第15話 月曜日の放課後。氷室神社。【天気】雨時々曇り
放課後。
陸は川薙氷室神社バス停でバスを降りると、ちらっと空の機嫌を確かめた。
「傘は……まいっか」
と、陸。開こうとした傘を持ち直すと神社へと歩き出す。
今、陸は一人だった。海斗はいない。
実は、今日は生物部の活動日で、熱心な生物部員である海斗はそっちに行かないわけにはいかなかったのだ。
とは言え、これは陸にとってもチャンスだ。
なにしろ、あのキツネの世界から出る条件として出された任務は、海斗に知られることなくキツネの依頼を完遂すること。彼が一緒だとどうしても行動に支障が出てしまう。
「えと、じゃあまずは……九家稲荷だったよな」
陸は雄狐に指示された場所を思い出すと、まっすぐ氷室神社の社務所に向かった。
▽ ▽ ▽
九家稲荷神社。
それは、川薙の観光スポットの一つ、駄菓子横丁にほど近い所にある、朱塗りの瑞垣が目を引く稲荷神社だ。
この神社、普段は無人で諸々の管理は氷室神社でやっているのだけど、九家稲荷に行かなきゃいけないはずの陸が氷室神社に立ち寄ったのはなぜ?
△ △ △
陸は参拝客の目を避けるように社務所に向かうと、さっと中に入った。
実は、陸が氷室神社に立ち寄ったのはホウキなどの掃除用具を借りるためだった。
九家稲荷は基本的に閑静で、余所様にはあまり知られていない地元民向けの神社なので、陸みたいな高校生がうろうろしていると、近隣住民に怪しまれるのだ。
だから陸は、自分が不審者でないことを示すために、氷室神社の神紋が入った用具を持って行こうと氷室神社に立ち寄ったのだけれど……
「あ! リック!」
「あら? 久しぶりね」
「げ。あ。――ええっ?」
社務所に入ったその直前、雨綺ともう一人。見知った顔の女子と鉢合わせした陸は目を剥いた。
雨綺はまあいいとして、どうして彼女がここに?
彼女とは破滅騒動以来会っていなかったせいで、どんな顔して接すればいいのか分からない。
けれど――
「『げ』って何よ? 『げ』って」
見知った顔こと長谷ひまりは、陸の態度にひどく機嫌を損ねた。
「あ、や! 今のは雨綺に言ったんであって……なあ?」
「は? おれに聞かれても知るわけね―じゃん」
雨綺に助け舟を求めるも、あっさり否定されてますますアワアワし出す陸。
どうしてこう、ひまりと会うと怒らせてばかりなんだろう?
彼女のことは苦手だけど別に嫌いなわけじゃないし、怒らせる気なんてサラサラないのに。
もしかして、自分とひまりはそういう星の元に生まれたのか?
ああこんな時、頼りになるあのメガネの友人、海斗さえいてくれたら……
「ええと……この人、もしかしてひまちゃんセンパイの彼ぴさんとかですか?」
ひまりと仲良くするのは無理。陸が絶望しかけていると、おもむろに話に割り込んできたのは、聞き慣れない女子だった。
「今のがそう見えたのなら大したものね。ここはもういいから、今すぐ眼科に行きなさい」
と、ひまりの冷めた返事。
見ると、彼女の影にもう一人。ひまりと同じ川女の制服を着た女子が。
「ええ? でもひまちゃんセンパイ、この人入って来た時、ちょっと頬緩んでませんでした?」
「そんなことあるわけないわね。あとその呼び方やめなさいって言ってるでしょ。まったく咲久と言い貴女と言い……」
なんだか既視感を感じる二人のやり取り。
陸の知る限り、ひまりのことを「ひまちゃんセンパイ」と呼ぶのは咲久だけなのだけど……
……咲久?
……川女?
あ! そうだ! この人!
「……ああ! あの時のスッポンさん!」
「はい? いや誰がスッポン……て! ああ! あなたたしか、ひむひむの彼ぴっぴさん!」
二人の声が、湿気の籠る社務所に良く響いた。
陸 ……主人公君。高1。へたれ。
咲久 ……川薙氷室神社宮司家の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。
海斗 ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。
ひまり ……咲久の先輩。高2。クール系女子。
雨綺 ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。
朱音 ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。
埼先生 ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。
木花知流姫……桜の神様。ギャルっぽい。
奇稲田姫 ……川薙氷室神社の御祭神。訳あって縮んだ。
しいな ……小さくなってしまった奇稲田姫の仮の名。
雄狐 ……川薙熊野神社から出て来たおキツネさん。
川薙 ……S県南中部にある古都。
茅山 ……川薙の南にある工業都市。
【更新履歴】
2025.9.17 脱字修正 & 微修正




