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英雄の涙  作者: TNT
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バルカン多重帝国の野望

かつて世界には、オーストリア=ハンガリー二重帝国と呼ばれる巨大な国が存在した。これはオーストリアとハンガリーの両国が合体し一つの国として運用することによって、世界の大国達と肩を並べようとしていたのである。……まぁすぐに瓦解したようであるが。


 ところで本物語を見てくれている読者諸君達はルーマニア、という国をご存じだろうか。14世紀末にはオスマン帝国に支配され、19世紀にロシアに征服され、第一次世界大戦に参戦し、トリアノン条約によってようやく安定した大国になったものの、二次大戦では、


「」


という結果になった国である。もう散々な国であるのだ。著者もルーマニアには生まれたくないとはっきり言える。だって寿命で死ねるか怪しいもの。


 …二次大戦の時の結果が読めない?そんなハズはないのだが・・・おっと、これは失礼。私としたことがうっかり二次大戦時のルーマニアについての記載を忘れていたようだ。お詫びもかねて、二次大戦時のルーマニアの結末を私自ら説明させて頂こう。


 ※本作でも「~個師団」といった表記があるが、これは「1個師団=1万人」と捉えていただいて構わない。10個師団=10万人という計算になる。おぉ怖い怖い。

 ルーマニア、人口総数27万人、政治体制は民主主義が60%を占め、およそ16万人が民主主義を支持している。軍需工場が7個、民需工場が8個、造船所が2個の所謂小国であり、軍隊は31個師団。しかし、人員も装備も何もかも不足しているため、隣国であるドイツと同じ水準で合わせれば2,3個師団程度しかない。


 時は1936年1月1日、イタリアがファシストに染まり、ナチスが政権を奪取したドイツは軍拡を続けている。欧州に黒い風が吹いている…書類を確認しながら私はため息をついた。今現在は特に両国に戦争の兆しは見えないが、軍備を拡大させているということはいずれ起きるのだ…第一次世界大戦より大規模な戦争…第二次世界大戦が……


第二次世界大戦が始まれば我々はイギリスが主導の連合国か、ソ連を筆頭としたコミンテルンか、またはドイツが盟主を努めている枢軸国かに所属しなければならない。今現在ルーマニア国民の多くは民主主義を支持している。このままではルーマニアは連合国に所属するだろう。しかし、現在の連合国は決して強くはない。


 フランスは敗北主義が蔓延しており、下手を打てばパリが落とされれば政府は降伏するかもしれない。また、イギリスは植民地支配がうまくいっておらず、ロイヤルネイビーこそ強大ではあるが空での戦いに負ければイギリス本土に空挺師団が投下され橋頭堡を確保するだろう。


 それにアドルフ・ヒトラー率いるドイツにはマンシュタインやグデーリアン、デーニッツといった優秀な将軍で溢れかえっており科学力は世界一、とも言われている。…第二次世界大戦が勃発すれば、まず間違いなく枢軸国が勝利をするであろう。そんなときに我が国が民主主義を掲げていればどうなるかは想像に難くない。


 しかし、現在の我々ルーマニアの首相であるゲオルゲ・タタレスクはあくまで民主主義を貫く方針のようだ。必要に迫られて政権を変えた時、軍事力は強くはないだろう。そしてそのような中途半端な国力は国民に不安を与え、不安が爆発したときには…


 改めてため息をつく。私は今年から軍需大臣になった。すなわちルーマニアの軍事を担当しているのだが、仕事が多すぎる。20歳の若造にさせる仕事ではない。あの方がいればもっと楽に仕事ができたのに…なんでいきなり軍需大臣をやめちゃったのコルさん…本日何度目か分からないため息が口からこぼれる。


そう、私はこの前までルーマニア国軍の元帥を務めていた。そして大元帥として、軍需大臣を務めていた先輩がいたのだ。酒で酔っ払えばドイツ、イタリアを例としてあげながらルーマニアのファシスト国家、「鉄衛団」の建国を主張し度々国王から怒られ、しかしルーマニアのことを何より第一に考えていた先輩がいたのだ…数日前から書き置きもなしにどこかへ消えてしまったが。


 いない人のことを考えても仕方が無い。私は再び作業に取りかかる。今日も仕事が盛りだくさんなのだから。そう思った時だった。私の机にあった受話器から電話がかかったのだ。今から仕事なのに…そう思って受話器を取った私は、その日1月1日を忘れられない日となる。何せ電話がかかってきたのは…


 「よう。久しぶりだなぁ。軍需大臣に無事に就任されたようで何よりだわ」


 突然煙のように消えたその先輩だったのだ。


 「コル先輩!?今までどこに消えていたんですか!?私がどれほど心配していたと思って!!」


 そこまで叫ぶように話していた私は先輩からの言葉で遮られる。


 「はいはい悪かったって。とはいえ私はもうルーマニアに戻るつもりはないんだけどな」


 先輩のその物言いに私は違和感を覚えた。ルーマニアに戻るつもりはない。しかし私に電話をかけてきた。…嫌な予感がする。そう考えていると、


 「今日お前に電話をかけたのは他でもない。俺の野望を手伝ってもらおうと思ったからなんだ。俺の掲げる…『バルカン多重帝国』の野望をな」


 そう答えを返してきたのだ。…バルカン多重帝国。かつて先輩が掲げていたルーマニア、いや鉄衛団の最終到達目標のことだった。


 はるか昔、オーストリアとハンガリーとの間で合体した国家が存在していた。オーストリア=ハンガリー二重帝国。今は解体されたが、多民族国家のモデルとなった国が確かに存在していた。オーストリアとハンガリー、二国で二重帝国なら、バルカン全域の全ての国々、それはバルカンに存在する多重な帝国、つまりバルカン多重帝国なんだよ、と先輩はいつも言っていた。それを実現に移す…?聞きたい事は山ほどあったが、まずは返事を返さねばならない。私は…


 「詳しい内容は今はいいです。どうすればいいでしょうか?」


 そのように返事を返していた。何を隠そう、私は先輩の掲げる「鉄衛団」建国に賛成した第一人者なのだから。


 そして1936年2月22日、私がコルさんと呼んでいたコルネリウ・コドレヌアを臨時首相とする「ルーマニア鉄衛団」がルーマニアに対して宣戦布告。内戦が勃発したのである。


 そしてその内戦時に私は…相変わらず仕事に忙殺されていた。コルさんから内戦を起こす日を知らされていた私は内戦勃発数日前に突如ルーマニア国軍に対して師団の再編成のために既存の部隊を解散させるように指示しながらも騎兵隊を1個師団ほど準備するように密かに手配し、内戦発生時に即座に騎兵師団をルーマニア臨時首都である北トランシルヴァニアの手前のトランシルヴァニアに配備。何が起きたのかさっぱり分からず混乱しているルーマニア政府に攻撃を開始させた。


 ルーマニア政府は大混乱に陥りながらも第一首都が陥落すれば第二臨時首都、そこが陥落すれば第三臨時首都、そこもだめなら大四臨時首都と数回にわたって臨時首都を設定し、ルーマニア軍の到着を待った。


 しかし、それも私の想定内の内容であった。そのため私は事前に元ルーマニア軍達に勉強のためにドイツに出向かせていたのだ。彼らが戻ってきたときにはルーマニアが鉄衛団になっているようにするために。


 そして第四臨時首都が陥落した時にルーマニア軍の多くが鉄衛団に属したことを知ったゲオルゲは絶望し自殺。ついに3月22日、実に内戦が勃発してから1ヶ月でルーマニアはその名を鉄衛団と変え、国内はファシストを主体とする国家へと生まれ変わったのであった。


 「聞かしてもらいますよコルさん。バルカン多重帝国のこと」


 内戦が終了した後、私はコルさんに詰め寄る。クーデターによって誕生したルーマニア鉄衛団。その首相はそのままコルネリウ・コドレヌアが務めることなり、私は新生ルーマニア鉄衛団の軍需大臣を務めることとなった。そして手続きが完了した後の私の質問に対し彼は、


 「…分かった分かった。実はな、ユーゴスラビア、アルバニア、ギリシャ、ブルガリア以上4カ国の首脳達と会談する機会があってよ、その時に各首脳が言ってたんだ。ファシスト達の矛先がいずれ我々に向くのではないか、と。まぁそりゃ向くだろうさ。ユーゴスラビア、ギリシャはドイツ、アルバニア、ブルガリアはイタリアが併合するだろうから。


だから俺は言ったんだ。そりゃそうだろ、って。とはいえ俺たちルーマニアも例外ではない。ハンガリーは俺等が奪ったトランシルヴァニアを取り返そうとしてドイツに近寄っている事が見て取れたし、ソ連も同様に我々に向けて戦争の準備をしている。…お互い国家の存続が将来的に怪しくなる。その条件の一致に元…」


 そこで彼は一度一呼吸はさみ、一気にまくし立てる。


 「俺たちはバルカン多重帝国の建国を取り決めたんだ。弱い奴らは手を取り合うしかないんだから。んでもって帝国、と銘打っているのに主たる国家の政治体制が民主主義では示しがつかねぇからな。だからクーデターを起こして名前をルーマニア鉄衛団、と変えたんだよ。」


 彼の話を聞き、ただただ私は驚愕していた。国を捨てた恥知らず、と一部から叫ばれていたコルさんだが、実際は自国、そして他国の行く末を心配して行動をしていたのだ。そして私は軍事に携わってきたからこそ、現在のバルカン地域がどれほど危険かは身にしみて分かっていた。どこかが宣戦布告されれば一気に大きな戦争へと変貌していくだろう。だからこそ事前に手を打ち、他国に干渉されなくても自国で防衛できるようにしようとしていたのだ。


 そんな大規模な計画があるなら私にも教えてほしかった、という子供のような言い分は心の中にしまい込み、私は速やかに作業に取りかかった。


まずはユーゴスラビア、ギリシャ、アルバニア、ブルガリアの首脳達と会談を行い正式にバルカン多重帝国の一部となることに同意してもらい、そして正式に国々を合体させた。かつてのオーストリア、ハンガリーのように。そして…


 「えーコホン。ルーマニアの、ユーゴスラビアの、ギリシャの、アルバニアの、ブルガリアの国民諸君達。私がコルネリウ・コドレヌアだ。このルーマニア=ユーゴスラビア=ギリシャ=アルバニア=ブルガリア五重帝国の総統である。…うむ、諸君達が何を言いたいのか分かるぞ?」


 彼の話に国民達は耳を傾ける。


 「いや名前なっっっっっっが!!何個の名前繋げとるねん!!どっかを代表して言えや!!、と」


 彼のツッコミにその場で話を聞いていた国民達はドッと笑う。しかし…


 「私もそれは考えた。だってなげぇもん。一々我々~五重帝国は~なんていってられねぇし。けどよ、この五カ国、どれも大事なんだ。だから、1936年4月1日を持ってこの新しい国の名前を正式に発表する。…ルーマニア多重帝国だ!!我々はどのような国であっても、どんな人種であったとしても否定しない!!多種多様な種族達が永久に平和に暮らせる世を俺達で作るんだ!!」


 彼がそう高らかに宣言すると、国民達は涙を流して歓喜していた。感情がせわしない国民達だなぁ…そう思っていた私だったが、私にのんびり感想を述べている暇はない。これからの方針が何も決まっていないのだ。ルーマニア多重帝国民達が酒を飲んでどんちゃん騒ぎをしている中、私は仕事にとりかかるのであった。


 まずは国力だ。様々な国が合体したおかげで、小国とは呼ばれなくなった。工場数としては、軍需工場が9個から16個に増え、民需工場は19個からその数を44個まで増やした。造船所も2個から5個まで増大し、合計は30個から65個まで増えたのだ。さすがにドイツには叶わないが、イタリアぐらいであれば工場数は追い抜くほどには拡大できた。しかし陸軍については40個師団ほど集まったがどの部隊も充足率が酷い。なので内戦前と変わらず軍隊は全て解散。装備が貯まるのを待って正規の歩兵師団、将来的には機甲師団を準備するようにすることとした。空軍についても他国でほぼ生産していなかったため大した増強は見受けられない。しかし、海軍に関しては小規模ながらもある程度の準備をしていたようであり、最終的に重巡洋艦1隻、軽巡洋艦2隻、駆逐艦9隻からなる第一艦隊と潜水艦10隻からなる第二艦隊を準備することができた。これらもだいぶ型落ちであるため大した戦力にはならないが、それでも自国周辺の制海権ぐらいは確保できるだろう。


今後としては、民需工場を優先的に建設させ、1936年の夏以降に軍需工場の建設に取りかかる。また陸軍に関しては同じく1936年の夏までは歩兵師団を生産し、それ以降はその時に様子を見て今後の対応を変えようと思う。


 内戦終結から数ヶ月が経過し、1936年9月1日になった。この時点でどれほど国力が増大したのかを視察に行ったのだが、正直腰を抜かしそうになるほど驚いた。なぜなら…


 16個だった軍需工場は44個に増え、44個だった民需工場は54個まで増えていたからである。どうやら部下が民需工場の増設を軍需工場の増設と聞き間違えたようであり、途中で気付いて慌てて指示し直したらしいが、それにしてもあまりにも建設速度が速すぎる。現時点でもう既に工場数はドイツを追い越しており、アメリカの工場数に迫る勢いであるのだ。建設を管理している人間に話を聞いても、朝の9時から夜の6時までしか働かせていないようであり、現場の人間に話を聞いても、特に違法な勤務をさせられている訳でもない。ただこの国を想って働いているようであった。


 国を想うその心、そして愛国心による身体能力の向上には恐ろしいものがあるものだ…帰宅後私の執務室でそう思っていると、部屋の扉がノックされた。誰だろう、総統であればノックなしに部屋に入ってくるし…そう思いながらもどうぞ、と声をかけると…入ってきた人物にまた腰を抜かすことになる。入ってきたのは総統だった。しかしそれは鉄衛団総統ではなく…


 「失礼するぞ、鉄衛団軍需大臣よ。ドイツ第三帝国総統、アドルフ・ヒトラーだ」


 ドイツ第三帝国の総統閣下だったのだ。


 「これはこれは…遠路はるばるお越し頂きありがとうございます。お茶をお入れしたいのですが、突然の訪問に感服して腰が抜けてしまいまして…」


 慌てて言い訳を探している私に対し金髪の青年が返事を返しす。


 「我が総統閣下のお姿に感服したとは殊勝ですね。なに、心配いりませんよ。要件は一つだけですので…と自己紹介を忘れていました。私はハイドリヒ。ラインハルト・ハイドリヒです。今はドイツ親衛隊の諜報部の長官を務めています」


 とハイドリヒが答えた後、ヒトラーが口を開いた。


 「バルカン多重帝国の復興速度には目を見張るものがある。今現在は歩兵16個師団しか保有していないようだが、いずれ我々と同じような軍隊を保有すると想像できる。そこでだ、我々ドイツ第三帝国の陣営である枢軸国に入らないか?今現在軍備に困っているのであれば我々の部隊と将軍を派遣することも考えている。お互いにとって悪い話では無いと思うがどうだ?」


 概ね予想していたが同盟の打診だったか…ウチの総統は今日は遊びに行っているため実質最高権力者は私になっていた。それを見越しての今日の訪問であればこの総統閣下、もしくは横にいる金髪の考えかもしれないが、頭が切れるどころの話ではない。断ることは論外だが、幸い我々とドイツの間には国がいくつか存在している。これをうまく交渉に持ち込めば…考えた後に私の出した結論は…


 「お疲れ様でした総統閣下。無事にバルカン多重帝国を我々の陣営に引き入れることに成功しましたね」


 ハイドリヒからの嫌みたっぷりな言葉に吐き捨てるように


 「オーストリア、ハンガリー、オランダ領東インド、スペイン全土がバルカン多重帝国に併合されることを許されるのであれば加入する。この結末を成功と言えるわけないだろ。こちらのうまみがなさ過ぎる。今は連合戦のことがあるから加盟させるが、連合国戦が終了し次第バルカン多重帝国に向けた対策を練るぞ」


 そう毒づき私は足早にベルリンに帰宅するのであった。


 時は1936年9月11日。オーストリアに対する戦争準備が完了した。9月1日より10日間。この間はオーストリアに将来訪れるドイツからの併合の脅威を説明し、穏便にルーマニア多重帝国の参加国の一部にならないか、と説得を試みていた。しかし、国民達はこれに賛成した一方で軍部達がこれに反発。結局交渉は決裂し、これよりバルカン多重帝国は来る対戦に備えるためオーストリアに宣戦布告することとなった。


 戦果の炎が巻き上がる。この世界でもまた、バルカンの火薬庫が爆発するのであった。


※この物語はフィクションです。現実世界のあらゆるものに合致することはありません。


どうも!!TNTです!!今回も本物語をご覧頂きありがとうございます!!


今回はルーマニアを主人公とした物語となっております。バルカン地方にある爆薬の内の一つですね()


今回はルーマニア王国がルーマニア鉄衛団となり、そしてその国名をルーマニア多重帝国と変更したところまでで終了しました。これから始まるオーストリアとの戦争。そしてその先にあるであろう戦争の数々…


今後のルーマニア多重帝国がどのようになっていくのか、是非とも想像されながら本物語をお読み頂けますと幸いです!!


ではでは!!

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