第1~9話 陸、邂逅を果たす(後編) ※※※ 圧縮再編集しました。 ※※※
「サクが、大体あと一週間の内にたぶん川薙のどこかで破滅する……ねえ?」
なんとも頼りない神託を頂いた陸は、あまり中身のない内容を口にすると、胡乱な目を奇稲田に向けた。
「なんじゃその目は? もしやそなた、わらわのこと疑っとる?」
「はいまあ」
正直に返事した陸。
あと1週間で咲久が破滅するなんて、本当?
今話している相手がどうやら本当に奇稲田姫らしいということは、何となく受け入れつつある陸だ。
けど、だからと言って彼女の言うことを信じるかはまた別。
だって彼女、言動に神様らしい重みと言うか、威厳のようなものがまるでない。
すると、そんな陸の感想を知った奇稲田は、
「なんてことを言うんじゃそなた! そこまでハッキリと否定されてはわらわの神としての沽券が傷付くじゃろうが! そんなことばっかり言っとると仕舞いには泣くぞわらわ!」
「え? あっはい。ゴメンナサイ」
怒ると思いきや、言外に「気を使いなさい」と言ってくる奇稲田に、陸は頭を下げた。
しかしそれだけでは納得できなかったらしい彼女は、なにやら思案を始めると、
「むむむ……しかしこうまで言われて何もせぬでは、わらわの信用にも関わろうし……ならば陸よ。手を!」
「え? や。なんで?」
「いいから! 手をこれへ!」
「なんなんすかもう……」
陸は訝しみながらも奇稲田に従った。
このままじゃ彼女の沽券が傷付いたままなのは確かだし、お手の一つで関係が良くなるならそれもまた良しと言うもの。
「あれ? つか、なんでオレの名前知ってんの?」
「ふふふ」
陸の疑問に奇稲田は微笑んだ。そして差し出された陸の手に自らの手をそっと被せると、
「よいか陸よ。これを遣わすにあたって、そなたに言うておかねばならぬことがある」
「ムシすか。――でも、あ。これもしかして、祠の中の?」
被されたての中に金物の冷たさを感じた陸はふと思った。
これはきっと、祠の中で謎の光を放っていたあの物体だ。
「うむ。その通りじゃ。よいか? これはかつて、わらわの御神体を務めておった神宝――鏡の欠片なのじゃ。今となっては時と共に忘れ去られし遺物に過ぎぬが、それでも粗略に扱うには畏れ多き物」
「なんでそんな物を?」
陸の疑問に、奇稲田はまた微笑んだ。
「その欠片には、秘められし力があっての」
「秘められし力?」
「うむ。それを持っておるとな……ああいや。わざわざ言うことでもあるまい」
「ええ……」
陸は嫌な顔をした。
もったいつけずに教えて欲しい。もし危険な物なら、今すぐ返品するから。クーリングオフって出来るよね?
「どうじゃ? 大事にできるな?」
「あ。えーと……じゃああの。ありがとう……ございます?」
彼女に悪意なんてちっとも見当たらない。そう感じた陸は神宝の欠片を受け取った。
この奇稲田はちょっとメンドクサイ性格だけど、だからと言って狐狸妖怪とか、悪鬼怨霊の類とも思えない。
それに咲久の破滅まで一週間しかないのに、ほぼノーヒントの状態からのスタートじゃ、守ることだってままならない。
だったら、ちょっとぐらい危険だったとしても、奇稲田の厚意にすがってみるのも、いいかも知れないのだ。
「む、もう頃合か。手を離すぞ。この神宝がわらわの手から離れれば、娘の憑依は解け、目を覚ますことになろうが……準備は良いな?」
「え? そうなんすか? あ、じゃあちょっと待――」
奇稲田はそう宣告すると、陸の返事を待つことなく神宝から手を離した。すると――
「うわっ!」
突然放たれた閃光に、思わず目を逸らした陸。
こういうことが起きるなら前もって言っておいて欲しい。
すると、どこからか奇稲田の声が聞こえてきて……
――それにしてもそなた。本当に娘のことを好いておるのなら、本人に直接伝えればよいではないか。さすれば、足繫く神社に通って神に頼らずとも……――
「ちょちょちょ! そそそ、それなんの話――!?」
――ふふ。まあ精進することじゃ。己が道を己が力で拓こうとする者にこそ、神も微笑みかけようからな――
こうして、人の子と神様との邂逅は終わった。
その信じがたい出来事に、白昼夢でも見たような心地の陸。
けれどこれは決して夢なんかではなかった。
はっきりと頭に残っている彼女の言葉と、この手に握られた冷たく硬い神宝の感触。
それらの証拠が、これは現実だと陸にしっかりと物語っていた。
陸 ……主人公君。高1。へたれ。
咲久 ……ヒロイン。高1。氷室神社の娘。
川薙市……S県南中部にある古都。小江戸。江戸情緒が香るけど、実は明治の街並み。




