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〇〇〇の神の申す事には  作者: 日曜定休のsai山
【第2幕】月曜日
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第13話 月曜日の昼休み。図書室。【天気】雨時々曇り

 キツネとの遭遇(そうぐう)から一夜明けた月曜。天気・雨時々曇り。




「き、き、キタ、キチ、キトラ、じゃない! ……はぁ~あ……」


 昼休み。川薙南高校かわなぎみなみこうこう北校舎の5階。

 図書室の一角で本棚とにらめっこしていた(りく)は、目当ての本が見つけられず天を仰いだ。


「あー、なんであのキツネの名前聞いとかなかったかな……」


 と、自分の迂闊(うかつ)さを呪わずにはいられない陸。

 そして、雄狐(おぎつね)のセリフを思い出す。




――実ぁ最近、あたしらの島にちょいとおイタするやつが出てきましてねエ……ああいヤ。その犯人自体はさほど問題じゃないンですが、そのおイタのせいで普段あたしらが使ってる道に(ふた)がされてしまいまして……――




 雄狐によると、あのキツネの世界と陸たちの現世(うつしよ)は合わせ鏡のような関係になっていて、現世(こっち)側で誰かがやらかした悪戯(いたずら)のせいで、キツネの世界(あっち)側の道が塞がれてしまったらしい。


「で、その道をまた通れるようにしろって?」


 依頼内容をぽろりと(つぶや)いた陸は青息吐息(あおいきといき)だった。


 あの時は、海斗(かいと)が石にされた上に、キツネの世界から帰還(きかん)するなんて無理ゲー過ぎたから、雄狐の頼みに「イエス」と応じた陸だ。

 けどこうして無事こっちの世界に戻れてしまうと、あんな胡散臭(うさんくさ)いキツネの依頼なんて、乗り気になれるわけがない。


 だから陸は、あのキツネの正体とか弱点なんかが載っている本はないかと、図書室に足を運んだのだ。

 けど、釣果(ちょうか)はご覧のように散々(さんざん)有様(ありさま)

 これじゃ、あのキツネを出し抜くなんてできるわけがない。



――いえいエ。決してあなたを信用していないわけじゃあないでス。しかしですネ。こっちにも体裁(ていさい)ってもンがありますシ――




 陸はまた雄狐のセリフを思い出した。


 実はあの時、雄狐は陸に依頼を出すにあたって、質草を取りに来たのだ。

 その質草とは、なんと知流姫(ちるひめ)の桜枝。

 しかも雄狐、陸を(くみ)しやすいと見たのか、コンコン笑いながらさらにこんなことまで言い出して、




――そうダ! せっかく質草(しちぐさ)も頂けたことですし、どうせなら期限(きげん)も設けてみましょウ。そうですねエ。差し当たっては、明後日(あさって)までなんてどうでしょウ?――




「ああもう! っざっけんなての!」


 陸の怒声が静かな図書室に響いた。室内の批判の目が陸に集まる。


 この話があったのは昨日のことだ。昨日の時点で「明後日まで」ってことは、つまり期限は明日。

 ただでさえそれ質草に取られて情勢不利だと言うのに、こんな性急すぎる期限まで。

 これで(いきどお)らない方がどうかしている。




「大丈夫陸君? 探してる本、見つかった?」


 陸が落ち込んだり怒ったりしていると、別のコーナーにいた海斗が顔を出した。

 見れば海斗の手には、「新版・昆虫飼育図鑑(DVD付)」なる分厚い書物が収められている。


「あ。ううん。まあ最初からあるとは思ってなかったし」


 と、空元気で応じた陸。そして、


「あ、それ借りんの? そろそろ昼休みも終わるし、借りんなら早くして教室戻ろう」


 陸はにへっと笑った。


 ◇ ◇ ◇


 実は、雄狐と取引したことは海斗には内緒。と言うことになっていた。


――じゃあ、あなた方を元の世界に戻しましょウ。ああしかし、このことはお連れさンには秘密デ――


 それがあの雄狐が告げてきた最後の言葉。

 最初、陸はこのことを秘密にする理由が分からなかった。

 海斗は石にされているとは言え、狐の嫁入りを見てしまった当事者の一人だ。

 無事現世(うつしよ)に戻れれば、どうやって戻れたのか話さないわけにもいかない。

 

 けど、この疑問はすぐに解決した。


 元の世界に戻ると、海斗の記憶からあの嫁入り行列の一切がきれいに抜けてしまっていたのだ。

 そしてただ一人現世にに取り残されていたらしいしいなにそのあたりの事情を聞いても、「なんのことじゃ?」と、首をかしげられるばかり。


 気がつけば、キツネと出会ったのは陸一人だけ。ということになっていた。



 

「……キツネにつままれるって、こういうのを言うのか?」


「え? なんて?」


 海斗に独り言を聞かれた陸は、なんでもないと手を振った。

 そして海斗と二人、図書室を出ると、そのまま自分の教室へと足を向けた。


 すると丁度そこに見知った顔が現れて、


「ああ二人ともここだったんですね。探しました」


 (さき)先生だった。

 急いで階段を上って来たようで息が上がっている。


「先生。ぼくらに用事ですか?」


「ええ。実は二人に伝えておきたいことがありまして」


 海斗の問いに、埼先生が言った。


「実は私、これから休みを貰うんです。ですから午後の授業は自習と言うことになるんですが、あ。でも午後に家庭科の授業はないのでやっぱり自習もないですね」


「はあ……」


 珍しく生返事をする海斗に、陸も同調した。

 埼先生の話、要領を得ない。

 どうやら急いでいるらしいということだけは分かるのだけど、つまり何が言いたいの?


「先生。要するに――」


「ああそうでした。実は今、保健室に福士が来てるんです。会いに行ってあげてくれませんか?」


 ようやっとのことで本題を述べた埼先生に、海斗が上気した。


(りく)    ……主人公君。高1。へたれ。

咲久(さく)   ……川薙(かわなぎ)氷室(ひむろ)神社(じんじゃ)宮司家(ぐうじけ)の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。

海斗(かいと)   ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

雨綺(うき)   ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。

朱音(あかね)   ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。

(さき)先生  ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。


木花知流姫(このはなちるひめ)……桜の神様。ギャルっぽい。

奇稲田姫(くしなだひめ) ……川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃ御祭神(ごさいじん)。訳あって縮んだ。

しいな  ……小さくなってしまった奇稲田姫の仮の名。


雄狐(おぎつね)   ……川薙熊野神社かわなぎくまのじんじゃから出て来たおキツネさん。


川薙(かわなぎ)   ……S県南中部にある古都。

茅山(かやま)   ……川薙の南にある工業都市。


【更新履歴】

2025.7.2 図書室が何階にあるか明記。


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