と、伯父、伯母は絶句して「本当に自殺すると思うかい?」と聞いてきた。
「間違いなくすると思うよ。俺はマルシュに死んでほしくないから、マルシュの味方をするよ」
マルシュの両親は頭を抱えながらも、マルシュに子供を育てさせることを決心した。と俺の両親が話しているのを聞いて、安心した。
産み月になり、マルシュのお腹ははち切れそうなほどだ。
あまりにも大きなお腹に、伯母さんが「双子じゃないかしら?」と言い出し、三人の医師に見てもらったところ、双子の可能性が高いと結論が出た。
それからは子供用品を揃えることや、乳母の手配に大わらわになった。
大人たちの、マルシュの目を盗んで、子供の始末をしようという雰囲気は無くなり、マルシュは本当に男の子と女の子の双子の子供を生んだ。
マルシェは二人も生んだのに、自分がしっかりしていないと子供を取り上げられるか、殺されると思っていて、子供を自分の側から手放さなかった。
双子の可愛さに大人たちはメロメロになり、マルシュに子供をどこかにやったりしないと約束して、マルシュは俺に「子供達を守って」と言って意識を失うように眠りについた。
「マルシュの相手の話があるんだけど・・・」
母は目をぎゅっと瞑り「あなたの子なの?」と聞いた。
「そうだ」と答えると父に殴られた。
「なんで今まで黙っていたっ!!」
「言ったら子供を殺されると思ったから、マルシュから絶対に言わないでくれと頼まれたんだ」
両親と一緒にマルシュの家へ行き、父親はオールシュだと父が伝えた。
「多分そうだと思っていたよ。マルシュが他の誰かを近づけたことなどなかったからね」
「今まで黙っていてすみませんでした」
「子供を守りたかったんだろう?」
「はい。それとマルシュを」
「マルシュを?」
「マルシュは、自分の望まない結果になるのならと言って、毒を手に入れていたんだ。俺はマルシュがその毒をいつ飲むのか不安で仕方なかった」
「あの子はそこまで思い詰めていたのか?」
「はい」
「その毒はどこにあるの?!」
「マルシュがまだ持っています。いつ子供と引き離されるか分からないと言って、どこに隠しているのか俺にも言いません」
「その毒は本物なの?」
「多分・・・」
それから、マルシュは伯母さんの友人の家に子供達と一緒に養子に出された。
苦肉の策なのだそうだ。
でも従兄弟同士だということは世間ではわかって居るから、子供達が何の抵抗もなく受け入れられるかは解らない。と言われた。
養子に出されて一ヶ月後、マルシュと俺は結婚した。
子供も俺の子供として認知された。
子供達に少しでも世間の風当たりが弱ければいいのにと日々願うしかない。
三人目の子をお腹に宿して、とても幸せそうにしているのに、マルシュは未だに毒の在り処は言わない。