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〇〇〇の神の申す事には  作者: 日曜定休のsai山
【第2幕】火曜日
116/121

第24.4話 火曜日の夕方前。氷室家宅【天気】雨

「ああああ……だからそうじゃないって言ったのに……」


 様子が一変した幼馴染(おさななじみ)を前に、(りく)はがっくりとうなだれた。

 ちょっと油断してたらいつの間にか咲久(さく)円鏡(えんきょう)を持っていた。そしたら、その身体(からだ)神霊(しんれい)憑依(ひょうい)して、で、この有様。

 その円鏡が自分ちの神社の御神体(ごしんたい)だと全然気付きもしない咲久もどうかと思うけど、それはそれ。こうなっちゃったのは完全に陸のミスだ。


「ところであなたたち。ここは氷室神社(ひむろじんじゃ)でよろしいのですよね?」


「あっはいまあ」


 本来の咲久よりもう少しおっとり上品な感じで話す咲久に、陸は頷いた。

 この神霊、印象からするとどうやら悪霊ではなさそうだ。

 でもだからと言って油断は禁物。なぜなら神霊は一度怒らせると様々な災厄(さいやく)が――


「なあリック。ねーちゃんさっきから何やってんだ? 弟的にはあーいうねーちゃん、イタくてちょっとヤなんだけ――」


「しいいいいっっ!!」


 陸は慌てて雨綺(うき)の口を塞いだ。


 神霊と言うものは、それがたとえ悪霊でなかったとしても虫の居所が悪ければ人間に牙を剥いたりするのだ。

 それなのに雨綺は、目の前にいる姉が実は姉じゃないことに気付いていないのか、思ったことを全部口に出したりして!


「あ、あの。申し訳ないんすけど、どちら様……すか? サクじゃ、ないんすよね?」


 まだもごもご言っている雨綺を無視した陸は、相手を怒らせないように気を使った。

 もし相手が良くない存在なら戦うしかない。

 けど、手持ちの武器は雨綺のお守りだけ。

 これで撃退できる相手ならいいのだけど。


「あらあらまあまあ。そう言えばまだ名乗ってまぜんでしたね。――ああコホン。でしたらそこな両名。()が言葉、心して聞きなさい」


 咲久(?)は急に気取りだすと、すっと息を吸った。そして――


「やあやあ遠からんものは音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! 吾が名は手摩乳(てなづち)! 大日本(おおやまと)豊秋津洲(とよあきつしま)に一大勢力を築きし大山祇(おおやまつみ)が一族にして、氷室神社五柱(いつばしら)祭神(さいじん)一柱(ひとはしら)なり! その方ら、吾が真名(まな)を知りえたからには、これ以上の非礼は許されぬ! 速やかに(ぬか)づきて(かしこ)まり(そう)らええぇいっ!」


 ▽ ▼ ▽


 手摩乳(てなづち)

 日本神話に登場する国津神(くにつかみ)で、氷室神社に祭られた五柱のうちの一柱。

 脚摩乳(あしなづち)ともども、子を慈しむ親心が神格化した存在とされる。

 なお、奇稲田姫(くしなだひめ)はこの神の末の娘である。


 △ ▲ △


「……」


 陸は黙った。

 と言うか何も言えなかった。

 なんかこんな展開、こんなノリ。前に見たことがるような気がする。


「あ、ああ……こういうのを蛙の子は蛙って」


 ふと、奇稲田の自己紹介もこんな感じだったと思い出した陸は呟いた。

 するとその独り言を耳聡く拾った咲久(手摩乳)は、


「あらあら。なにか言いました?」


「いえ何も」


 相手の正体に安心した陸はしれっと答えた。

 手摩乳と言えば氷室神社の御祭神の一柱で、陸も知っている名前だ。決して危険な存在ではない。


「あの。あなた、テナヅチ様ってことは、クシナダ様の……お父さんなんすよね?」


 陸は尋ねた。

 あの奇稲田の父親にしては思ったより物腰の柔らかそうな感じだけど、それはそれ。

 元々が子煩悩(こぼんのう)の神様だし、きっと優しいヒトなんだろう。

 それになんと言ってもあの奇稲田の親なのだ。だからきっとこれもキャラ作りの一環とかで……


「お母さんですよ?」


「……」


 さらっと訂正してきた手摩乳に、陸は赤面した。

 氷室神社で奉仕(バイト)する者として知っているべき御祭神の性別を間違えてしまった。しかもよりによって雨綺の前で。

 こんなんじゃもう兄貴分としてのメンツもなにもあったもんじゃない。


「リックだっさ」


「はぁ!? や。雨綺だって知らなかったくせに!」


 恥ずかしさのあまり言いがかりをつける陸。

 けれどそんな兄貴分に弟分は、


「いやおれは普通に知ってたけど。つか、おれをなんだと思ってんの? 氷室神社(じぶんち)の神様間違えるとか、あるわけないじゃん」


「~~っ!!」


 当たり前だろと言ってのける小学生に、何も言い返せない高校生だった。


 ◇ ◇ ◇


「え!? クシナダ様の御魂(みたま)を見つけたんすか!?」


 手摩乳から事情を聞いた陸は思わず身を乗り出した。


 行方(ゆくえ)の知れない奇稲田の御魂をやっと見つけた。それは間違いなく朗報だ。

 だってその御魂を回収できれば、しいなは奇稲田に戻るし、川薙の破滅も防げる。

 けれど、この中で一番にそのことを喜んでいいはずの手摩乳は、なぜか困った表情を見せると、


「でもでも、いざそれをてて()に教えようとしたら、あのヒトどこにもいなくって」


「てて御?」


「吾が夫、脚摩乳のことです。ほんとあのヒト、どこで何をしていのやら」


 困惑しきりの手摩乳に、陸は知流姫(ちるひめ)から教えられたことを思い出した。

 奇稲田の父・脚摩乳は、手摩乳と同様に奇稲田の御魂の捜索に出ていたのだ。

 でもその脚摩乳がいなくなった? なぜ?

 それじゃまるで、木乃伊(ミイラ)取りが木乃伊。ってやつじゃないか。


「あー……でもそれ、張り切り過ぎて遠くまで行っちゃった的なやつじゃないすか?」


「そうですねえ。あのヒトのことだからきっと川薙の外まで探しに行ってるんでしょう。じゃあじゃあ、あのヒトのことは一旦置いといて、とりあえずおひいちゃんの御魂を迎えに行きましょうか?」


 夫の行方についてあまり気にしなかった手摩乳は、陸を誘うと立ち上がった。


(りく)    ……主人公君。高1。へたれ。

咲久(さく)   ……川薙(かわなぎ)氷室(ひむろ)神社(じんじゃ)宮司家(ぐうじけ)の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。

海斗(かいと)   ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

ひまり  ……咲久の先輩。高2。クール系女子。

雨綺(うき)   ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。

朱音(あかね)   ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。

(さき)先生  ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。


木花知流姫(このはなちるひめ)……桜の神様。ギャルっぽい。

奇稲田姫(くしなだひめ) ……川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃ御祭神(ごさいじん)。訳あって縮んだ。

手摩乳(てなづち)  ……川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃ御祭神(ごさいじん)。奇稲田の母。

しいな  ……小さくなってしまった奇稲田姫の仮の名。


雄狐(おぎつね)   ……川薙熊野神社かわなぎくまのじんじゃから出て来たおキツネさん。


川薙(かわなぎ)   ……S県南中部にある古都。

茅山(かやま)   ……川薙の南にある工業都市。


【更新履歴】

2025.10.25 衍字(えんじ)修正&微修正。


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