第20話 月曜日の夜。自室【天気】雨
夜。
日没を過ぎた頃からパラついてきた雨が少し強くなる中、今日も一日が終わろうとしていた。
そしてそんな雨音を聞きながらベッドに寝ころんでいた陸は、その雨音になぜか微妙な不快さを感じながらスマホを弄っていた。
「や。これじゃ怒ってるみたいに見えるし、もっと違う書き方は……あ~、にしてもあのキツネ、ホント何なんだ?」
考えがまとめきれなかった陸は、ぽいとスマホを投げ出すとぼーっと天井を見上げた。
今日再び訪れた雄狐との邂逅。それは陸にとって愉快なものではなかった。
あのあと、結局雄狐の出した条件を呑んでいた。
けど、それは知流姫の桜枝を質を取られていたから。
もしあそこで「ノー」とでも言おうものなら、あの桜枝はもう戻っては来なかっただろう。
でも、そうやって苦虫を嚙み潰すような気持ちで「有用な情報」とやらを聞いてみれば、返って来たのは喉の奥につっかえた魚の骨みたいに不快なだけの情報で……
――眼鏡の彼を信用しないコとでス。彼はそう遠くないうちにあなたの元から去り、そして妨害者となってあなたの前に現れるでしょうかラ――
それが雄狐の寄越した「有用な情報」とやらだった。
「眼鏡っつったら小宮山君しかいないけど、なに言ってんだあのキツネ?」
陸は折角の情報をまったく信じようとはしなかった。
だって「眼鏡の彼」こと小宮山海斗は、先の破滅騒動ではあの奇稲田姫を召喚するなど騒動の解決に大きく貢献してくれた、陸の頼れる友人なのだ。
そんな海斗が今さら陸の邪魔?
今の陸の目的と言えば、神託にあった「川薙の破滅を回避」すること。
それはその神託を一緒に授かった海斗も同じはずで、そんな彼がどうして妨害を?
「はっ、んなバカな!」
段々イライラしてきた陸は、ベッドの上に放り出したスマホをまた手に取ると画面を眺めた。
そこには海斗に送ろうとして結局やめた書きかけのメッセージが表示されている。
[今日来なかったけど部活いそが――]
やっぱりダメだ。いい文章が見つからない。
実は、今日はあれから海斗がやって来ることはなかった。
勿論、海斗が来なかったのは生物部の活動が長引いたから。と、そんなことぐらい聞かなくたって予想はつく陸だ。
けど、いつもの海斗だったら行けなくなった時点で「行けなくなった」と連絡の一つも寄越してくれそうなものなのに、今日に限って何の音信もなく。
「ああもう! あンのクソギツネ! イヤなタイミングで変なこと言い出すなよ!」
海斗の裏切り。――そんなあるはずのない可能性が頭から消えなくて、モヤモヤが募るばかりの陸だった。
◇ ◇ ◇
ところで、陸がまたしてもキツネの世界に行ってしまったのは、突然開かれた拝殿の扉に押されて縁回りから落とされたのがきっかけだ。
けれど、じゃあなんで拝殿の扉が勝手に開いたのかと言うと、どうやら拝殿の中にキツネが1匹閉じ込められていたのが原因らしく……
「や。それ、たぶんあの雄狐だよな? あいつ、あんなんでも本当に本物のキツネだったんだ」
またしてもスマホを放り出した陸は独り言ちた。
ちなみに、そのキツネのことを教えてくれたのは、ギリギリのところで転倒に巻き込まれずに済んだひまりだ。
だからキツネの世界に行った時も、ひまりの姿は見えなかったのだけど、そのせいでひまりには余計な心配をかけてしまったようで。
――ちょっと貴方! 私を庇うなんてどうかしてるんじゃないの! バカっ!!――
それは、陸がキツネの世界から戻った直後に聞かされたセリフだった。
どうやら向こうに行っている間の陸は、傍から見るとまるで死んでいるように見えるらしいのだ。
――あ! まだ動かないでじっとしてなさい! どこか痛いところはない? 気を失ってたってことは、頭打ったのよね? なら、救急車を……!――
あの時のひまりは慌てようは、普段の彼女からは想像できないほどだった。
きっと本気で心配してくれたんだろう。
「ひまセンパイ……今度会ったら謝っとかないと」
陸はため息を吐いた。
自分の不注意のせいで彼女にあんな顔をさせてしまった。それは陸にとっても辛いことだ。
「ん? や、でもそもそも一番悪いのはあのキツネじゃん?」
――それじゃあお願いしまス。ああそうそう。言い忘れてましたが、今回も期限が必要ですネ。では明日までデお願いしましょうカ――
「は? 『明日までデお願いしましょうカ』じゃねえっての!」
身勝手ギツネの別れのあいさつを思い出した陸は、憤慨した。
陸 ……主人公君。高1。へたれ。
咲久 ……川薙氷室神社宮司家の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。
海斗 ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。
ひまり ……咲久の先輩。高2。クール系女子。
雨綺 ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。
朱音 ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。
埼先生 ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。
木花知流姫……桜の神様。ギャルっぽい。
奇稲田姫 ……川薙氷室神社の御祭神。訳あって縮んだ。
しいな ……小さくなってしまった奇稲田姫の仮の名。
雄狐 ……川薙熊野神社から出て来たおキツネさん。
川薙 ……S県南中部にある古都。
茅山 ……川薙の南にある工業都市。
【更新履歴】
2025.9.4 微修正




