第14話 月曜日の午後。保健室&教室。【天気】雨時々曇り
朱音が保健室に来ている。――埼先生からそんな情報を得た陸は、海斗と一緒に保健室に行くと、朱音と再会を果たした。
それから少し時間が過ぎて、午後1時50分。5時間目のおよそ半分を消化したころ。場所は北校舎1階、保健室――。
「てわけでさあ、陸君本当に咲久ちゃんの制服着て爆走することになったんだけど、なんかそれが似合い過ぎてて――」
「や。別に似合ってねえし。むしろ全然普通だし」
陸は海斗の言い分に反論した。
今陸たちがいるのは保健室の一角、パーテーションで区切られた保健室登校者用の学習スペースだ。
「いや。あれは絶対に似合ってたって。『仮装が似合い過ぎだったで賞』まで獲っってんのに何言ってんの?」
「そ、それは……」
むむむ……と、褒められてるんだけどなんかイヤ。と言った感じの陸。
しかし実際のところ、陸にとってこの話は不本意だった。
なにしろ、あの賞はその名が示す通り「女装(男装)が似合い過ぎだから表彰します」と言うものだ。
入学後しばらくはクール系孤高キャラを自任していた陸にとって、その方向で認められるのはちょっと違うわけで。
「あ~、そんなに似合ってたんならアタシも見てみたかったかも。あ。なんなら今からアタシの制服着てみても――」
海斗の話に、けらけらと笑顔を見せていた朱音が言った。
「や。それは絶対にヤ!」
その提案をキッパリと拒絶した陸。
本当は咲久の制服だって本当は着るつもりなんてなかったのだ。
すると、パーテーションの向こうから、
「あー、あなたたち。今は他に人もいないからいいけど、もう少し声を抑えてくれる?」
『はい。すみませんでした』
養護の先生に弾み過ぎる会話を注意され、陸たちはしゅんとした。
◇ ◇ ◇
結局、朱音は5時間目が終わる前に帰路に着いた。
陸たちはそんな朱音を見送ると、休み時間になるのを待って教室に戻った。
そして、6時間目をつつがなく終えた今はHR前――。
「福士さん、送って行かなくて本当によかったのかな?」
「え? いまさら?」
6時間目を終えて担任がやって来るまでのわずかな時間。名残惜しそうにそんなことを言い出す海斗に、陸は驚いた。
「いやだって福士さん体弱いって言ってたし、ちゃんと帰れるの?」
「あー、でもそれは昔の話で、今はもう全然平気とか言ってなかったっけ?」
意外と心配性なところを見せる海斗に、ちょっと首をかしげた陸。
海斗はどうしてこんなに朱音に気を使っているのだろう?
考えてみれば、保健室で話していた時も、海斗はどうでもいい話題は山のように持ち出したけれど、知流姫のことや奇稲田に関する情報は一切口にしなかった。
朱音は一緒に破滅に立ち向かった仲間だし、話したってかまわないはずなのに。
「……? どうかした?」
「ああいや。なんでもないんだけど……」
陸は、海斗の問いにお茶を濁した。
けれどすぐに気が変わって、
「ねえ。小宮山君はどうしてそんなにシュオンのこと――」
「ちょっと二人ともさあ! 5時間目いなかったけど、どこ行ってた? もしかして英語が嫌すぎてバックレたとか?」
「え!? ドンくんなに急に!? ……あ~でも……うんそう。そんな感じ」
「あ。それ絶対ウソだわ」
突然割って入って来た級友のドンくんに、陸はニヘっと笑ってごまかした。
陸 ……主人公君。高1。へたれ。
咲久 ……川薙氷室神社宮司家の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。
海斗 ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。
雨綺 ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。
朱音 ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。
埼先生 ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。
木花知流姫……桜の神様。ギャルっぽい。
奇稲田姫 ……川薙氷室神社の御祭神。訳あって縮んだ。
しいな ……小さくなってしまった奇稲田姫の仮の名。
雄狐 ……川薙熊野神社から出て来たおキツネさん。
川薙 ……S県南中部にある古都。
茅山 ……川薙の南にある工業都市。
【お知らせ】
第1幕の後始末をしつつ新しい話を進めるのってすごい大変ですね。
朱音の件はこれでもだいぶ簡略化しているのです。
来週の更新? 知らんがな。(´・ω・`)




