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〇〇〇の神の申す事には  作者: 日曜定休のsai山
【第2幕】日曜日
94/121

第9.1話 日曜日のお昼過ぎ。氷室神社。【天気】霧雨

 結局、作戦会議とは名ばかりで、特に何かを決めると言うこともなかった。


 なにしろ、会議のオブザーバー的な立ち位置の知流姫(ちるひめ)からして、


「あんたらにはさあ、どっかに飛んでったこいつの御魂(みたま)の確保を頼みたいわけ。でも肝心の居場所がまだつかめてねーわけだからさあ」


 と、なんだか随分(ずいぶん)といいかげんな態度。

 要は、御魂の捜索(そうさく)奇稲田(くしなだ)の両親に任せているので、御魂が見つかったと報告が入るまで陸たちはやることがない。ということらしいなのだ。


 とまあそんなわけで、知流姫のやる気のなさが伝播(でんぱ)した陸たちは、今一つ緊張感(きんちょうかん)の持てないまま、1回目の作戦会議を終えたのだけど――。


 ◇ ◇ ◇


 午後。氷室神社(ひむろじんじゃ)。天気・霧雨(きりさめ)


「ええと……丁度のお納め、ありがとうございます……では、はい。授与品はこちらになります」


 なんやかんやで最初の作戦会議をこなした陸は、一旦海斗(かいと)たちと別れて氷室神社(ひむろじんじゃ)授与所(じゅよしょ)奉仕(バイト)(はげ)んでいた。けれど……


「あ~、ねむ……」


 陸は、去りゆく初老男性の背中を見送ると、ぐったりと気を抜いた。


 今日の奉仕、とにかく暇なのだ。

 肌寒い霧雨なんて天気のせいで、奉仕開始からもう1時間も経つと言うのにちっとも人が来やしない。

 こんなことなら、奉仕なんかキャンセルして海斗たちと一緒に行動していた方が良かったんじゃないかとさえ思えてくるほどだ。すると――


「のう、りくとやら。そなたはなにゆえあの者ら(・・・・)について行かなんだのじゃ?」


 授与品の保管庫から、ひょっこり顔を出した奇稲田が尋ねた。


「え?」


 返事に詰まった陸。

 別に質問の内容がマズかったわけじゃない。

 ただ、奇稲田は今自分のことをなんて呼んだ? 聞き間違いじゃなければ、今たしかにとやら(・・・)って――


「……どうした? わらわのとい、きこえなんだか?」


「あ! や。だってこれ、結構大事な仕事でしょ? ここに(まつ)られてるの、奇稲田姫命(くしなだひめのみこと)なんだし」


 陸は慌てて取り(つくろ)った。けれど奇稲田は、


「ほほう、なるほどなるほど。しかしわらわには、そなた一人がおらなんだところで、この宮のうんえいにえいきょうがあるとは、とても思えぬのじゃが?」


 小さくなっても相変わらずの慧眼(けいがん)の奇稲田。

 けれど、そこであっさり認めてしまうようでは高校生の名折れ。だから陸は、


「そ、それ言ったらクシナダ――じゃなくて、しいな(・・・)方がもっとここにいる意味ないじゃないすか? 小宮山君たちに付いて行けばよかったのに。第一あの鏡、しいなの持ち物なんだし」


 陸は憤慨(ふんがい)して応じた。


 ▽ ▽ ▽


 玻璃(はり)の鏡。

 ガラス板に金属を薄く引いて作られた鏡のこと。


 玻璃の鏡は川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃ御神体(ごしんたい)たる円鏡(えんきょう)なんかにも使用されており、現代日本に()いてはもっとも普遍的(ふへんてき)な鏡と言える。


 先の会議で奇稲田は、自身の持つこの円鏡を通して物を見れば、陸たちにも御魂を見ることができる。と、提案したのだけど……


 △ △ △


 海斗たちは今、鏡の使い勝手を検証しに街に出ていた。

 神様サイドの都合で、今日のところは陸たちに出番がないのはさっきも述べた通り。

 でもそれなら鏡の持ち主である奇稲田もあっちに行くべきだろうに。


「いいや。わらわはここにいなくてはならぬゆえ」


「なんで?」


「ここはあね上様たちのおわす宮なのじゃろう?」


「???」


 首をひねった陸。会話が今一つ成立しない。

 今さっきの「りくとやら(・・・)」の件もそうだけど、これも知流姫の言っていた「記憶が一部飛んでいる」ことの影響だろうか。

 あと、昨日もそうだったけど、この奇稲田は、どうして姉のいる宮にこだわっているの?


 ところで、今し方陸が呼んだ「しいな」とは、「奇稲田(くし・いなだ)」から一部を切り取った仮の名だ。

 人前で「クシナダ」呼びはさすがに(はばか)られると考えた陸が適当に付けた名前なのだけど、どうやらご本人様の様子を見る限りじゃ、それなりに気に入ってくれているようではある。


「ときにりくよ。わらわおなかすいたんじゃが。めしはまだか?」


「はあ?」


 急に実年齢相当(?)なことを言い出す奇稲田――改め、しいなに、陸はちらりと時計を見た。

 午後2時過ぎ。まだぜんぜん夕飯の時間じゃない。


「あー……じゃあ、またむすひで何か食べてきます?」


「いいや。わらわごはんがいい」


 そんな無茶な。

 むすひは茶屋としては割とレパートリーのあるお店だけど、さすがにごはん系は置いていない。

 かと言ってこの子を一人で他の店に行かせる?

 いや。それは無理。

 この子、元が奇稲田なだけあって、一人にすると何を仕出かすか分からない。


 と、その時――


「ねえちょっと! 今いい!?」


「あっはい何を差し上げ――ってうぉわああっ!?」


 呼び声に振り向いた陸は、窓口を壊されるんじゃないかと思えるほどの勢いでツッコんでくる参拝者に、イスごとひっくり返った。


(りく)    ……主人公君。高1。へたれ。

咲久(さく)   ……川薙(かわなぎ)氷室(ひむろ)神社(じんじゃ)宮司家(ぐうじけ)の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。

海斗(かいと)   ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

雨綺(うき)   ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。

朱音(あかね)   ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。

(さき)先生  ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。


木花知流姫(このはなちるひめ)……桜の神様。ギャルっぽい。

奇稲田姫(くしなだひめ) ……川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃ御祭神(ごさいじん)。訳あって縮んだ。

しいな  ……小さくなってしまった奇稲田姫の仮の名。


川薙(かわなぎ)   ……S県南中部にある古都。

茅山(かやま)   ……川薙の南にある工業都市。


【更新履歴】

2025.5.10 「りくとやら(・・・)」について深堀り。

2025.5.12 微修正

2025.6.25 微修正


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