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〇〇〇の神の申す事には  作者: 日曜定休のsai山
【第2幕】日曜日
95/121

第9.2話 日曜日のお昼過ぎ。氷室神社。【天気】霧雨

「ちょっと、なにやってんのリク。大丈夫!?」


 ズデーン。と、背中からひっくり返った陸に声をかけてきたのは参拝者――ではなく、参拝者かと思われた咲久(さく)だった。


「……全然だいじょばねーわ」


 他人事みたいに言う咲久に、恨み節で倒れた椅子を直す(りく)

 あらためて見てみると、咲久はむすひの制服のままだった。時間的には咲久のバイトが終わる時分だけど、着替えもせずに飛んで来るなんて、何をそんなに慌ててるのか?


「で、何?」


 椅子に座り直した陸は尋ねた。


「さっきリクと一緒にお茶してた女の人! なにあれ!? リクの知り合い?」


「え? あー……まあ、ううーん……」


 そんなことか。

 勢いのわりにどうでもいい質問に、どう答えたものかと陸。


 咲久の言う女の人とは、木花知流姫(このはなちるひめ)のことだ。

 知流姫は桜の神様だからなのか、やたらと器量がいい。

 あんなバンド系ギャルみたいな格好じゃなければ、誰かさん一筋の陸でさえ「おや!?」となりそうなほどに素材がいいのだ。

 そんなのが突然やって来て、陸と同席して話し込んでいたとなれば、咲久が気になるのも無理もない。


「あーうん。まあオレって言うか、こいつ(・・・)の……保護者? みたいな感じ?」


 陸は、咲久の目から逃れるように陰に隠れていたしいなの頭にポンと手を乗せた。

 咲久や宮司(ぐうじ)には、親戚(しんせき)の子を預かることになったと紹介してある。


「あ。あー! ――ええと、しいなちゃんだっけ? こんにちは」


 警戒心をあらわにするしいなに、咲久はひらひらと手を振った。

 しいながますます陸の陰に隠れた。


「怖がられてやんの」


「うっさい」


 ちょっとがっかりしたような咲久に、優越感と、そして安心感を覚えた陸。


 陸としては、咲久には神様には関わって欲しくないのだ。

 特に知流姫なんかは咲久を破滅させようとした前科があるし、絶対に近づけたくない。


 すると――


「ただいまーリックー! と、あれ? ねーちゃんなんでむすひのカッコしてんだ?」


 鏡の使い勝手を検証しに出ていた雨綺(うき)が、むすひの制服のまま外に出ている姉に、怪訝(けげん)な顔をした。


 ◇ ◇ ◇


 雨綺と一緒に帰ってきたのは海斗(かいと)だけだった。


「あれ? ……もう一人は?」


 知流姫がいない。

 けれど、咲久の手前その名前を避けたかった陸が彼女の所在を問うた。


「やーそれがねー。ちょっと目を話したらいなくなっちゃってて」


「いや、そんな小っちゃい子みたいに」


「いやホントだって。ほんの数秒目を離したらいなくなっててさ。あー、なんて言うか神隠し? みたいにふっと消えちゃってて。ね、雨綺君」


「うん! おれの次に海斗さんが鏡使ってみたんだけどさあ、おれはちゃんと使えたんだけど、海斗さんは使えなくて、なんでか聞こうとしたらいなかった」


 二人の証言に、陸は首をひねった。


 確かに彼女は神出鬼没(しんしゅつきぼつ)だけど、ほんの数秒の間に消えるなんて、そんなことってあるだろうか?

 海斗の言う通り、神隠し……いやいや。そもそも知流姫は神様なんだから、神隠しも何もないでしょうに。


「知流姫……神隠し……消える……」


 陸は考えた。


 そう言えば奇稲田(くしなだ)と知流姫は、どうやって現世(うつしよ)顕現(けんげん)したんだろう?

 誰かに召喚(しょうかん)された? 陸の知っているやり方はこの一つだけだ。けど、それともそれ以外にも方法があるとか?

 そう言えば、むすひで知流姫が「奇稲田は自力で顕現したわけじゃない」て言ってたけど、あの時そこのところをもっと詳しく聞いておけば。




「ねえリク。そのチルヒメって言うのが、あの人(・・・)の名前なの? あと、神隠しとか消えたとか、もし邪魔じゃなければわたしにも分かるように教えて欲しいんだけど」


 陸が思案していると、話に割り込んできたのは、一人だけ蚊帳(かや)の外になっていた咲久だった。


「おあーっと。雨綺! バイトが終わってお疲れの姉上様を自宅まで送って差し上げろ」


 ヤバい。――うっかり情報を漏らしかけた陸は、雨綺に命じた。


 咲久は神社の娘のくせに神様に全く興味がない。

 だから知流姫とか言う割と決定的な名前を漏らしても、頭に疑問符を浮かべるだけで済んでいる。

 けど、そんな咲久の無関心さに甘え続けていれば、いずれはこれが神様関連の事象なんだとバレてしまうわけで。


「ええー? なんでだよ? まだリックに話してないことあんのに――」


「今度むすひで抹茶パフェ!」


「っしゃ! ねーちゃん()ーるぞ!」


「や、ちょっと何!? わたし今お話し中だし、まだ着替えてな――」


「うおおおおおっ! これが抹茶パフェの力だああああっ!」


 大逆転劇中のヒーローみたいな雨綺と、そんな弟に押され去りゆく咲久を見て、ほっと一安心の陸。

 けれど、そんな陸の脇をツンツンとつついてくる者がいて、


「のうりくよ。わらわもまっちゃパフェ、たべたいんじゃが」


「あんたさっきご飯がいいって言ってたでしょ!」


 またそんなことを言い出す奇稲田に、陸は早退を決意した。


(りく)    ……主人公君。高1。へたれ。

咲久(さく)   ……川薙(かわなぎ)氷室(ひむろ)神社(じんじゃ)宮司家(ぐうじけ)の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。

海斗(かいと)   ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

雨綺(うき)   ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。

朱音(あかね)   ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。

(さき)先生  ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。


木花知流姫(このはなちるひめ)……桜の神様。ギャルっぽい。

奇稲田姫(くしなだひめ) ……川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃ御祭神(ごさいじん)。訳あって縮んだ。

しいな  ……小さくなってしまった奇稲田姫の仮の名。


川薙(かわなぎ)   ……S県南中部にある古都。

茅山(かやま)   ……川薙の南にある工業都市。


【更新履歴】

2025.5.23 微修正


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