第21話 火曜日の昼休み。川薙南高校1-3【天気】雨
火曜日。雨足が強くなったり弱くなったりを繰り返す肌寒い日の昼休み。
すっかり溶け込んだグループで昼食を取った陸は、その後すぐに開始されたトランプの手札を確認すると、暗い顔をした。
「陸くん。今引き悪かったでしょ? 今顔に出てた」
「んあ? そ、そう? や。んなことないけど?」
目聡くツッコんできたドンくんに、陸はにへらっと笑い返す。
けど実際、陸の気分がノって来ないのはそれが理由じゃない。
陸の手元にあるカードは、3、3、3、4、8、9、9、9、10、10、J、K、K、A、2。
今から始まるトランプを2組使った大人数向けゲーム「シン・大貧民(シン・大富豪?)」の初戦としては、そこまで悪くない。
じゃあなんで陸はそんなにモヤついているのか?
それは、今この場に海斗がいないからだ。
――眼鏡の彼を信用しないコとでス。彼はそう遠くないうちにあなたの元から去り、そして妨害者となってあなたの前に現れるでしょうかラ――
キツネの寄越した「有用な情報」を思い出した陸はますますモヤついた。
あんなの所詮キツネの与太話。そう思いたい。
でも、だったらどうして海斗は昨日の放課後以降一度も姿を見せず、連絡もくれないのか?
「……陸くんの番だよ?」
「んあ? あ、うん」
心ここにあらずの陸は、ドンくんに促されると手札から8を出した。
そして一旦場を流し、あらためて4を出してゲーム再開。
「あー、今日小宮山君来てないけど――」
陸は思い切って海斗の事情を知っている人はいないか尋ねた。けれど、
「さあ? はい『5』」
「ん~知らない。はい『6』」
「じゃあ『10』ね。右に同じ」
と、返って来る答えは芳しくないものばかり。
「てか、陸くんが知らないんじゃ誰も知らないよ。『ジョーカー』」
そう告げたのはドンくんだった。
そうして場を流したドンくんは一度ゲームを止めると、
「てか、陸くんメッセとかした? 陸くんが自分から連絡するのイヤな人なのは知ってるけど」
「んん~……」
手痛いところを突かれ、反論に困る陸。
ドンくんは海斗と同様、陸にとって気軽な付き合いができる数少ない友人の一人だ。
そんな彼から「自分から連絡しなさい」と叱られてしまった。
でも陸だって昨夜自分から連絡しようとしたのだ。ただ、ちょっと気の利いた文章が思い付かなかっただけで……
「はい。『革命』!」
ゲームを再開したドンくんが5枚のカードを出した。
革命だ! 手札の強弱関係が逆転する最悪の事態に、予定を狂わされたメンバーが一斉に悲鳴を上げる。
けれどその中で唯一陸だけは、それほど慌てる様子もなく。
「むむう……陸くんだけ反応が悪いなあ……もしかして『革命』するのバレてた?」
「や。まさか」
不満げに訝しむドンくんに、陸は不敵に微笑んだ。
基本的に保険をかけながらプレイするタイプの陸は、こういう時でも安定した戦いができるのが強みなのだ。
ただし、そんなプレイスタイルで上位が狙えるはずもなく、いつも3位で終わるというデメリットもあるのだけど。
「あ。そうだ。海斗の休みで思い出したけど、今日は埼先生も休みらしいね」
「埼先生が?」
おもむろに飛び出した隣のクラスの担任の話題に、陸は目をぱちくりさせた。
埼先生とは昨日九家稲荷に行く途中の市杵島横丁で出会っている。
その時は顔色のわりに元気なあいさつをする小学生ぐらいの子を連れていたけど、もしかして……
「あれ? もしかして海斗の方は知らないのにそっちの方は知ってる?」
「や……ん。ノーコメント」
もしかして、あの子に何か?
おいそれと口にすべきではない事情を察した陸は、この話題を打ち切った。
するとその時、教室のスピーカーから『ジーー』と音が鳴りだして――。
『あー、生徒の呼び出しをします。次の生徒は至急職員室に来るように。えー、1年3組のー――』
「あれ? 陸くん呼ばれてるね。何かした?」
「さあ?」
まったく心当たりのない呼び出しに、陸は首をかしげた。
陸 ……主人公君。高1。へたれ。
咲久 ……川薙氷室神社宮司家の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。
海斗 ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。
ひまり ……咲久の先輩。高2。クール系女子。
雨綺 ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。
朱音 ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。
埼先生 ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。
木花知流姫……桜の神様。ギャルっぽい。
奇稲田姫 ……川薙氷室神社の御祭神。訳あって縮んだ。
しいな ……小さくなってしまった奇稲田姫の仮の名。
雄狐 ……川薙熊野神社から出て来たおキツネさん。
川薙 ……S県南中部にある古都。
茅山 ……川薙の南にある工業都市。
【更新履歴】
2025.9.11 終わりに呼び出しを追加。
2025.9.12 微修正




