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〇〇〇の神の申す事には  作者: 日曜定休のsai山
【第2幕】前日譚。日没と雨が重なる刻
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第0話 とある河川の橋の上。日没と雨が重なる刻。

【ごあいさつ】

お久しぶりでございます。sai山でございます。


自分の中で100pt越えたら続き書くと決めていたので、めでたく第2幕開始でございます。まあ、書き方忘れてるんですが……


で、ですね。

今回は10万字目標と言いながら12万字まで許容。で、実際には15万字以内に収まればいいなとか、そんな感じで進めて行こうと思っております。


リリースペースは週1を目標にしてますが、たぶん無理です。がんばります。


よろしくお願いします。


 ここは川薙(かわなぎ)。梅雨と言うにはまだ早い、とある日の日没のこと。


 雨が降っていた。


 それほど強くはないけれどもう何日も降り続くその雨は、市内の河川の水位を押し上げ、ついには避難警報を発令させるまでになっていた。


 けれど、そんな緊迫する天候の中、傘もささずに対峙(たいじ)する人物が二人いて――




「さあ(りく)君、問題です。この川、なんて名前でしょうか?」


 オレンジ色の街灯に照らされた橋上(きょうじょう)


 陸にそんな問題を出したのは、陸の友人・小宮山(こみやま)海斗(かいと)だった。


「――」


 陸は答えた。

 けれどその声は降りしきる雨と増水した川の音にかき消され、聞こえることはない。


「うん。桜間川(さくらまがわ)。正解」


 けれど海斗には陸の声が届いていた。

 彼は満足そうにパチパチと手を叩くと、また問いを投げかける。


「じゃあ次の問題。この川は昔、なんて呼ばれてたか。分かる?」


「――?」


 分からない。陸は答えた。

 川の名前なんて気にしたこともない。分かるはずがない。


「あはは。じゃあ不正解ね。正解は、おうまがわ(・・・・・)。――て言っても、口じゃどんな字書くかまでは伝わんないだけど――」


 海斗はおかしそうに笑った。

 けれど、その笑みはどこか空虚(くうきょ)で、悲しみすら感じられる。


「……陸君ってさあ、実はかなりの不正行為者(チーター)だよね。性格はぼっちそのものなのに、君の周りにはなんだか妙に有能な人が集まるし。咲久(さく)ちゃんの破滅の時もそう。あんなの絶対無理ゲーだったはずなのに、なんだかんだで完全クリア。君自身はほとんどオロオロしてただけなのにね。そんなの見ちゃったら『あーこいつ絶対不正行為(チート)してんな』てなるでしょ?」


「……」


 陸は何も言えなかった。

 不正行為者(チーター)だとかぼっちだとか、海斗が自分のことをそんなふうに思っていたことがショックだった。


「――ねえ陸君。ぼくにも不正行為(チート)の仕方を教えてくれない? どうすればそんなにラッキーばっかり起こせるの?」


「――。――」


 分からない。自分は何もしてない。陸は答えた。

 たしかに、破滅騒動の時の強運ぶりは自分でも神憑(かみがか)り的だったと思う。

 でも幸運はあくまでも幸運。どうやれば運が向いてくるかなんて、陸に分かるはずがない。


「……そう。ま、いいや。教えてくれないならくれないで、ぼくにはこれ(・・)があるから」


 微笑(ほほえ)んだ海斗が何かを取り出した。


「これね。陸君も知ってるでしょ。黒いお守り」


「――!?」


 海斗に見せられたそれ(・・)に、陸の息が詰まった。

 たしかにあれは黒のお守り。でもどうして海斗がそんな物を!?


 陸が動揺していると、海斗がそれ(・・)を握りつぶした。彼の目に昏い炎が宿る。


 すると、それまでサーサー言っていた雨が、一瞬にして豪雨に変わる。

 桜間川――いや。おうまがわ(・・・・・)の水位が見る見る上昇する。

 ドウドウと生命の危険を感じるほどの濁流。橋脚がミシミシバキバキと悲鳴をあげる。橋がガツガツと震えている。


「素直ニ不正行為(チート)の方法ヲ教えてくれれバ、これ使わなくテ済んだンだけド……まあいいヨね。あア……今ッてホんトにいい時間。フフハッ――」


 海斗が(わら)った。

 と、橋にぶつかった濁流が怒涛(どとう)となって陸たちを襲う。そして――


「じゃアね陸君。(チート)にハ(ペナルティ)ヲ」


「――っ!!」


 怒濤にさらわれた陸は、逢魔川(・・・)へと投げ出され、そのまま川の底へと沈んでいった。


 ◇ ◇ ◇ 


「――わああああっっっっ……!!?」


 まだっ! まだ死にたくない! 必死に足掻(あが)いていた陸は、がばっと飛び起きた。


「あああぁぁ……て、あれ?」


 机の上では、――ピピピピ、ピピピピ――と、スマホがアラームを鳴らし続けている。

「……」


 陸は辺りを見回した。

 カーテンの隙間から漏れる朝の光が浮かび上がらせるのは、机にタンス。本棚。


 ここはいつもどおりの陸の部屋だ。橋の上でもなければ川の底でもない。


 ベッドの横には、たった今跳ね飛ばしたらしい掛け布団が落ちていた。


「……夢、か」


 状況を理解した陸は胸をなでおろした。

 とんでもない悪夢だった。まだ動悸(どうき)が収まらない。体中も汗でべっとり。


「……はっ!?」


 何かに気づいた陸は、慌ててズボンの中に手を突っ込んだ。


「……セーフ」


 そして安堵(あんど)


 大丈夫。セーフ。ちょっと湿ってるような気もするけど、これは寝汗。だから絶対にセーフ。

 川に落ちるなんて夢を見たものだからアッと思ったのけど、でも大丈夫。


 ようやく現実味を感じられた陸は、相変わらずアラームを鳴らし続けるスマホに目を向けた。


「もう時間か……っし」


 陸はベッドを出ると、スマホを取りアラームを止めた。そしてその足でトイレへと向かったのだった。


(りく) ……主人公君。高1。へたれ。

海斗(かいと)……陸の友人。高1。さわやかメガネ。


川薙(かわなぎ)……S県南中部にある古都。


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