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〇〇〇の神の申す事には  作者: 日曜定休のsai山
【第2幕】火曜日
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第24.2話 火曜日の夕方前。氷室家宅【天気】雨

 目の前の異変に、まず動揺(どうよう)したのは雨綺(うき)だった。

 (りく)がしいなに鏡を持たせた。そしたら鏡面が急に黒ずんできて、そこから雲がもくもくと湧き出したのだ。


「なあリック。これってこないだのと同じやつだけど!?」


 雨綺は、陸に聞いた。

 雨綺も陸も、鏡から雲が湧くのを見るのはこれで二度目だ。だからきっと陸は、当然そうなることも想定済みなんだろう。と、そう思いたかったのだ。けれど……


「え、ええと……や。大丈夫大丈夫」


「いやそれ絶対大丈夫じゃねーじゃん」


 自分以上に動揺している高校生に、小学生は呆れた。

 陸は普段から「自分は高校生なんだから~」とか散々兄貴風(あにきかぜ)吹かせてるくせに、いざとなったらこれ。

 こんな体たらくの人間が、自分の姉を破滅から救った? それも絶対にウソだ。


「ああもう! とりま鏡回収する?」


「そ、そうな! それな!」


 雨綺の提案に、陸が動いた。

 そうだ。しいなに鏡を持たせたら雲が出たというのなら、一度鏡を回収してしまえばいいのだ。

 けれど――


「あ、あれ? やっ! ふんぬっ!!」


 しかし鏡は回収できなかった。

 鏡を取り戻しに行った陸がしいなから鏡を取り上げようとしているけど、鏡はまったくびくともしない。

 別にしいなが鏡をがっちりつかんで離さないとかそういうわけじゃない。むしろ彼女はそっと手を添えているだけだし、そもそも彼女は眠っている。


「あ! 雨綺! 窓!」


 陸が指図を飛ばした。


 このままじゃ天井に雲が溜まって家の中に雨が降りかねない。そうなる前に雲を外に掃き出さないと。


 雨綺は窓を開けた。それまで遠かった雨音が、ダイレクトに耳に届く。


 それから雨綺は、そこに置いてある自分のランドセルの元に行った。

 下敷きを引っ張り出すとバタバタと扇いで雲を外に出し始める。


「で! こっからは!? おれもそっち手伝う?」


「や! それは別にいい。こっちで何とかする!」


 雨音のせいで必然大声になる雨綺に、陸も大声で返す。

 けれど、


「ふんぬくちっ! ――だめか……」


 鏡を引っぺがしにかかった陸の気合は、空振りに終わった。


 この鏡としいなの結びつきの強さは異常だった。

 きっとこれは、神力とかそんな感じの力でくっついていて、力でどうにかなるようなものじゃないのだろう。

 でも、ならどうすれば雲を止められる?

 目的はあくまでも雲を止めること。だから、無理に鏡を取り上げる必要はない。

 あ。そう言えば、先日この雲が湧き出た時はたしか――。


「雨綺! そこのやつ(・・・・・)借りたいんだけど!」


「なに!?」


「だからランドセルに付いてるやつ! 借りる!」


 雨音が会話を妨げる中、陸は雨綺のランドセルに手を伸ばした。

 雨綺のランドセルのストラップには、氷室神社(ひむろじんじゃ)身上守(みのうえまもり)がぶら下がっている。


「どうか上手くいきますように」


 陸はランドセルからお守りを外すと、祈った。


 モデルになるのは、先日同じように鏡から湧き出す雲を止めて見せた木花知流姫(このはなちるひめ)だ。

 あの時は夕間暮(ゆうまぐ)れの境内(けいだい)だっただけに、知流姫が何をしていたのか分からなかった。

 けど、よくよく考えてみると、あれはそんなに難しい芸当じゃなかったのだ。


 知っての通り、氷室神社のお守りは、相手の魂を(すこ)やかにしてくれる効果を持つアイテムだ。

 そしてあの鏡は奇稲田(くしなだ)御神体(ごしんたい)

 ならそこから湧き出す雲は、奇稲田の魂の不調が形になった物だと言えないこともないはず。


 そして、もし本当にあの雲の正体が奇稲田の魂だと言うのなら、このお守りは効果があるはずで。


「かしこみかしこみて申す」


 陸は奇稲田を想う気持ちをお守りに込めると、鏡に添えた。


 もしこれでも雲が止まないようなら、あとはもうしいなごと鏡を外に出すぐらいしか思い付かない。

 けど、それはさすがに非人道(・・)的過ぎるし――いや。そりゃ勿論(もちろん)相手は神様だから、人道(・・)とかそんな概念は適用外なわけなんだけど、そうじゃなくて。




「……や、やった!?」


 少し経ったあと、変化が目に見え始めた陸は喜んだ。

 陸の予想が当たったのか、雲が収まり始めたのだ。


「や、でもリック。雲まだちょっと出てるけど?」


「んん……」


 喜んだのもつかの間、またすぐに難しい顔に戻った陸。

 お守りのおかげで雲がほとんど出なくなったのは事実だ。けど、雨綺の言う通りまだ少し漏れ出ている。


「あ~、やっぱリックと花のねーちゃんじゃ格が違うからかなあ……」


「や。んなこと言ってる場合か? これ完全に止められなかったら結局家ん中に雨降ってきそうだし……て、ちょっと待て。雨綺、お前チルヒメのこと『花のねーちゃん』かと呼んでんの?」


「だって花のねーちゃんだろ?」


「そうだけど……」


 ケロリと返事してくる雨綺に、陸は困惑した。

 確かに知流姫は桜の女神だけど、だからって「花のねーちゃん」て。


「つかさ。んなこといーから、とりあえず鏡回収しよーぜ。なんか今なら取れそうな感じするじゃん」


「あ、うん」


 なんか消化不良で不承不承気味(ふしょうぶしょうぎみ)の陸。

 でも雨綺の意見に異存はないので、鏡を取り戻しにかかる。


「ん? 雨綺も手伝うの?」


「だってこれ以上扇いでてもしょうがねーじゃん」


 陸の横に陣取って鏡に手をかける雨綺に、ちょっと狭いな。と、陸は少し迷惑がった。

 けど、雨綺に「もっと離れろ」と言ってみたところで素直に聞くわけもなし。ハスキー犬にじゃれつかれたとでも思うしかないわけで。


「んじゃ、せーのでいくぞ。せーの、えいっ! ――たわっ!?」


 鏡を取り上げにかかった陸は、雨綺共々ひっくり返った。

 さっきがさっきだっただけに、もうちょっと手応えがあるだろうと思って引っ張ったら、大きなカブよろしくすぽっと引っこ抜けたのだ。


 しかし、あまりにも抵抗がなさ過ぎたせいで、鏡は二人の手から放れ、ポーンと放物線を描いて飛んで行ってしまい――。


「あたっ!?」


 迂闊(うかつ)すぎるアクシデントに陸が声のした方を向くと、ちょうどそこにいたのは学校から帰って来たばかりの咲久だった。


(りく)    ……主人公君。高1。へたれ。

咲久(さく)   ……川薙(かわなぎ)氷室(ひむろ)神社(じんじゃ)宮司家(ぐうじけ)の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。

海斗(かいと)   ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

ひまり  ……咲久の先輩。高2。クール系女子。

雨綺(うき)   ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。

朱音(あかね)   ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。

(さき)先生  ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。


木花知流姫(このはなちるひめ)……桜の神様。ギャルっぽい。

奇稲田姫(くしなだひめ) ……川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃ御祭神(ごさいじん)。訳あって縮んだ。

しいな  ……小さくなってしまった奇稲田姫の仮の名。


雄狐(おぎつね)   ……川薙熊野神社かわなぎくまのじんじゃから出て来たおキツネさん。


川薙(かわなぎ)   ……S県南中部にある古都。

茅山(かやま)   ……川薙の南にある工業都市。


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