07.思い悩む騎士様
それからも、ルディさんはカール様からの手紙を毎日届けてくれた。
季節は秋を過ぎ、寒い冬を迎えていた。
それでもルディさんは「ついでだから」と言って、毎日毎日手紙を届けてくれる。
「こんにちは、ユリアーネ」
「こんにちは、ルディさん。今日も寒いですね」
庭に積もった雪をかき終わったところで、今日もルディさんは馬に乗ってやってきた。
「ああ本当に。今日も雪をかいていたのか。手が赤くなっている」
「あ……」
馬から下りると、ルディさんは私の手を取ってぎゅっと握りしめた。
ルディさんの手はとても大きくて、あたたかい。男の人の手だ――。
毎日の水仕事であかぎれができた指はこの寒さと相まって恥ずかしいくらい赤くなっていた。
ルディさんにこんな荒れた手を見られるのは恥ずかしい。
「……あの」
「これは、失敬! 君には婚約者がいるというのに」
つい、顔に熱を持つ。
だってルディさんは素敵な男性だから。
私に婚約者がいなければ、好きになっていたかもしれない。
「いえ、ご心配いただき、ありがとうございます」
「本当に失礼した。これは今日の分だよ」
ほんのりと頬を赤らめて咳払いをすると、気を取り直すように胸ポケットから手紙を取り出すルディさん。
ルディさんの体温で、手紙はほのかにあたたかい。
「もしよろしければ、中で少しあたたまっていきせんか? スープがありますよ」
「それはとても魅力的な誘いだが、今日は遠慮しておくよ」
「遠慮なんてしなくていいのに」
相変わらず真面目なルディさんに、ふふっと笑みをこぼす。
「……ユリアーネ」
「はい」
何か、改まった様子で私の名前を呼ぶルディさんに、顔を上げる。
冬空の下で、今日もルディさんの綺麗な銀髪が輝いている。
「……」
「……?」
何か言いたいことがありそうなのに、言いにくそうに視線を逸らされ、首を傾げる。
「ユリアーネ、実は――」
「……っくしゅん」
せっかくルディさんがお話ししてくれようとしていたのに、間が悪くくしゃみをしてしまった。
「すみません」
「いや、こっちこそ。寒い中引き止めてしまったね」
「大丈夫です。それで、お話しは?」
「……いや、またにしよう。今日は早く部屋に入ってあたたまるんだ」
「ですが……」
「また明日来るから」
「……わかりました」
ルディさんは優しく、けれど有無を言わせない言葉を残して馬に跨がると、小さく微笑んで帰っていった。
でもその笑顔は、どこか切なげに見えた。
*
翌日も約束通りルディさんは手紙を持ってきてくれた。けれど、昨日の続きはお話ししてくれなかった。
気になるけれど、何かとても言いづらそうにしている彼の顔を見ていると、無理に聞くこともできなくて、そのまま時間は過ぎていった。
それに、なんとなく聞いてはいけないような気もした。
それを聞けば、何かが壊れてしまうのではないか――。
根拠はないけれど、そんな予感が胸に湧いて、ルディさんが話してくれるのを待とうと、そう思った。
それからだんだんと暖かい日が増えていき、積もった雪はすっかり溶け、季節は春の訪れを告げていた。
カール様からの手紙は、今でも毎日欠かさずルディさんが届けてくれる。
大雪の日も、大寒の日も。あれ以来、途絶えたことは一度もなかった。
そこまで無理をして届けてくださらなくていいですよと、何度か伝えてみたけれど、彼は鼻を赤くして「大丈夫だ」と笑うのだった。
そんな姿に、私の心は徐々にルディさんに惹かれていってしまっていることに気がついた。
でもそれは、決して認めていいものではない。
だけどカール様からの熱い恋文を読めば、その気持ちは抑えることができた。
以前とは違い、毎日綴られるその内容も言葉に尽きることがなく、私のことをどれだけ想ってくれているのかが伝わってくるような、とても素敵なものだったから。
カール様にお会いしたことはない。
最初はこの家を出ていくための婚約だと思っていた。
けれど、今は違う。
私はこの手紙を書いてくれている相手に恋をしている。
ルディさんはとてもいい人だけど、私のお相手はルディさんではない。
私が好きなのは、毎日欠かさずこの手紙を届けてくれるルディさんではなく、毎日欠かさずこの手紙を書いてくれている、カール様だ。
そんなカール様ともうじきお会いできると思うと、胸が熱くなった。
……ああ、あなたは一体どんな方なのかしら。
ううん、見た目なんて関係ないわ。
私にはこの手紙がすべてよ。
毎日欠かすことのない手紙からは彼の気持ちが伝わってくる。
形式的に婚約者に綴っているものではなく、心から私を想って書いてくれているのだということが、よくわかる。
これほど素敵な文を綴ってくださる方なのだから、とても素敵な方に違いない。
その日を心待ちにしながら過ごしていた、そんなある日――。
一通の手紙が届いた。
ルディさんからではなく、配達員の方から。
もちろん一般の郵便物はこうして届けられるのだけど、私が眉をひそめたのは、差出人がカール様だったから。
いったいどうしたのだろうかと、なんとなく嫌な予感を抱きつつ、封を切った。