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第1話 陸と海斗と生物室と

 5月下旬の土曜日。

 どんよりした雲が空を埋め尽くし、ちょっと肌寒さを感じるお昼過ぎ。




「なにこれ?」


 土曜日――しかも中間テストの翌日だと言うのになぜか学校に来ていた帰宅部の(りく)は、生物室に設置された飼育ケースを眺めて尋ねた。


「虫」


「や、んなのは見りゃわかるし」


 水槽の魚に餌をやりながら答えるさわやかメガネの小宮山(こみやま)海斗(かいと)に、陸は言い返す。


 今、陸が見ている飼育ケースには、敷き詰められた赤土と数匹の虫が入れられていた。

 その虫、「カブトムシの幼虫が背筋を伸ばしてみた」みたいな奇妙なやつだ。

 もっとも、そいつはカブトムシの幼虫と違って茶色で、地表に出て行動しているのだけど、「そういう種類もいるんです」と言われたら納得してしまいそうだ。


「だからなんて虫よ?」


「えー? じゃあマダガスカル……えーと、ジーで」


「マダガスカル・ジー?」


 海斗の口から出てきた名前に陸は感心した。


 マダガスカル・ジー。

 いい名前だと思う。海斗の言い方が引っかかるけど。

 (かんむり)の「マダガスカル」は、インド洋に浮かぶ島、マダガスカル島のことだろう。ということは、こいつは外国の虫なのか。

 ただ、後ろの「ジー」がなんなのか、陸にはちょっと分からない。


「ジーって? あ。もしかしてジャイアント的な?」


 ふと閃いた陸は尋ねた。

 いくら英語の成績が残念な陸だって、ジャイアントが(ジー)から始まることぐらいは分かる。

 けれど海斗は首を振ると、


「ぶっぶー。はずれ」


「じゃ、なに?」


「ゴキブリ」


「ゴっ!? ――っだわああっ!?」


 慌てて飛び退()いた陸は、後ろにあった椅子(いす)につまづいてひっくり返った。


 ◇ ◇ ◇


「なんでGなんか飼ってんのよ? てて……」


 生物室はヤバい。自分の教室に逃げてきた陸は、海斗に抗議した。


「別に害はないよ? ダンゴムシみたいなものだし」


「そうなのかも知れないけど、そうじゃない」


 と、頭を()く陸。

 髪の毛の中にあれ(・・)が紛れ込んでるような気がしてゾワゾワするのだ。


「でね、陸君。今日は生物部の見学に来たわけだけど……どう? 入部は――」


「しないよ」


 期待値の高そうな勧誘をしてくる海斗に、陸はにっこりと笑った。


 今の流れで、どうして入部してもらえると?

 この前行った川薙女子高(通称川女(かわじょ))の生物室が案外良かったから来てみたらこの始末。


 あっちは熱帯魚や小っちゃいエビをお洒落に飾った水槽で飼っている素敵空間だった。

 なのにこっちにいるのは外国のでっかいG。


「あのさ。一般人はGを飼いたいとは思わないし、本気で部員増やしたいんなら――」


「あ。陸君と生物室で思い出した。神様どうしてるかな?」


「――もうこの際だから、おGさんには(くに)に帰っていただいて……え?」


 突然話題を変えた海斗に、戸惑った陸。




 海斗の言う神様とは、奇稲田姫命(くしなだひめのみこと)のことだ。

 古事記などに出て来る国津神(くにつかみ)一柱(ひとはしら)で、川薙氷室(かわなぎひむろ)神社の御祭神(ごさいじん)

 ひょんなことからその奇稲田に導かれた陸が、級友の小宮山(こみやま)海斗や、川女の長谷(はせ)ひまり。隣のクラスの福士朱音(ふくしあかね)らと協力し、見事幼馴染(おさななじみ)氷室(ひむろ)咲久(さく)を破滅から守ってみせたのは、まだ今月始めのことだった。




「……ごめん。言わない方が良かったね?」


「ん? なんで?」


 なぜか気遣ってくる海斗に、陸は笑い返した。


 そりゃあ奇稲田との別れの時は、さすがにちょっと来るものがあったのは事実だ。

 けど、そういつまでも落ち込んでいるわけがない。

 大体、奇稲田が(まつ)られている氷室神社は陸の奉仕(バイト)先。彼女はすぐ傍にいるのだ。


 だから落ち込む必要なんて、全然なくて……


「……」


「ねえ陸君! そろそろ時間(・・・・・・)だし、家庭科室行こ?」


 やっぱり変な気の遣い方をする海斗に、陸は苦笑した。


 ◇ ◇ ◇


「福士さん大丈夫かなあ?」


 家庭科室への道すがら。

 窓から見える空模様を気にしていた陸に、海斗がそんなことを言った。


「メッセしても既読スルーだし。――ほら」


 スマホをポチポチっとやって、残念そうに見せてくる海斗。

 実は朱音、破滅騒動が解決してから一度も学校に来ていないのだ。


「そりゃあ福士さん、もともと不登校だし、来るの難しいのは分かるけど。でもせっかく友だちになったのに、一度も会えてないとかどうなのよ? ねえ陸君?」


「え? あ、うん」


 急に同意を求められた陸は相槌(あいづち)を打って考えた。


 ――自分と朱音が、友だち?


 もともと、朱音は迷惑系動画を作成していた素行不良の生徒で、陸との出会いは最悪なものだった。

 その後、なんやかんやと彼女が本当は普通の子で、破滅に立ち向かう仲間にもなってくれたのだけど、それでも一緒に行動していたのはまだほんの数時間。

 たったそれだけの付き合いで友だちとか言われると……


「……あのさあ陸君。福士さん、本当なら自分だけ逃げてもよかったのに、助けてくれたんだよ? それなのに友だちか悩むって……」


「わ、わーってるしそのぐらい!」


 考えを見透(みす)かされた陸は耳を真っ赤にした。


 勿論(もちろん)陸としては、朱音は友だちでいいのだ。

 ただ陸の性格上、朱音の考えをきちんと聞いたうえで判定しないと落ち着かないだけで。

 なにしろ、人付き合い慎重派の陸だ。自分は友だちだと思ってたのに相手は違った、なんてことになると相当にショックなわけで。


「えーと。シュオンは……その、友だち……なので……あー、学校に来ないのは、気になる……かな?」


「だよね」


 考えを改めた陸に、海斗が満足そうにうなずいた。


(りく) ……主人公君。高1。へたれ。

海斗(かいと)……陸の友人。高1。さわやかメガネ。


川薙(かわなぎ)……S県南中部にある古都。


【お知らせ】

昨日週一更新とか言っといて、舌の根も乾かぬうちに連投でございます。

いやまあ最初ぐらいはね? きちんとやってるって姿勢、見せたいじゃないですか?


たぶん明日も更新しますけど、リアルの状況によっては更新できません。


あ。ここまでのキャラクター紹介と、きちんとしたあらすじもリリースしなきゃ。


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