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第4話 茅山市新茅山

 ▽ ▽ ▽


 茅山市(かやまし)新茅山(しんかやま)


 川薙南(かわなぎみなみ)高校の最寄(もよ)り駅から上り方向に一つ行った所にあるこの地区は、S県でも屈指の工業と、そこの従業員向けの商住(しょうじゅう)に特化した街だ。


 校門で木花知流姫(このはなちるひめ)と出会った(りく)たちは、それでも今は朱音(あかね)と会うことの方が優先。ということで、この街に来たわけなのだけど――


 △ △ △


「ほーお」


 面談予定時刻の5分前。初めてこの街に降り立った陸は、駅前に建つレンガ調の中層マンションを見上げて、そんな声を漏らした。


(さき)先生、福士(ふくし)さん()ここなんですか?」


 そんな陸の後ろで、陸に続いて車から降りた海斗(かいと)が、先生に尋ねた。


「いえ。今日はそこの喫茶店『(ひびき)』さんで会うことになってまして」


 と、運転席の埼先生。

 たしかに、陸が見上げているマンションの1階には、「CAFE&BAR 響」という落ち着いた雰囲気の喫茶店が入っている。

 なるほど。いくら学校の公認とは言え、男三人で女子宅に押し掛けるのは問題がある。

 そこで持ち上がったのが、そこの「響」というわけなのか。


「では、私は駐車場を探してきます。小宮山(こみやま)たちは先に入っててください」


 先生はそれだけ告げると車を出した。


 ◇ ◇ ◇


 カランカラン――と、古式ゆかしいドアベルを鳴らして「響」に入ると、そこに待っていたのはこの喫茶店とともに半生を歩んできたらしいナイスミドルなマスターだった。


「いらっしゃい。川薙南(かわなぎみなみ)の生徒さんだね?」


 と、すべてを承知しているマスター。「奥の席へ」と二人を案内するとまた奥へと引っ込む。




「――それにしてもビックリだよね。まさかあのヒト(・・)がウチの学校に来るなんて」


「ん。まあ神様(・・)だけどね」


 マスターが去るなり、早速そんな話題を出したのは海斗だった。

 陸は冷水をすすると、木花知流姫から受け取った桜の形のメモ書きを取り出した。




 ――今日の日暮れ

   氷室(ひむろ)神社へ

   川薙の命運が尽きる




                雨を止めろ――




 メモの内容に陸は難しい顔をした。

 川薙の命運とはまた不穏な内容だ。


「陸君行くの? 知流姫って悪い神様だし、どうせ罠じゃない? あ、ほら。『君子(くんし)(あや)うきに近寄(ちかよ)らず』ってばあちゃんも言ってたし、ぼくは行きたくないなー」


 知流姫を悪神呼ばわりした海斗が、テーブルに置かれたメモを指でピンッと弾き飛ばした。

 海斗はついこの前まで敵対していた知流姫に好感を抱いていないらしい。

 けれど陸は――


「あー……や、うん。オレ、行ってみようかなって」


 陸は床に落ちたメモを拾って答えた。

 知流姫のことはよく分からないし、海斗の言う通り罠のような気もする。けど、「川薙の命運」なんて言葉を神様から出されたら、無視するわけもはいかない。


 それに、最後にちょろっと書かれた「雨を止めろ」とは?

 ここ数日、川薙市は(くも)り続きではあるけれど別に雨は降っていない。


「あ、そうなの? ならボクも行こっか?」


「はい?」


 簡単に方針を変えた海斗に、陸は目を丸くした。


「いいの? たぶん罠だし、おばあちゃんの言いつけは?」


「いいよ。『友だちは大切にしろ』ってばあちゃんも言ってたし」


「あ、うん。そう……」


 おばあちゃんの言いつけを守るために、おばあちゃんの言いつけを破る。

 そんなことを平気でやってのける海斗に、陸はなんと言えばいいのか分からなかった。


(りく)    ……主人公君。高1。へたれ。

海斗(かいと)   ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

(さき)先生  ……朱音(あかね)の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。


木花知流姫(このはなちるひめ)……桜の神様。ギャルっぽい。


川薙(かわなぎ)   ……S県南中部にある古都。

茅山(かやま)   ……川薙の南にある工業都市。


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