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〇〇〇の神の申す事には  作者: 日曜定休のsai
【第2幕】再来
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第1話 陸と海斗と生物室と

 破滅騒動から3週間余りたった5月下旬。

 世の多くの高校生の懸念事項だった中間テストも終わり、すっかり日常を取り戻していた陸。

 そんな彼は、今日は土曜日にもかかわらずなぜか学校に来ていた。




「なにこれ?」


 どんよりとした空模様(そらもよう)が気温をグッと押し下げるお昼過ぎ。

 中間テストの翌日――しかも土曜日だと言うのになぜか学校の生物室に来ていた帰宅部の(りく)は、設置された飼育ケースを眺めて尋ねた。


「虫」


 水槽の魚に餌をやりながらそう答えたのは、さわやかメガネこと小宮山(こみやま)海斗(かいと)。こっちは正規の生物部員だ。


「や、んなのは見りゃわかるし」


 返事がお気に召さなかった陸はブスッと(くちびる)(とが)らせた。


 今、陸が見ている飼育ケースには、敷き詰められた赤土と数匹の虫が入れられていた。

 その虫、例えるなら「カブトムシの幼虫が背筋を伸ばしてみた」みたいな奇妙なやつだ。

 もっとも、そいつはカブトムシの幼虫と違って茶色で、地表に出て行動しているのだけど、「そういう種類もいるんです」と言われたら納得してしまいそうではある。


「だからなんて虫よ?」


「えー? じゃあマダガスカル……えーと、ジーで」


「マダガスカル・ジー?」


 海斗の口から出てきた名前に陸は感心した。


 マダガスカル・ジー。

 いい名前だと思う。海斗の言い方が引っかかるけど。

 (かんむり)の「マダガスカル」は、たぶんインド洋に浮かぶ島、マダガスカル島のことだろう。ということは、こいつは外国の虫なのか。

 ただ、後ろの「ジー」がなんなのか、陸にはちょっと分からない。


「ジーって? あ。もしかしてジャイアント的な?」


 これだ。と思った陸は尋ねた。

 いくら英語の成績が残念な陸だって、ジャイアントの頭文字が(ジー)だってことぐらいは知っている。

 けれど海斗は首を振ると、


「ぶっぶー。はずれ」


「じゃ、なに?」


「ゴキブリ」


「ゴっ!? ――っだわああっ!?」


 その正体に慌てた陸は、後ろにあった椅子(いす)につまづいてひっくり返った。


 ◇ ◇ ◇


「なんでGなんか飼ってんのよ? てて……」


 生物室はヤバい。自分たちの教室に逃げてきた陸は、海斗に抗議した。


「別に害はないよ? 落ち葉とか食べててダンゴムシみたいなものだし」


「そうなのかも知れないけど、そうじゃない」


 陸は頭を()きながら答えた。

 髪の毛の中にあれ(・・)が紛れ込んでるような気がしてゾワゾワする。勿論、実際にそんなことがないことは分かっているのだけど。


「でね、陸君。今日は生物部の見学に来たわけだけど……どう? 入部の方は――」


「しないよ」


 期待値高そうな勧誘をしてくる海斗に、陸はにっこりと笑って返した。


 今の流れで、どうして入部してもらえると?

 この前行った川薙女子高(通称川女(かわじょ))の生物室が案外良かったから来てみたらこの始末。

 あっちは熱帯魚やら小っちゃいエビやらをお洒落に飾った水槽で飼っているなかなかの素敵空間だったのだ。

 なのにこっちにいるのは外国のでっかいG。


「あのさ。普通の人はGを飼いたいとは思わないのよ。本気で部員増やしたいんなら、そういうニッチ路線じゃなくて――」


「あ。陸君と生物室で思い出したけど、神様どうしてるかな?」

 

「は? あ、うん……」


 突然話題を変える海斗に、陸はちょっと気落ちした。




 海斗の言う神様とは、奇稲田姫命(くしなだひめのみこと)のことだ。

 古事記などに出て来る国津神(くにつかみ)一柱(ひとはしら)で、川薙氷室(かわなぎひむろ)神社の御祭神(ごさいじん)

 ひょんなことからその奇稲田に導かれた陸が、級友の小宮山(こみやま)海斗や、川女の長谷(はせ)ひまり。隣のクラスの福士朱音(ふくしあかね)らと協力し、見事幼馴染(おさななじみ)氷室(ひむろ)咲久(さく)を破滅から守ってみせたのは、まだ今月始めのことだったのだけど……




「……ごめん。言わない方が良かったよね?」


「ん? なんで?」


 なぜか気を遣ってくる海斗に、陸は笑い返した。


 奇稲田との別れの時は、ちょっと来るもの(・・・・)があったのはたしかな陸だ。

 けど、あれからもう半月以上。そういつまでも落ち込んでいるわけがない。

 大体、奇稲田が(まつ)られている氷室神社は陸の奉仕(バイト)先。だから考えようによっては彼女は別れた後もずっと傍にいてくれているわけで……


「……」


「ねえ陸君! そろそろ時間(・・・・・・)だし、家庭科室行こ?」


 やっぱり変な気の遣い方をする海斗に、陸は苦笑した。


 ◇ ◇ ◇


「福士さん大丈夫かなあ?」


 家庭科室への道すがら。

 窓から見える空模様を気にしていた陸に、海斗がそんなことを言った。


「メッセしても既読スルーだし。――ほら」


 スマホをポチポチっとやって、残念そうに見せてくる海斗。

 実は朱音、破滅騒動が解決してから一度も学校に来ていない。


「そりゃ福士さん、もともと不登校だし、来るの難しいのは分かるよ? でもせっかく友だちになったんだから、一度も会えてないのも違う感じするじゃん? ねえ?」


「え? あ、うん」


 急に同意を求められた陸は相槌(あいづち)を打ちつつも悩んだ。


 ――自分と朱音が、友だち?


 もともと朱音は、迷惑系動画を作成していた素行不良の少女で、陸との出会いは最悪なものだった。

 その後、なんやかんや彼女が実は普通の女子だと知ったり、仲間になって一緒に破滅に立ち向かってくれたりもしたけれど、それでも一緒に行動していたのはほんの数時間。

 たったそれだけの付き合いで「友だち」とか言われると……


「……あのさあ陸君。福士さん、本当なら自分だけ逃げてもよかったのに、そこを踏み止まって助けてくれたんだよ? それなのに友だちじゃないとか……」


「わ、わーってるしそのぐらい!」


 考えを見透(みす)かして呆れる海斗に、陸は耳を真っ赤にした。


 勿論(もちろん)陸としては、朱音は友だちでいいのだ。

 ただ陸は性格上、朱音の考えもきちんと確認した上で判定しないと気が済まないだけで。


「えーと。じゃあシュオンは……その、友だち……なので……あー、学校に来ないのは、気になる……かな?」


「だよね」


 考えを改めた陸に、海斗が満足そうにうなずいた。


(りく) ……主人公君。高1。へたれ。

海斗(かいと)……陸の友人。高1。さわやかメガネ。


川薙(かわなぎ)……S県南中部にある古都。


【更新履歴】

2026.3.7 微修正。


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