第35.2話 六日目。午前。作戦会議(後編)
「そう言えば……」
ひまりがそんなことを言い出したのは、行動開始ギリギリになってからのことだった。
「そんなに大したことじゃないのだけど」
と、前置きしたひまり。
「――貴方が土講を避ける理由、まだ聞いてなかったわよねって」
「は?」
陸はポカンと眉をひそめた。
「えと、スンマセン。よく分かんないんすけど、その……避けるって?」
「避けるって言うのは、土講を受けようとしないことを指したつもりなのだけど?」
陸の質問に、ひまりもまた眉をひそめる。
けれど陸、それだけの回答ではまだ彼女の言いたいことが分からなくて――
「……そ、それって誰の話すか?」
「私、さっきから貴方のことを話してるつもりなんだけど」
「で、ですよね! ……じゃ、土講ってやっぱり川女の……?」
「それはそうでしょ」
「てことはつまり……センパイは、オレが土講に出ない理由を知りたいと?」
「だから最初からそう言って……もういいわ。聞いた私がバカだったわ」
ひまりは、とうとう匙を投げた。
けれど陸、収集した情報を分析してみると、こんな結果が導き出されてきて……
――土講ってあの土講だよな。今日川女でやるあれ。でも川女って女子高じゃん? 女子高ってことは男子は入れないわけで……
「あれ? もしかしてオレ、サクの制服着て土講出なきゃいけなかった?」
陸はどこまでも残念な方向に迷走していた。
「あのさ陸君……たぶんだけど、土講ってモノによっては校外の人でも受講できるってことなんじゃないの? ねえ?」
がっかりな結論の陸に助け舟を出してくれたのは海斗だった。
「話が通じないと思ったら……その通りよ。土講は日によっては外部の人間でも受講できるのよ」
「で、今日がたまたまその日だったの?」
「ええ」
海斗とひまり。ろくに面識もないはずのこの二人が揃うと、トントン拍子で話が進む。
それはまるで、ぼっちの陸にコミュニケ―ションの見本を見せているよう。
けれど陸は、そんな自分の性格を恥じることはなかった。
と言うか彼、今はそんなことよりももっとショックな事実を知ってしまって……
「そんなん最初から教えといてよ……知ってたら制服借りるなんて絶対しなかったのに……」
陸は、今朝の苦労がまったくのムダだったと知って落ち込んでいたのだ。
「でもこの話、川薙市の広報に出てるみたいよ。だから私、てっきり貴方もそのことを知った上でやってるものだと……」
「あー、なら知らなかった陸君が悪いよね」
「普通、高校生は広報なんて見ないでしょ!」
落ち込んでいる相手にも容赦ない二人。おかげで陸のメンタルは決戦前からボコボコだ。
(まあそう気落ちするでない。人生長いんじゃしそう言うこともあろう。――そうじゃ! 実はわらわな。たった今、娘の制服の使い道で妙案を思い付いたんじゃが――)
「や。もういいっす。聞きたくないんで」
陸は奇稲田の提案を拒絶した。
奇稲田の思い付きなんて、聞かなくったって想像はつく。
せっかく手に入れたレアアイテム。どうせ使わないのなら、ちょっと人には言えないなあんなことや、少しムフフなこんなことに……とか、どうせそんなトコだろう。
「そんなんに使ったってバレたら、オレ完全に嫌われちゃうじゃん! そうなったらオレ、もう二度と立ち直れないから!」
(いや。わらわ、まだなにも言ってないんじゃが……)
「え? なに? 彼、急にどうしちゃったの?」
「さあ? たぶん神様になにか言われたんだろうけど……」
よく分からない妄想で勝手に絶望する陸に、一同は呆気にとられるばかりだった。
陸 ……主人公君。高1。へたれ。
咲久 ……ヒロイン。高1。氷室神社の娘。
奇稲田……氷室神社の御祭神の一柱。陸に協力する。
海斗 ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。
ひまり……咲久の先輩。高2。弓道部。
雨綺 ……咲久の弟。小6。やんちゃな犬みたいな子。
朱音 ……迷惑系・女子。高1。通称・シュオン。
川薙市……S県南中部にある古都。小江戸。江戸情緒が香るけど、実は明治の街並み。




