第1~9話 陸、邂逅を果たす(前編) ※※※ 圧縮再編集しました。 ※※※
【ご挨拶】
本日は、「○○○の神の申す事には」お手に取ってくださりありがとうございます。
本作、週一更新(木~土のどこか)で10万字程度で一区切りになるよう執筆しております。
どうか最後までお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
※※※ 「邂逅」の話数が1~9話になっていることのご説明 ※※※
導入部の冗長さを解消するため圧縮再編集した結果、旧1~9話が統合されました。
折を見て話数の修正を行いますが、ご承知のほどよろしくお願いいたします。
ここは江戸情緒香る観光都市・小江戸川薙。
そしてその市街の北に鎮座ましますは、創建から優に千年を超える古社・川薙氷室神社。
延喜式にも記載された由緒正しい縁結びのこの神社は、良縁を求める人で常に賑わっていた。
ただし、
それは、神社のとある一角――長い時の中で忘れ去られた区域――を除けば、の話だったけれど……
◇ ◇ ◇
桜花の残り香もすっかり消え、新緑も青葉に変わろうかという五月。
夕闇に染まった氷室神社の裏にある杜で奉仕活動の清掃に勤しんでいた陸は戸惑っていた。
「ええと……つまり今のサクは、神託を授けに来たイナダ様であって、断じてサクじゃない。と?」
「如何にも!」
と頷いたのは、自分を探しに来た幼馴染の巫女。
▽ ▼ ▽
陸から「サク」と呼れた巫女の名は、氷室咲久。16歳。
氷室神社宮司家の娘にして、県内屈指の進学校、県立川薙女子高校に通う陸の幼馴染だ。
性格は快活で割と面倒見の良い方――なのだけど、残念なことにちょっと雑。
良くも悪くも自分に正直なところがあって、たまーに要らんトラブルに巻き込まれることも。
△ ▲ △
「わらわ神じゃから! しかも結構有名な方の神じゃから!」
ドヤァ! とそんなことを宣う幼馴染に、陸はますます困惑した。
何があったの? ――今日までの咲久は、神社の娘なのに家業にちっとも興味がなく、神様のことなんて知ろうともしなかったのだ。
なのにそんな彼女が神様ごっこ?
もしこれがただの茶目っ気だとしても、彼女は陸と同じ高校一年生。さすがに無理がある。
「む? なんじゃそのしょっぱい反応は? わらわ神じゃぞ神。知らぬのならいざ知らず、知ってもなおそんな塩対応。もしやそなた、この中津国一の美姫、稲田姫のことを知らぬのか? 当社の御祭神じゃぞ!?」
「や。知らないわけじゃないんだけど……」
困り果てた陸は、とりあえず知っていることを口にした。
▽ ▼ ▽
奇稲田姫命。
日本神話に登場する神様の一柱。奇稲田姫。
彼の八岐大蛇伝説に出てくる姫で、大蛇の生贄にされかかっているところを、通りかかった素戔嗚尊に助けられ、夫婦になる。
そう言う役どころの姫で、別に美姫とかそう言う設定とかはないはずなのだけど……
△ ▲ △
「これそなた! そこまで知っておきながら、何でそんなにしょっぱいままなんじゃ!」
陸の態度がお気に召さない奇稲田(?)は、ますます不満を募らせた。
そもそも、こんな事態になったのは、咲久がぼんやり光る古祠を見つけてしまったことが始まりだった。
その祠、古木の洞の中に隠されるように置かれていて、すっかり朽ち果てていたのだけど、辛うじて残った中心部の中に、謎の光を放つ何かが納まっていたのだ。
そして咲久は一体なにを思ったのか、不用意にもその祠の中に手を入れててしまい――
「まあよい。わらわとて別に崇められたくて現れたわけではないし……」
――その結果がこれだった。
あの時、どうして咲久があんな行動をとったのかは分からない。
いくら咲久が大雑把な性格だからって、あんな怪しすぎる物にホイホイと触りにいくはずがない。
けど、もし今の咲久が本物の奇稲田姫だとしたら?
そして咲久が祠に手を伸ばしたのは、奇稲田姫の導きによるものだったとしたら?
「さて。ではさきほどの神託の続きじゃが……」
「へ? 神託?」
「ななんとおっ!?」
何のことだか分からない陸に、奇稲田はひどく驚いた。
「最初に申したじゃろう! 娘の身に破滅がせまっておると言う話じゃ!」
「んあ? あ~……そう言えばそんなこと言ってたような……」
陸はここまでの経緯を思い出してみた。
陸の記憶によれば、たしか奇稲田姫が登場した時の第一声は、「んああ~っ! やったあ! ひっさしぶりの現世じゃあっ!」だった。
そしてこの時、彼女の突然の奇行に尻もちをつかされた陸はそのことを抗議したのだ。
けど、その時彼女が言ったセリフは、「おっとこうしてはおれん。まずは身体の確認からじゃな。まずは…」だったはず。
で、その次となると、彼女は言葉通り身体機能の確認にご執心だったみたいで「むくく……」とか「むっむっ」とか漏らしながらストレッチをし始めて……
「いやもうよい! これならまた一から授け直した方が早いわ!」
神託とやらを思い出そうと頑張る陸を、なぜか奇稲田は止めた。
「と言うかそなた。そんな細かいところまで覚えておきながら、肝心の神託を覚えてないとはどういうわけじゃ? こんなの場合によっては娘の破滅を食い止めるよりも難しいじゃろうに」
「や。んなこと言われましても――って、え? 破滅?」
奇稲田の呆れ声に、陸はやっとのことで神託の内容を理解した。
◇ ◇ ◇
「破滅ってあの破滅!?」
「どの破滅か知らんが、おそらくその破滅じゃ」
神託の重大さを知った陸が尋ねると、奇稲田は淡々と返した。
「娘ってサクのことすか!?」
「わらわは娘と申しただけじゃが、他に心当たりがなければそうなのじゃろう」
当然のように頷く奇稲田に、愕然とする陸。
これはいよいよ一大事だ。
そもそも彼女は本当に奇稲田なのか? という根本的な問題は一旦置いとくとして、もしこの話が本当なら是が非でも食い止めなくちゃならない。
「それ、いつです!?」
「それは分からぬ」
「え? じゃあ、どこで?」
「それも分からぬ」
「……えーと……どうやって?」
「それこそわらわには存ぜぬこと」
質問を重ねるごとに、雲行きが怪しくなってゆく御神託。
これ一体なんのやり取りだっけ? 聞く意味あんの? ――と、そう思えるほどに何の情報も出てこない。
「ああもう! じゃあ何なら分かるんすか!?」
「ええい! うるさいわ!」
これが最後の質問! とばかりに陸が語気を強めるとに、奇稲田は負けじと声を荒げた。
「なんでもかんでも聞けば教えてもらえると思ったら大間違いじゃ! 少しは自分で知る努力をしてみよ! さすれば何かしらの情報が得られることもあろうに! そなたそういうトコじゃぞホントに!」
「あっはい。すみません……」
奇稲田のあまりの勢いに、つい謝った陸。
確かに今の尋ね方は思考停止そのもので、そういう意味じゃ陸が悪かったのかも知れない。
けど、神様から「幼馴染が破滅しますよ」と告げられて、「はい、分かりました。じゃああとのことは自分でやりますんで」となる人間なんて、果たしてこの世にいるのだろうか。いや。いない。
「ま、分からぬとは申しはしたが、全く分からぬと言うことでもない」
どうにも納得しきれない陸に、奇稲田が告げた。
「――じゃが、残念なことに今のわらわに予見できることはかなり限られておってな……そう。今分かることと言えば、場所ならこの川薙のどこか。時なら……ん~まあ……五? いや。七日……以内? うむ。まあ、大体そんなところじゃ」
「はあ」
奇稲田のお告げに、胡乱な目を向けた陸。
彼女の示した七日――一週間という期間は驚くべき猶予のなさで、それが本当なら焦る気持ちも出てくると言うもの。
けど、せっかくの神託も全然信じたくないほどに内容がふわふわし過ぎている。
「それ、ホントに合ってます?」
「無論じゃ! わらわの言葉に嘘偽りはない」
神託ってこんないい加減な感じでやるものなの? そう、思わずにはいられない陸だった。
陸 ……主人公君。高1。へたれ。
咲久 ……ヒロイン。高1。氷室神社の娘。
川薙市……S県南中部にある古都。小江戸。江戸情緒が香るけど、実は明治の街並み。




