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〇〇〇の神の申す事には  作者: 日曜定休のsai山
【第2幕】火曜日
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第25話 火曜日の夕方。道中【天気】雨

 手摩乳(てなづち)に誘われた(りく)が立ち上がろうとすると、それよりも早く立ち上がったのは雨綺(うき)だった。


「行くって今からだよな? おれも行く!」


「は? う、うう~ん……」


 陸は渋った。

 雨綺が一緒に行こうとすると、陸が嫌がる。これはもはや様式美(ようしきび)みたいなものだ。

 けど今回はそうじゃなく、陸は雨綺に頼みたいことがあって。


「や。雨綺にはしいなのこと見ててほしいんだけど」


 陸は告げた。

 しいなが目を覚ました時、誰かがそばにいてやらないとしいなが寂しがる。と、そう思ったのだ。


「そんなの別におれじゃなくても家には誰でもいるじゃん」


「そうだけど、でもしいなの事情知ってるのは雨綺だけじゃん?」


「……だったらリックが留守番すれば?」


 引こうとしない雨綺に、陸は困った。

 雨綺の言うとおり、陸が留守番して、雨綺は奇稲田(くしなだ)御魂(みたま)の回収に。と言う役割分担はたしかにありだ。

 でも御魂の回収なんて正直何が起こるか分からない。危険かもしれないのだ。それを小学生に任せるのは……


「いえいえそれはダメですよ? このお仕事にうっちゃんは連れて行きません」


「はあ!? なんでだよ!?」


 おもむろにNo(ノー)を突き付けてきた手摩乳に、雨綺は食ってかかった。


「だって今から行ってきますしたんじゃ、帰るときにはきっと日が落ちてます。子どもはお家にいる時間ですしね」


「いや、おれ子どもじゃねーし! つーかなんでいつもおれだけハブられ――」


「や、雨綺は子どもだろ。オレも子どもだし」


 ヒートアップする雨綺に待ったをかけたのは陸だった。


「あのさ雨綺。オレ今15だけど、成人まであと3年もあるんだよ。お酒とかそっち系の話になると、もう2年必要だし。それがまだ11歳の雨綺なら、もっと子どもなのは事実だろ?」


「……」


 かなりムッとしているらしい雨綺は黙っていた。

 けれど、その目つきは不満でいっぱいのようで。


「あのさ。雨綺はまだ分かんないかも知れないけど、留守番――つか留守居役(るすいやく)って実はかなり大事な役目なんだよ。御魂の回収の方をやりたいって気持ちは分かったけど、留守居役だって雨綺にしかできないわけなんだし」


 陸は諭した。

 雨綺は基本ただのハスキー犬だけど、理屈を理解するだけの理性知性もまた持ち合わせている。

 と言うか、理性知性があればこそ、普段陸を言い負かしたりすることができるわけで。


「……分かった……けど、ご飯とかトイレの時は?」


 苛立(いらだ)ちと諦めが半々で、少ししょぼんとなった雨綺が、陸に尋ねた。


「そりゃ別にいいよ。つか、ずっとしいなを見張ってろって言ってんじゃないし」


「ならフロも?」


「それは……オレが戻って来てから入ればいいんじゃないの?」


 急に小学生らしい質問をし出す雨綺に、陸は失笑した。


 ◇ ◇ ◇


「で、どこに行くんすか?」


 雨が傘を叩く音が耳を騒がせる中、氷室神社(ひむろじんじゃ)の大鳥居をくぐった陸は、半歩先を行く咲久(さく)(手摩乳)に目的地を尋ねた。


仙庭(せんば)です。そこの山でおひいちゃんを見つけましてね。けど気まぐれなあの子のこと、またすぐどこかに行ってしまうかも知れないし。でもでも、ああもう……!」


 手摩乳が()れて天を仰いだ。

 (はや)る気持ちをこの雨に邪魔されて、恨めしくて仕方ないらしい。


「まあ焦ってもしょうがないすよ。仙庭じゃバス使ってもあんまり意味ないし、オレもなるべく急ぎますから」


 (なげ)く手摩乳を(なぐさ)めた陸は、スマホで時間を確かめた。


 氷室神社から仙庭までは普通なら歩きでおよそ15分。けど、これだけの雨だとそのとおりにはいかないのは確実。


「てことは、仙庭に着くのは4時過ぎ?」


 陸は考えた。

 仙庭には有名な寺社や仏閣が集中していて、普段から人手が多いのだ。

 夕方6時を過ぎれば人も減るのだけど、あいにくと今はまだ4時。

 そんな中でなるべく人の目を引かないように奇稲田の御魂を回収するとか、そんなことできるものなんだろうか?


「まあまあそれは大丈夫だと思いますよ? 今日は平日ですし雨も降ってますし、それに…………」


「……それに?」


 何かを言いかけた手摩乳に、陸はその続きを待った。けれど、


「いえいえ。やっぱり何でもないです。とにかく雨の平日なら人もそんなにいないですし、それはあまり気にしなくても大丈夫だと思いますよ?」


「……?」


 露骨(ろこつ)に隠し事があると(ほの)めかされた陸は、とりあえず首をかしげておいた。


 ◇ ◇ ◇


「あーあー、そう言えばちぃちゃん言ってましたけど、あなた、一度常世(とこよ)に堕とされたのですってね?」


 手摩乳が突然そんなことを聞きだしたのは、仙庭町に入ってからすぐのことだった。


「トコヨ? ……て、どこよ?」


 脈絡がなさ過ぎて、ダジャレみたいな聞き方になった陸。


「常世とはあの世……つまり死後の世界のことです。ちぃちゃんにそんな芸ができたのも驚きですけど、人の子があそこから生還できたのも驚きですよねえ?」


「はぁ……」


 陸は生返事した。


 陸が死後の世界らしき所から戻ってきたのは事実だけど、急にそんな話をされても応えられることがない。

 あとさっきから出て来る「ちぃちゃん」て誰?


「あ、あ。それは木花知流姫(このはなちるひめ)のことです。だってだってほらあの子、『チルヒメ』でしょう? だから『ちいちゃん』」


 あの木花知流姫をそんなふうに呼ぶ手摩乳に、陸はちょっと驚いた。


 知流姫は今でこそ(たぶん)無害な桜の神様だけど、つい先日までは破滅騒動の黒幕。死神的存在だったのだ。

 それを「ちぃちゃん」とは。

 手摩乳って、実は結構すごい神様なの?


「いいええ。吾等(われら)夫婦(めおと)は神の中では(はかない)い存在ですよ? ただ、あの子は吾等が妹御(いもうとご)ですし、妹をどう呼ぼうと構わないでしょう?」


「へえ、そうなんすか……って! はあ? 妹!?」


 木花知流姫は手摩乳の妹。

 その事を知った陸は、今日一(きょういち)で驚いた。


(りく)    ……主人公君。高1。へたれ。

咲久(さく)   ……川薙(かわなぎ)氷室(ひむろ)神社(じんじゃ)宮司家(ぐうじけ)の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。

海斗(かいと)   ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

ひまり  ……咲久の先輩。高2。クール系女子。

雨綺(うき)   ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。

朱音(あかね)   ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。

(さき)先生  ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。


木花知流姫(このはなちるひめ)……桜の神様。ギャルっぽい。

奇稲田姫(くしなだひめ) ……川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃ御祭神(ごさいじん)。訳あって縮んだ。

手摩乳(てなづち)  ……川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃ御祭神(ごさいじん)。奇稲田の母。

しいな  ……小さくなってしまった奇稲田姫の仮の名。


雄狐(おぎつね)   ……川薙熊野神社かわなぎくまのじんじゃから出て来たおキツネさん。


川薙(かわなぎ)   ……S県南中部にある古都。

茅山(かやま)   ……川薙の南にある工業都市。


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