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第2話 陸と海斗、家庭科調理室に行く

 陸たちが家庭科室へと向かったのは、そこにいる先生と一緒にとある場所へと出向く予定があったからだった。


 だから陸たちは指定された時間ピッタリに着くように4階・家庭科調理室に来たわけなのだけど――。




「失礼しまーす」


 海斗が家庭科室に入ると、そこにいたのは一人のメガネをかけた先生だった。


(さき)先生。今日は引率、よろしくお願いします」


「……え?」


 そんなことを言い出す海斗に、調理台に向き合っていた先生がキョトンとした顔をした。


 ▼ ▽ ▼


 土曜日だと言うのにこんな所で作業をしていたこの先生は、家庭科教諭(きょうゆ)(さき)(ゆう)

 1年2組、つまり朱音のクラス担任だ。

 この先生、齢も若く物腰(ものごし)も穏やか。生徒に人気のある先生なのだけど、どうにも抜けたところがあるような雰囲気(ふんいき)があって……


 ▲ △ ▲


「先生、もしかして忘れてました? 福士さんちに行くの今日ですよ?」


 先生の反応が鈍いことを(いぶか)しんだ海斗が眉をひそめた。


「……いや……忘れてない。忘れてはないですよ? ……忘れてはないんですけど……ただ今ちょっと、次回あなたたちがやる実習の予行をしてまして……」


 と、反論する埼先生。

 けれど、そう言った先生前には甘い匂いのするクリーム状の液体が入ったボールと、火にかけられたフライパンが。

 どうやら埼先生、なにかスイーツでも作ろうとしていたらしい。


 あれ? でも今度の調理実習って、弁当作りだったはずじゃ?


「いや! ですからですね! これはつまり、次の次の実習の予行なわけでして……」


「先生。福士さんち電車で行くんですよね? ここから駅まで15分として、もう出た方がいいんじゃないですか?」


 見当違いの言い分を重ねる先生に、眉をひそめた海斗が言った。


 実は海斗は、学校に来ようとしない朱音を気遣(きづか)って、彼女のお見舞いに行くことを発案していたのだ。

 陸たちの「これからの予定」とは、まさにそれなのだ。


 けれど、その引率(いんそつ)役であるはずの埼先生がこんな調子じゃ……


「あー……いや! 大丈夫。そこは大丈夫です! 今日は車で行くので! ……でですね。悪いんですが、二人は駐車場で待っててくれません? これ片付けたらすぐ追いかけますので」


 埼先生はそう言うと、フライパンにボールの中身を垂らし薄く伸ばし始めた。

 これだけ時間が迫ってもまだ作業を止めようとしない先生に、海斗と陸はもう苦笑するしかなかった。


 ◇ ◇ ◇


 職員用駐車場。

 空模様がまた少し怪しくなってくる中、家庭科室を出た陸たちは、言われた通りこの駐車場に来ていた。


「ぼく思ったんだけどさあ。埼先生って、ちょっと咲久(さく)ちゃんに似てる気しない?」


「は?」


 突拍子(とっぴょうし)もないことを言い出す海斗に、陸は心外な顔をした。


 似てる? 先生が? サクと?

 ――どこが!?


「あ。見た目じゃなくて、性格とか仕草とか――」

「似てないよ」


「でもさっきみたいにうっかりなところなんかは結構――」

「似てないよ」


「謝る時のポーズなんかは、すごく咲久ちゃんぽく――」

「ないよ」


 二人の共通点を並べる海斗に、有無を言わせない勢いの陸。


「えー? でもやっぱり似てるような気がするんだけどな~」

「あのね――」


 先生と咲久は似ていない。そのことを認めようとしない海斗に、とうとう陸は語り出した。




 あのね。

 サクは先生なんかよりももっとうっかりだし、もっと雑なのよ。

 お節介(せっかい)なのにいい加減で、なんでも首を突っ込む割にすぐ飽きる。

 興味ないことは何回教えても憶えないけど、興味があることでもほどほど。


 そんなサクが先生なんかと同じ? はっ! そんなわけないでしょ!


 そうね。さっきの「『忘れてません?』『忘れてないよ』」ってヤツで考えてみよっか?

 あれがもしサクだったら「『忘れてません?』からの『なんだっけ、それ?』」てなるし、そのあとの謝り方だって「あーゴメン」で終わるのよ。


 ……でもまあそれは別にいいよ。

 人にどんな印象を抱こうと、それぞれ感性ってものがあるもの。


 けどね。これだけは言わせて欲しい。

 これはオレが思った中で、サクと埼先生の一番の違いなんだけど。


 埼先生は!


 男じゃないか!




「――ね? だから先生とサクは全然似てないんだって。第一、サクみたいなのが先生やってたら、その学校はもう終わりだよ? オレ、サクに英語教わったことあるんだけど――」


 陸は語った。

 こんこんと聞かせた。

 埼先生と咲久がどれだけ違うのかということを。


 けれど海斗はそんな陸を見るにつけ、妙にニヤニヤしだして、


「うーん。やっぱり普段からよく見てる人は違うなあ」


「――あれなら自習の方が万倍マシって――はい……?」


「でもまあそうだよね。こないだ知り合ったばっかりのぼくより、咲久ちゃんのためなら神様にもケンカ売っちゃう陸君の方が詳しいのは当たり前か~」


「ええっ!? や……え!?」


 陸は動揺(どうよう)した。


 そりゃあ、咲久とは付き合いが長いからその分詳しいのはその通りだ。

 でもそれは、あくまでも付き合いが長いから(・・・・・・・・・)知ってるだけ。

 海斗が自分の気持ちをどこまで(さっ)したのか知らないけど、表向きは「咲久と自分はあくまでもただの幼馴染(おさななじみ)」で押し通したい。


「違っ! 違うよ! や、違わないトコもあるんだけどそうじゃなくて――!」


 と、一生懸命に口を動かす陸。


 すると海斗が――


「あ。なんだろあれ?」


 必死な陸を差し置いて、他のことに興味が移した海斗が向こうを指差した。


(りく)  ……主人公君。高1。へたれ。

海斗(かいと) ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

(さき)先生……朱音(あかね)の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。


川薙(かわなぎ) ……S県南中部にある古都。


【更新履歴】

2025.4.20 微修正


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