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第10話 一日目。早朝。氷室神社前。

 ――幼馴染氷室咲久(ひむろさく)の身に破滅が迫っている。――


 咲久の身体を借りて突如現れた御祭神(ごさいじん)奇稲田姫命(くしなだひめのみこと)からそんな神託(しんたく)をいただいた陸は、実感も湧かぬまま家へと帰った。


 そして翌朝。

 一夜の間に覚悟を決めた(りく)は、咲久を守るため(いさ)んで家を出たのだった。


 ◇ ◇ ◇


 一日目。早朝。




「オレ、昨日の夜考えたんすけど――」


 いつもより早く家を出た陸は、昨日となんら変わることのない氷室神社の鳥居を見上げると、そう独り言ちた。


「――サクが破滅するとか言われても、今の日本でなにをどうしたら破滅できるのか、いまいちピンとこないんすよ」


 と、白状した陸。

 彼が破滅と言われて思い出すのは、サルカニ合戦のサル。そしてシンデレラの継母(ままはは)

 要はおとぎ話ばかりで、およそ現実離れしたエピソードしか思いつかなかったのだ。


 けれどそんな陸の独り言に反応する者がいて――。


(ほおう、そうなのか? わらわ、性格に難のある令嬢の間では、割とあることだと聞いておったのじゃが)


「令嬢て……そんなのどこで聞いたんすか?」


 姿の見えない何者かの質問に、けれど陸は落ち着いて答えた。


 この質問の声は奇稲田のものだった。

 実は昨日、彼女から貰った神宝(しんぽう)欠片(かけら)には、彼女と言葉を交わせる機能があって、陸はそれを制服のポケットに忍ばせて会話していたのだ。


「あー、や。一応言っときますけど、令嬢とかそんな話普通はないす」


 陸はきっぱりと言った。


 神様なんて、どうせ浮世離(うきよばな)れした存在で、現代の常識なんてサッパリだろうと思っていたけれど、この様子じゃどうやら大当たり。

 いや。それどころか彼女、その予想の斜め上を行くらしい。


「それよりもクシナダ様。何かヒント……あー、手がかりないすか? さすがに『破滅する』だけじゃ対処のしようがないす」


(そう言われてものう……今のわらわは分霊(ぶんれい)の分霊……のそのまた分霊に過ぎぬ。てて様(・・・)のお力添えを(たまわ)れれば、もう少しぐらいは助けになれるのじゃが……)


 陸の質問に、奇稲田は困った声を上げた。

 昨日の威勢はどこへやら。こんなことでは先が思いやられる。と、思わずにはいられない陸だ。すると――。


「なに一人でブツブツ言ってんの?」


 不意にかけられた声に、陸は振り向いた。


「ってサク! なんで!?」


「なんでって、ここわたしんち」


「そうだけどそうじゃなくて。なんでこんなに早いんだって!」


「部活。弓道。センパイがやってるトコ見たくなっちゃって」


 気まぐれで朝練に行こうとする咲久に、陸は「なんでだよ?」という顔をした。


 川薙女子高校かわなぎじょしこうこう(通称・川女(かわじょ))の弓道部に所属する咲久は、実は幽霊部員だった。

 そもそも、咲久は高校で部活動をやる気はなかったのだ。けれど何の因果か偶然か、たまたま見学しに行った弓道部に、「すっごいカッコ先輩(咲久・談)」とやらがいて、それで入部を決めたのだ。

 けれど、そんな動機じゃ部活もなかなか長続きしないようで、だから陸もこんな朝早くから咲久と遭遇(そうぐう)するとは思っていなかったのだけど……




「で、そっちこそなんでウチの前でブツブツ言ってたの? お参り?」


「え? や。そんなんじゃねえし」


 幽霊部員が幽霊をやらない。

 予想外の事態に浮足立った陸は思わず否定した。


「じゃなに? あ。もしかしてわたしに用とか?」


「えっ!? や? やっ! そんなわけねえし!」


「じゃあなに?」


「え? あ~……や。サクには関係ねえことだし!」


 陸はついつい真逆のことを言い(つの)っていた。

 実は陸、今日は咲久に用事があってここに来ていたのだ。


 陸が咲久の破滅を予言されたのは昨日の夕方のこと。

 でも、それからたった一晩では、正体すら分からない破滅を防ぐ方法なんて思いつくはずもなく、だから陸は、咲久に直接会って無事を確認に来たのだ。

 けど、朝っぱらから他校の女子に用がある。と、そんなことが気恥ずかしくて仕方がない年頃の陸は、さっきから意に反して否定に否定を重ねてしまい……




「な、なんでもねえから!」


 妙な照れくささで耳を赤くした陸は、用事があるはずの咲久を追い払いにかかった。

 すると咲久は、そんな陸の態度につまらなそうな顔をすると、


「……ふーん。そ」


 とだけ言って、自転車のペダルに足をかけた。


「あ。サク」


「ん? なに?」


 陸の呼び止めに、咲久はペダルを踏み込むのを止めた。


「えと、その……き、今日さ。英語教えて欲しいんだけど」


「……なんで?」


「え? や。だってオレ、英語全然だし……」


「……」


 何も返してこない咲久に、陸はぎくりとした。

 どうやら咲久、これまでの陸の態度に相当カチンときていたらしい。


 咄嗟(とっさ)のことだったからついあんな態度を取ってしまったけれど、勿論(もちろん)本音は全然別のところにある陸だ。

 今こうして英語の指導をお願いしているのだって、本当に英語を教わりたいわけじゃなく、咲久と一緒の時間を作るため。




「さ、さっきのは、その……ゴメンナサイ。サク先生。英語、教エテクダサイ」


「……了。でも今日ちょっと約束あるから遅くなるよ」


 決まりが悪そうに頭を下げる陸に、それでも咲久はふっと一つ息を吐くと了承した。


(りく)  ……主人公君。高1。へたれ。

咲久(さく) ……ヒロイン。高1。氷室神社の娘。

奇稲田(くしなだ)……氷室神社の御祭神の一柱。陸に協力する。


川薙市(わかなぎし)……S県南中部にある古都。小江戸。江戸情緒が香るけど、実は明治の街並み。


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― 新着の感想 ―
お約束していた二万文字らへんまで読ませていただきました。進みが丁寧すぎるくらいにゆっくりと進むので、まだまだどういう話なのか見えてこなくて何とも言えない部分がありますが「死」ではなく「破滅」というのが…
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