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〇〇〇の神の申す事には  作者: 日曜定休のsai山
【第2幕】日曜日
93/120

第8話 日曜日の午前。むすひ。【天気】霧雨

 行方(ゆくえ)の知れない奇稲田(くしなだ)御魂(みたま)と、川薙(かわなぎ)の破滅。――とまあ、どこからどこまでが神託(しんたく)なのかはっきりしないお告げを授かってから、一晩明けた今はお昼前。

 川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃの隣にあるお茶処(ちゃどころ)・むすひ。




「はああぁぁぁぁ~~~~~~~~あぁぁ……」


 いつもの席に突っ伏していた陸は、もうすっかり氷ばかりになったほうじ茶ラテのグラスを見ては、そんなため息を吐いた。


「なあにリク。そんなため息つくほど飲み足りないの? おかわりいる?」


 と、話しかけてきたのはこの店の看板娘こと氷室咲久(ひむろさく)。氷室神社宮司家(ぐうじけ)の娘で、雨綺(うき)の姉だ。


「や。別におかわりじゃないんだけど……てか、今のオレは一応お客なんだけど?」


 陸は、ため口で接客する咲久店員に注意した。


「え~? でも今他にお客様いないし、別によくない?」


「よくない。あと仕事中に席に座らない」


 悪びれないどころか対面に座ろうとする咲久に、こら! と、陸。


 とは言え、咲久がこれだけ仕事に身が入らないのも仕方のないことだった。

 なにしろ今日のむすひ、肌寒い雨という天気のせいか、日曜日なのに客入りがさっぱりなのだ。


「じゃあ何か注文して。そしたらちゃんとお仕事するから」


「や。意味分からんし」


 謎すぎる取引に陸はツッコんだ。けれど、ふと思い立ってメニューを手に取る。

 今日は午後から氷室神社で奉仕(バイト)があるのだ。一日二食でもわりと平気な陸だけど、ここで何かお腹に入れておいても悪くない。


「えーと、じゃあ……」


「おれ抹茶プリン! リックは?」


 突然注文に割って入ったのは、いつの間にか店に来て、しれっと陸の横に座った雨綺だった。


「あのな雨綺。前にも言ったけど、小学生のうちは勝手にここに来ちゃダメってルール。あれどうなってんだよ?」


「だからお使いだって。それよりリック、注文しねーの?」


「……」


 いつものことながら口の減らない雨綺に、陸は助力を求めて咲久を見た。けれど……


「あーうん。雨綺は店長のお気に入りだから」


「なんじゃそりゃ……」


 陸は脱力した。


 店長のお気に入りだからルール無効とか、いくらなんでもズルすぎじゃない?

 確かにここの店長は氷室姉弟(きょうだい)の伯母なので、お気に入りとかあっても不思議じゃない。けど、ルールはルールでしょうに。


「と言うわけで。はいリク。ご注文は?」


「……じゃあこの――」


「あ。ぼくは茅山(かやま)茶コーラ」


「あーしはさくら餅。奇稲田(コイツ)も同じので」


 またしても後からやって来た人たちに先を越された陸は、もう色々と諦めるしかなかった。


 ◇ ◇ ◇


 陸。海斗(かいと)。そして知流姫(ちるひめ)奇稲田(くしなだ)。さらにはこの場に呼んでいなかった雨綺。と、昨日の当事者が一堂に会すると、(注文したメニューが(そろ)うのを待ってから)第1回目の作戦会議が始まった。


「あー……じゃ、まずは昨日のまとめだけど――」


 と、陸。




 ①奇稲田が小さくなった。

  その理由は奇稲田の御魂の一部(和魂(にぎみまた))が消えてしまったから。

  今、奇稲田の両親が川薙市中を探し回っているらしいけど、見つかる気配はない。


 ②川薙が破滅する!?

  奇稲田は川薙の総鎮守(そうちんじゅ)。なので、奇稲田の弱体化はそのまま川薙の危機!

  とは言え、その破滅が「いつ」「どのように」起こるのは不明。




「とまあこんな感じだと思うんだけど……小宮山(こみやま)君。昨日はクシナダ様、どうだった?」


 とりあえず現状をざっくりまとめた陸は、話題を変えた。

 実は奇稲田、昨日はこのまま本殿(ほんでん)に放置と言うわけにもいかず、海斗の家に泊まらせてもらっていたのだ。

 そしてその甲斐(かい)(?)あってか、今の奇稲田は昨日の早乙女姿ではなく、どこぞの私立学校の制服みたいな(よそお)いになっている。


「うーん、別に普通かな。寝たのはばあちゃんの部屋だけど、朝ごはんも普通に食べてたし」


「なんかゴメン。オレんちはさ。ほら、知らない子を泊めるって、やっぱ……」


「あはは、だろうね。まあその点、うちは何でもばあちゃん次第だし」


 と、軽く笑い飛ばす海斗。そして、


「ねえ知流姫様。神様って依り代(よりしろ)を利用して顕現(けんげん)するんですよね? なら、一度依り代から離れて、また必要になったらまた戻ってくるとか、そういうことはできたり……?」


「あー、ヒトによってはできねーこともねーかな。あ。でもコイツ(・・・)は今は自分の力で顕現してるわけじゃねーから」


 知流姫は横に座る奇稲田にチラリと視線を向けた。

 けれど奇稲田、話について行けないのかそれとも(はな)から興味がないのか、自分の御魂の話だと言うのにそんなことはそっちのけで、さくら餅をもっきゅもっきゅと頬張(ほおば)ってばかりいる。


「じゃあ今の奇稲田姫様はどうやって顕現したんですか?」


「さあ? 本人に聞けば分かっかもしんねーけど、コイツ記憶も一部飛んでるっぽいし」


 さらっと重要な情報を述べた知流姫は、素知らぬ顔で自分のさくら餅を奇稲田の前に突き出した。

 奇稲田の目が輝いた。


「でもま、あんま難しく考えねーでも要はコイツの御魂を見つけりゃ全部丸く収まるわけだし?」


「けど知流姫様。御魂を見つけるって、ぼく御魂がどういうものか知らないです」


「あ、それオレも。そもそも、御魂って人間に見えるものなんすか?」


「は? なに? もしかしてアンタら、見えねーの?」


「え? もしかして普通は見えるものなんすか?」


「……」

「……」


 神と人。在り方の違いを知った一同の間に微妙な空気が流れた。


 御魂の見た目を知らないだけならともかく、見ることもできないのでは戦力にならない。

 当然と言えば当然のことなのだけど、でもじゃあどうすれば……


 すると、


「そなたらさっきからなにをやいのやいのと。 そんなにみたまの形が見たければ、これがあるじゃろうに」


 あっと言う間にさくら餅を平らげてしまった奇稲田が差し出したのは、自身の持つ鏡だった。


(りく)    ……主人公君。高1。へたれ。

咲久(さく)   ……川薙(かわなぎ)氷室(ひむろ)神社(じんじゃ)宮司家(ぐうじけ)の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。

海斗(かいと)   ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

雨綺(うき)   ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。

朱音(あかね)   ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。

(さき)先生  ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。


木花知流姫(このはなちるひめ)……桜の神様。ギャルっぽい。

奇稲田姫(くしなだひめ) ……川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃ御祭神(ごさいじん)。訳あって縮んだ。


川薙(かわなぎ)   ……S県南中部にある古都。

茅山(かやま)   ……川薙の南にある工業都市。


【更新履歴】

2025.5. 2 微修正&天気変更(小雨⇒霧雨)

2025.5.12 微修正


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