独り善がりの話
連載ですが思い付いたら足してくので続きは期待しないでください
自分だけを愛し、自分以外を蔑ろにするような、そんな男がいました。
彼には幼馴染の女がいました。女のくせに、まったく女らしさの無い女でした。
男は気が付いていました。
女が、自分を好んでいることを。自分の名を呼ぶ彼女の声に喜色が滲んでいるのを知っていました。
だから、利用してやろうと思いました。自分を好いているのなら、自分の役に立つことを喜ぶだろうと。
男は彼女に甘い言葉を吐きました。嘘に塗れた、甘言の数々。
嬉しがると思いました。頬を朱く染めるに違いないと、確信していました。
内心嘲笑いながら彼女の顔を見てみれば────彼女は悲しそうな顔で、男を見つめていたのです。
どうして、そんな顔をするの?
嬉しくないの? いつだってあんなに、嬉しそうに自分の名前を呼んでいたのに。
何故だか、男は裏切られたような気持ちになりました。
馬鹿にされたようだと思いました。
男はあまりにも女が憎たらしくて────殺してしまいました。
時が経ちました。
輪廻をめぐり、男は別の生をもって女と再会しました。
男は嬉しくて、手を伸ばしました。
しかし、手が届く前に女は死んでしまいました。
男は女に会うために、何度も輪廻をめぐりました。
しかし、何度見つけても、女は死んでしまいます。
男は諦めませんでした。諦められませんでした。
独り善がりの彼は、女を殺してしまったことを悔いてなどいませんでした。
ただ────もう一度、話がしたいと思ったのです。
彼女が自分だけに向けてくれる、優しい笑顔を見たいと思ったのです。
男は、何度も死んでしまう彼女を逃がさないために、魂にある細工を施しました。
それは不死の呪い。
死んでしまうのなら、死なないようにすればいいと考えたのです。
身体が腐っても死なない、魂を固定化して動けなくする呪いです。
かくして、男の画策は成功しました。
女は一度死にましたが、現世に留まることができました。
やっと捕まえた。これで話ができる。
男は女に問いました。
「どうして、笑ってくれなかったの」
もっと聞きたいことはあったはずでした。
自分を好きではなかったのか。自分を馬鹿にしていたのか。
そんな言葉よりも先に出てきたのは────悲しさに満ちた、自分の声でした。
「どうして、怒ってくれなかったの」
殺してしまったあのとき、彼女は悲しい顔をしていました。
「きみは……かわいそうなやつだな」
それが、最期の言葉でした。
「僕は、可哀想なヤツなんかじゃない。可哀想なのは、君の方じゃないか」
男の言葉を、女は静かに聞いていました。
人ならざる者の身体にされたというのに、女は冷静でした。
「きみが、きみらしくいてくれることが、何よりの幸せだったよ」
やがて開かれた女の口から、答えが出てきます。
「きみが私を面倒に感じていることは知っていた。私の想いを嗤っていることも知っていた。それで構わなかった。きみのすべてを愛していたから」
そう言って微笑んでくれる。求めていたはずの女の笑顔はあまりにも痛々しくて、男は言葉を失いました。
「だからね、とても悲しかった。私の想いを利用するために、わざわざ嘘をつかせてしまったことに。私なんかに、気を遣わせてしまったことに」
嘘偽りなく、ただ利用してくれれば良かったのに。
彼女の言葉のどれもが、悲しく、苦しいものでした。
「私なんかにそうまでしないといけないきみが…………とてもかわいそうだと、思ったんだ」