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英雄の涙  作者: TNT
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揺れ動く世界

第一次世界大戦時に完成したルーマニア王国。それは小さいながらも民主主義者が多数を占める平和な国であった。


 しかし、平和は長く続かなかった。第一次世界大戦が終了してからは、ファシズムを提唱し始めたイタリア、第一次世界大戦で敗北し、その復讐をもくろむドイツ第三帝国の台頭によって欧州には黒い風が吹き始め、トランシルヴァニアの奪還を目指すハンガリー、コミンテルンの宗主国たるソ連等、ルーマニア王国の周りには敵だらけであった。


 そしてその黒い風はルーマニア王国にも降り注ぐ…1936年2月22日、このままのルーマニア王国は滅ぶと考えたコルネリウ・コドレヌアは、自身を臨時首相とする「ルーマニア鉄衛団」を立ち上げルーマニアに対して宣戦布告。内戦が勃発したのである。


 内戦に関しては綿密に計画された作戦により鉄衛団の圧勝であり、ルーマニア王国はその名をルーマニア鉄衛団へと変貌させた。そして、ドイツにその領土を狙われているユーゴスラビア、ギリシャ、イタリアに領土を狙われているアルバニア、ギリシャ王国。以上4カ国はルーマニア鉄衛団の首相であるコルネリウ・コドレヌアと密談の結果、その全土を鉄衛団に預け、その名を「ルーマニア多重帝国」と変更させたのだ。


 ルーマニア多重帝国の国力は、一度は滅んだオーストリア=ハンガリー二重帝国が目指した多民族国家の夢を叶えたい一心の国民達の努力により尋常ではない速度で発展し続け、内戦が終結してからおよそ5ヶ月が経過した1936年9月1日の時点で、ドイツ第三帝国の国力を上回ったのである。そしてその将来性を見抜いたドイツ第三帝国はルーマニア多重帝国に接近。かなりの譲歩をした上で枢軸国へ加盟させることに成功した。


 そして1936年9月11日、そう遠くないうちにドイツ第三帝国に併合されるオーストリアに対し、これ以上の説得は不可能と判断した多重帝国は宣戦布告。この世界で初めての戦争が勃発するのであった。

1936年9月11日、ルーマニア多重帝国はオーストリアに宣戦布告。この世界で初めての戦争が勃発した。


開戦してから多重帝国軍は一斉攻撃を開始。砲兵大隊を部隊に組み込んでいる多重帝国軍はオーストリア軍を有効に攻撃することができ、連戦連勝であった。


 開戦から1週間後の9月18日、オーストリアの首都が陥落。オーストリアは臨時首都をスイス近辺に設置し、徹底抗戦の構えをとった。そして9月26日、多重帝国軍は進軍を続けオーストリアの歩兵師団を1個師団包囲し、即日殲滅した。小国同士の戦闘において1個師団の殲滅は戦況に大きな影響を与える。開戦してからおよそ3週間が経過した10月5日に山岳師団1個師団、騎兵師団1個師団を包囲し、またも殲滅。開戦から1ヶ月と少しが経過した10月20日明朝にオーストリアは無条件降伏。その全土が多重帝国に併合された。


オーストリアを併合したとき、極力軍人、民間人を問わずに傷つけないように配慮した進軍はオーストリア国民達の心に響き、やっと軍政から解放されたと彼らは歓喜のあまりに涙を流したらしい。


 そして1936年11月10日、粘り強く交渉を続けた結果多重帝国に加わることを承認したホルティ・ミクローシュを暗殺して共産化したハンガリー・コミューンに対して報復のために宣戦布告。復讐による悲しき戦争が始まった。


 オーストリア戦の際は極力死者を出さないようにコルネリウ・コドレヌアが指示を出していたおかげで戦争終了時の両者の死傷者数は少なかった。しかし、ハンガリー・コミューン戦ではコドレヌアの強い希望により、極力敵軍を殲滅せよ、との指示であったため、開戦から多重帝国軍はハンガリー軍に対して猛攻撃を開始。全戦線で攻勢をしかけた。


 開戦後、数週間はハンガリー軍は河川を用いて防衛を有利に行っていたが、多重帝国軍の日本を彷彿とさせる万歳突撃の攻撃に、士気を破壊され攻撃を完全に塞ぐことができず徐々に劣勢になり始め、ついに防衛陣地に穴が空いた。そこを多重帝国軍は熱烈に攻撃し、12月1日に3個師団を包囲、12月4日に殲滅した。また同日にハンガリー・コミューン北部で3個師団を包囲、12月14日に殲滅を完了した。12月1日から14日の2週間でハンガリー・コミューン軍の5分の1を殲滅したこの快挙は、後にその地名になぞらえて「アルフェルドの奇跡」と呼ばれることとなった。


 1936年12月25日から多重帝国軍は超積極攻勢作戦を発動し、ハンガリー軍は正気の沙汰ではない勢いで攻撃してくる多重帝国軍を相手に士気が完全に崩壊し、連敗を重ねに重ね、ハンガリー軍の死者数が8万人を超えた1月25日、ハンガリー・コミューンは無条件降伏した。元ハンガリー領にいた全ての軍の関係者は捕らえ次第死刑とし、これによりハンガリー・コミューンは消え失せた。共産主義以外を支持していた残されたハンガリー国民達は、手厚い多重帝国の保護に恩義を感じながらも報復戦争となればまるで人が変わる総統や軍需大臣に恐怖を感じたのであった…


 「ハンガリー、オーストリアの二国をこの短期間で併合したのか。多重帝国は我々よりも軍事力は少ない。それに奴らは機甲戦力も保有していない。編成も歩兵大隊と砲兵大隊を混ぜただけのありきたりな編成にすぎない。それなのになぜあそこまで効率のよい攻撃を行えるのか…ハイドリヒ」


 私はハイドリヒの名前を呼ぶ。


 「早急に調べ上げますからご心配いりませんよ総統閣下。しかし総統閣下、アーリア人でもない下等民族の軍隊など我々国防軍、親衛隊の恐るに足りませんk」


 そこまでハイドリヒが話したところで自然と私の口から言葉が零れた。


 「油断をしてはならないぞハイドリヒ。我々の軍隊が屈強である事は間違いない。欧州にとどまらず世界最強である事だろう。しかし、屈強な軍隊を動かすにはそれを消費する装備、石油、人的資源あってこその話だ。ドイツ第三帝国一国だけではいずれ資源が枯渇するときが来るのだ…話の途中で口を挟んで悪かった。ただ、誇りと驕り(おごり)は紙一重という。お前のことだから心配はしていないが一応言いたかったんだ。調査のほうは頼んだぞ」


 私がそう話すとハイドリヒは一瞬驚いた表情をした。普段からずっとニヒルに笑っている彼がこのような顔をするのか。そうこちらが思っていると、


 「承知いたしました。それではすぐに仕事にとりかかります。ハイルヒトラー!!」


 そう言い残し彼は部屋を去って行った。


 「ハイドリヒだ。例の計画は延期させろ。先ほどヒトラーと話をしていたがあの男は真に気を付けるべき心構えができていた。あの男はまだドイツにとって必要だ。分かったな」


 あれほど自尊心に溺れていた男が改心するとは。本当に人というのは変わるものだ。私はこれからのドイツのことを思い1人笑みを浮かべるのだった。


 ハンガリー・コミューンとの戦争が終結し、それから数日が経過した1937年2月1日。一通りの国内の整理ができた私は一息ついていた。


 国民達のたゆみない努力によって国力は急成長をし続けており、軍需工場は50個、民需工場は86個、造船所は5個まで増加した。また、軍事力も着々と蓄えられてきている。ハンガリー戦の時は合計しても歩兵が20個師団しかいなかったが、現在は大一軍である歩兵師団24個師団に加え大二軍である歩兵師団も8個師団準備することに成功し、海岸を防衛する防衛専用の師団、多重帝国沿岸防衛隊も4個師団招集が完了している。


今後は沿岸防衛隊の師団数を優先して増強させながら歩兵師団も準備し、歩兵師団を合計で48個師団準備できれば機甲師団の準備も視野に入れていこうと考えている。


 最後に今後の多重帝国の活動方針だが、帝国の安全性を高めるために航空機の生産を開始することが決定された。そのために必要とされているゴム資源確保のためオランダ領東インドに宣戦布告。即日参戦してくるであろうオランダに歩兵師団24個師団で攻勢をしかけ降伏させる。こちらはオランダに直接接する領土がないためドイツに軍事通行券をもらっている。その影響で講和会議にはドイツも顔を出すだろう。正直オランダ本土はどうでもいい。こちらがほしいのはオランダの傀儡国だからだ。果たしてこの計画が成功するのか…時間を進めよう。


 そういえばウチの総統閣下はチェコスロヴァキアに行ったりイタリアに行ったりしているらしい。名目上は「多重帝国に参加してもらうためのお話し」ってなっているけどそれにしては長い。特にイタリアに行ってから送られてくる手紙にはほんのり香ばしい香りがする。帰ってきたら聞いてみよう。


 「部下に仕事投げつけて食うピザはうまいか」と。


 1937年2月17日、オランダ領東インド国内に共産主義者が急増している、という嘘の情報を元に「オランダ領東インドを助ける」という名目で宣戦布告。しようと思ったのだが…


 「…なるほど、すでに多くの戦争を行ったことによって国際緊張度が大幅に増加。これ以上の戦争を行えばイギリスを筆頭とした連合国が首を突っ込んでくる。と」


 部下からの報告を受けた私は天井を仰いだ。仮に今現在連合国と戦えば、まず間違いなくこちらが負けていたであろう。しばらくは戦争はできないな…そう思っていると、ふとある一つの国が頭をよぎった。


 「そういえばスペイン内戦は終了したのか?あそこは民主主義政権が崩壊してファシストと共産主義者とで戦争が起きている、と聞いたが」


 あそこであればあるいは。そう考えた私の予感は見事的中することとなる。


 1936年から始まっていたスペイン内戦は年をまたいでかなりの年月が経過した1938年2月5日の早朝に決着がつき、国粋スペインがボロボロでありながらもなんとか勝利を収めた。新たに誕生した国粋スペインはその全てがファシストに染まっており、他の主義主張が入り込む余地がなかった。私はこの時を待っていたのだ。


 「1938年5月1日。現時刻をもって我々は国粋スペインに宣戦布告する。政権がずっと長続きしないような不安定な国は将来我々を脅かす民主主義国家へ舵を切る可能性もある。此度の戦争はその可能性を排除するための正当な戦争である。諸君達の奮起を期待する」


 私の号令と共に歩兵師団10個師団がギリシャ領ペロポネソスから出港する。国粋スペインには多少なりとも海軍が存在していたが、我々の活動工作によって国粋スペイン軍は敵が赤道ギニア領に攻撃を受けると勘違いしたため、治地中海を経由してカタルーニャにある海軍基地に強襲上陸を成功させ、同月15日に歩兵師団10個師団が無事に上陸を完了させた。


 その後も歩兵師団による攻撃を続け、7月24日にマドリードが陥落。加えて追加で歩兵師団が24個師団到着し、この戦争の終着点が見えた。バレンシアで3個師団を包囲。31日に殲滅した。そして臨時首都であるセビリアが陥落した8月8日、国粋スペインは降伏した。講和会議ではその全土が多重帝国に併合され、多重帝国はその「保護領」をアフリカまで及ぼした。


 私はその後の戦争を計画しないように指示。沿岸防衛隊の増強を第一とし、次に10月8日に完成した機甲師団を第二、歩兵師団を第三として軍拡を行い、沿岸防衛隊を72個師団準備でき次第生産状況を変更。必要最低限の装備を生産し、残りは戦闘機を大量に生産し、1942年中に連合国と戦えるように備える方針となった。


 しかし1940年6月1日、突如国の方針を変更したドイツ第三帝国がダンツィヒィの割譲を拒否したポーランドに宣戦布告。こちらにとっては寝耳に水どころの話ではなかったが、ポーランドがすぐに連合国に加盟することを考慮し多重帝国は枢軸国からの脱退を決定。ドイツとの関係は著しく悪化したが、逆に我々と同じく寝耳に水であったイタリアとは関係の改善に成功し、イタリアは枢軸国に残ったものの、イタリアと単独で不可侵条約を締結。更にイタリアの首相であるムッソリーニからは、


 「もしもの際は我が帝国を多重帝国に任せる」


 と多重帝国に参加する用意がある事を我々に示してくれた。軍事力として攻撃部隊が歩兵部隊が108個師団、機甲師団が8個師団の合計116個師団、沿岸防衛隊を112個師団準備することができた。空軍も戦闘機を3000機準備することができた。これによって自国の防衛も行えるだろう。海軍においては少し心許ないが、近辺の制海権は奪取できる。想定していた年代より2年ほど早いが時は来た。


 イタリアから帰国し、おみやげで持って帰ってきてもらったピザを食べながら散々私にどやされたコルネリウ・コドレヌア総統閣下は、げっそりとした顔で以下の発表を行った。


 「ハァ…ハァ……多重帝国に仕える国民達よ…ハァ…我々は本日1940年7月21日をもって新…ハァハァ、ちょっと待ってシンドイ……ふぅ、我々は新陣営である『バルカン多重帝国共栄圏』を設立…した……。これには我々ルーマニア鉄衛団の他にユーゴスラビア、アルバニア、ギリシャ、ブルガリア、オーストリア、ハンガリー、国粋スペイン……がァ参加する。我…ゴホッゴホ我々はいかなる国であっても参加を拒んだりはしない…ウーンシンドォ…そして我々バルカン多重帝国共栄圏に牙をむく連合国に通達する…ガンバレワタシアトチョット…1940年8月1日。我々はチェコスロヴァキアに宣戦布告する。目的は「チェコスロヴァキア人をドイツから保護するため」だ。邪魔しないのであれば私たちは連合国に宣戦布告しない。が、邪魔をするのであれば容赦はしない!!連合国諸君達の賢い判断を期待する」


 そう言い終えて私に詰められて精神的に限界であった総統はばったりと倒れる。総統の発表に多重帝国国内は湧き上がったが、枢軸国、連合国は戦争状態であったため、ソ連、アメリカ合衆国は私が仕掛けた軍事クーデターに対応するため、日本に至っては欧州に全く興味を持たなかったため、総統の発表を聞いていたものは誰もいなかった。


 新たに立ち上がったバルカン多重帝国共栄圏。その初陣を飾るために機甲師団がチェコスロヴァキアへ、歩兵師団がチェコスロヴァキア、国粋スペインへと向かっていた。


 戦果はとどまることを知らない。今日も暗い日が昇る。


 ※この物語はフィクションです。現実世界のあらゆるものに合致することはありません。

どうもです!!今回もご覧頂きありがとうございます!!


 この世界での初めての戦争から一気に時が進みました。次の物語ではどこまで時が進むのでしょうか…?また新たに設立されたバルカン多重帝国共栄圏…この陣営の行き着く先はどうなるのか!?


 次回こうごご期待!!

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